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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
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6-17 飛竜の偶像

 竜暦6561年9月20日


 井戸用水魔石の魔力切れの合図が鳴ったので、俺は新しい井戸用水魔石をセットするとサリスに話しかけた。


「操船交代するよ」

「うん。私はアミとオルを起こしてくるわね」


 時間を見ると12時10分だ。

 夕方には島嶼都市タゴンに到着するので仮眠を取っているオルとアミを早めに起こす。

 理由は遅くまで寝てると島嶼都市タゴンの宿についてから夜になってベッドで寝れなくなるからだ。

 少し酷だがそこはしょうがないと二人も割り切って納得してくれている。


 旅をする上で猫人族の暗視という加護に助けられている。

 時期がきたらオルとアミにはなにか特別にお礼をしなくてはいけないなと俺とサリスは常々思っていた。

 二人でよくお礼はなにがいいかと議論するがまだ具体的なお礼を考え付かない。

 旅を終えるまでには、見つけたいなと話をしている最中である。


(間違いなく一番喜ぶのは出生率を改善する方法だよな…)


 俺とサリスがお礼を議論してても、いつも出生率改善策という点で議論が止まってしまう。

 旅を続けて精霊や聖地について調査をすることが一番のお礼なのかもしれないと思っていると、アミとオルが船室から出てくる。


「早く起こしちゃってごめんな」

「いいですよ。今日タゴンに着く予定なんですから」

「宿の部屋に期待です!」

「二部屋とれるといいな」

「はいです」

「そういえばあの宿の部屋から釣りが出来るんじゃないです?」

「あー、道具さえあれば出来そうだな」


 オルの言葉に俺はうなずいた。


「船釣り用の竿が使えないですかね」

「餌と釣り針と浮きを用意できれば使えるかな」

「明日釣具屋を探して見ましょう」

「そうだな」


 そんな話をするとアミが口を挟む。


「それより明日は休みにして遊びたいです」

「アミさんはタゴンで行きたい場所があるんですか?」

「あのミルクの海に行きたいですー」

「確かにあそこならノンビリできるわね」


 アミの言葉にサリスもうなずく。


「あそこじゃ透明度が高くないから水中散歩は別の場所だな」

「あー、そういえば水中散歩があったです」

「アミの希望だしミルクの海にはいこう。あと水中散歩の場所は地元の住民に綺麗な場所を尋ねてから決めようか」

「それがよさそうね」


 オルが俺に話しかける。


「ベック、ミルクの海なら人もいないだろうし例のテストが出来るかも」

「あー。たしかにそうだな」


 サリスとアミがテストという言葉に食いつく。


「なに?例のテストって」

「あれ、ベックは二人に話してなかったんですか?」

「あー、忙しくて忘れてたかも」


 俺はアイテムボックスから飛竜の偶像を取り出す。


「オル、いま操船してるから二人にその玩具の説明をしてくれるかな?」

「いいですよ」


 オルに飛竜の偶像を手渡す。


「この飛竜の偶像はパラノスで広く普及している簡単な術式を組んでいるマジックアイテムの玩具です」

「玩具なのね」

「二枚一組のカードで、この青いカードを手に持って簡易スペルを唱えると赤いカードから飛竜が出現して上空に舞い上がり破裂して夜空に煌めきを描くんですよ」

「それって危険です!」

「安全を考慮して術式が組み込まれていて、かなりの距離を青いカードと赤いカードの距離を離さないと起動しないようになっているんですよ」

「どのくらいの距離をとるのかしら?」

「だいたい10mくらいですね」

「それだけ離れていれば安全だわ」

「でも火事になるです」


 アミがそこに気づく。


「上空に上がって破裂してから煌めくのは数秒程度ですし地上に落ちてきたときには火が消えてるようになってますから平気なんですよ」

「普及してるってことはきちんと考慮されているわけね」

「はい」

「でもバイムでもクシナでも他のパラノスの街でもそんな玩具が打ち上がってるのを見たことがないです!」

「アミのいうように見たことないわね」

「主に年明け前後に使うんですよ。あとは子供が生まれたとかのお祝い事の時なんかに使うので頻繁にはやってないはずですよ」

「たしかに説明を聞く限り使い切りのマジックアイテムのようだし、そんなに頻繁に使うとお金が持たないわね」

「そうですね」


 サリスもアミも飛竜の偶像について理解できたらしいので、俺は操舵輪を持ちながら話しかける。


「今回のテストはその飛竜の偶像の赤いカードを破砕粘土に練りこんで使おうって話なんだよ」

「「!」」


 サリスとアミが凄い勢いで俺を見る。

 先日オルからも同じような顔をされたいた。


「それって青いカードを使えばいつでも起爆できるってことよね」

「まだテストしてないから失敗するかもしれないけどね」

「失敗してもその玩具の術式が分かれば実現できるです!」

「うん、アミのいうようにその点も考えてるよ。上手くいけば中型以上の魔獣討伐のセオリーが変わる可能性が出てくるな」


 俺の言葉に三人がうなずく。


「それが上手くいけば中型魔獣の討伐が一人で出来るわね」

「ただしかなりのお金を消耗することになりますから、使える人は限られますね」

「えっとこの話は他の人には話さない方がいいと思うです」

「確かにアミのいうように当分黙ってた方がいいわね」

「そうですね」


 三人ともその考えに辿りつくんだなと俺は感心した。

 俺も同じ意見だった。

 立派な商売になりえるだけの消費系マジックアイテムになる。

 きちんと商品にしてから独占販売するほうがお金も稼げるので今後の旅が楽になるはずだ。


 いま検討している飛行船建造の費用も工面する必要があるのだが、これが上手くいけばかなりの儲けになり資金集めも楽になるはずである。


「とりあえず当面は俺達四人の秘密にしておこう」


 サリスとアミとオルが俺の言葉を聞いて大きくうなずく。



 新型破砕粘土の開発の話をしてから6時間後、俺達は島嶼都市タゴンに寄港した。


 エワズ海運事務所で手続きを済ませてから上陸した俺達は以前泊まった水上コテージの宿に向かう。

 受付で確認すると部屋の空きは十分にあるということだったので、俺はアミの希望通り二部屋確保する。


 二部屋とれた事にオルが恥ずかしそうに俯いて、アミが飛び上がって喜んでいたのが印象的だった。

 こういった場面では普通、女性のアミの方が恥ずかしそうに俯いて、男性のオルの方が飛び上がって喜ぶんだけどなとついつい思ってしまい噴き出しそうになった。


 しかしここで笑うとオルに悪いので俺はグッと我慢して部屋に向かう。


「食事は一緒に食べましょ」

「わたしも作るのを手伝うです」


 俺は船旅で疲れている女性陣を気遣って外で食べることを提案する。


「今日はもうこんな時間だしみんな疲れてるようだろうから自炊じゃなくて外食でもいいんじゃないかな」

「それでもいいわね」

「僕はどちらでもいいですよ」

「じゃあ、外で食べるです」


 部屋に荷物を置いた俺達は夕暮れのタゴンの街を歩いて、宿の受付で聞いた海に面したカフェテラスに向かう。


 海が一望できるテーブルに案内されたので、俺達は暮れ行くサンセットビューを存分に楽しんだ。

 しばらく景色を楽しんでいると店員が注文した料理を運んできた。


「魚介のカリーです」


 そういって持ってきた料理を見ると普通のカレーではないのがひと目でわかる。

 白いカレーだ。

 俺はスープを味わって納得した。

 ココナッツミルクだ。

 3人もココナッツミルクと香辛料そして魚介から出る旨味のハーモニーを楽しんでいる。


「これってココミルクね」

「ん、サリスはこのミルクを知ってた?」

「食材屋で売ってたの見たのよ。こうやって使うのね。味も悪くないし前回来た時に買えばよかったわ」

「なんで前回は買わなかったんですか?」


 オルが疑問に思いサリスに尋ねる。


「お店の人の話でお菓子の材料として使うって聞いてたからなのよ」

「なるほど。それも間違いではないんだろうけど食事にも使えるって事だな」

「そうね」


 食事を食べ終えた俺達はココナッツミルクを入れたコーヒーを飲んで一息つける。


「ココミルクコーヒーは苦くないです!」

「ああ、これはこれで美味しいな」

「前回のタゴンは自炊ばかりでしたし、惜しいことをしましたね」

「本当にそうね。地元の料理に触れておくべきだったわ」


 ココナッツミルクを入れたコーヒーを飲み終えてカフェテラスを出たときにはすっかり辺りも暗くなり星空が出ていた。


「このまま宿に戻ってもいいけど街の近くにある砂浜にいってみない?」

「散歩?」

「いやせっかくだし飛竜の偶像を使ってみたいかなと思ってね」

「いいですね」

「試してみるですー」

「10セットしか買ってないから砂浜で1回だけ使ってみるよ」


 月明かりも十分明るいが、俺とサリスは迷宮灯の灯りを頼りに夜の砂浜に向かう。

 ちなみにオルとアミは暗視の加護のおかげで走って砂浜に向かっている。


 砂浜に到着した俺達は早速、飛竜の偶像を試すことにした。


 俺は赤いカードを砂の上において三人の元に戻る。


「じゃあ、だれか簡易スペルを唱えたい人いるかな?」

「わたしが唱えるです!」


 ビシっと手をあげるアミがそこにいた。

 俺は対になっている青いカードをアミに手渡すとアミが《ファイア》と簡易スペルを唱える。


 赤いカードから光る飛竜が現れ真上に勢いよく飛んでいく。

 かなり上がったところで飛竜が弾け飛んで、光の煌めきが球状に広がっていく。

 まさしく打ち上げ花火である。


 夜空に広がる光の花を見て俺達は感嘆の声を上げた。


「すごく綺麗です!」

「綺麗しか言葉が出ないわ」

「今年の年明けに見て以来ですけど、やはりいいもんですね」

「予想以上に凄い玩具だな」

「そういえば値段はいくらだったの?」


 サリスが値段を尋ねてくる。


「クバの雑貨屋で1セット銅貨70枚だったかな」

「ちょっと高めの値段なのね」

「パラノスに行けばもっと安く手に入りますね」

「大量に買うならバイムで購入したほうがよさそうです」


 アミの言葉に俺達はうなずく。


 俺は島嶼都市タゴンの夜の砂浜で飛竜の偶像の可能性に想いを馳せた。


2015/06/16 脱字修正

2015/06/16 誤字修正

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