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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
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6-4 お土産

 竜暦6561年9月7日


 午前中サラガナル馬車工房に行き解体した馬車を乗せた荷車を港湾に運び、係留している小型船の船倉にしまっていく。

 馬車工房の従業員の方にも手伝ってもらったので結構手早く作業が終わった。


 サラガナル馬車工房に空の荷車を届けにいくとサラガナルさんが一台の馬車を見せてくれた。


「これってもしかして」


 サラガナルさんが馬車の車軸を指差す。


「板バネを組み込んでみた試作の馬車だ」

「組み込むのが早いですね」

「まだまだ改良点があるがな」

「それでも今の馬車より揺れが軽減されているなら、このままでも売れそうですね」

「売るほうは問題ないが、それよりも先に片付けることがあってな」

「え?」

「従来の馬車に簡単に取り付けられるように小型化しようってことさ」

「なるほど、既存のお客さんの馬車を改造するんですね」

「ああ、馬車っていってもそうそう新しいものは売れないからな。今までのお客さんが補修で馬車を持ち込んだ際に改造の話をしようと思ってるのさ」

「たしかにそのほうが需要がありますね」

「うむ。うちも従業員を食わせていく必要があるんでな」


 そういってサラガナルさんがにやりと笑う。

 板バネの改造でかなり儲けるつもりのようだ。

 意気込みがこちらにも伝わってくる。


 俺達はサラガナルさんに深くお辞儀してサラガナル馬車工房をあとにした。


「さてここからは予定通り二手に分かれようか」


 オルとアミがうなずき魔石工房に向かった。

 二人は井戸用水魔石の調達とお土産を買いにいくという話だった。

 俺とサリスはエワズ海運商会の事務所に向かい明日の出港手続きを済ませた。


 事務所を出ると14時である。


「さてとあとはお土産と食材の購入だな」

「さきにお土産を買いに行きましょ」

「じゃあ、装備工房だな」


 サリスがうなずく。

 港湾都市トウキの装備工房を訪れた俺とサリスは店員に声をかける。


「すいません。ヒノクスソードを7本買えますか?」

「あ、サリスもう2本追加でお願い」

「9本もですか?」


 店員が不思議そうな顔をする。


「知り合いにお土産で贈るんですよ」

「なるほどそういうことでしたか」


 店の奥にいった店員がヒノクスソードを9本持ってきた。

 サリスが一振りづつ鞘から抜いて刃紋を確認する。

 全て素晴らしい刃紋だ。

 サリスも満足したようで全て包んでもらい代金を支払う。

 そのあと俺はヒノクスソードを全てアイテムボックスにしまい装備工房をあとにした。


 少し動きづめだったので大通りのカフェテラスで休むことにした。

 ヒノクスでは珍しくコーヒーのあるカフェだったので俺は迷わずコーヒーを注文し、サリスはグリーンティーを注文した。


 店員が飲み物を運んできたので俺はブラックなコーヒーを一口味わう。

 少し酸味があるが香り高いコーヒーに俺は満足した。


「9本は多かったんじゃない?」

「サリスの実家のファキタ義父様、エヒラ義兄様で2本。俺の実家の父様、アキア兄様、ヒッチ兄様で3本。ファバキさんとヘイルクさんで2本って話だったよね」

「そうね」

「あとの2本はオルとアミの実家への贈り物だよ」

「あーー、忘れてたわ」

「俺もそうさ。さっき購入の時に気付いてね。もっと早く気付けばよかったよ」


 俺はコーヒーを飲んで土産の忘れがないか旅行準備メモを確認する。


「残るは俺の実家の女性の方々へのプレゼントだな」

「トウキではラッカーの食器よね」

「うん、あとは古塔都市クバであの綺麗な布のスラダを買えば揃うな」

「義母様や義姉様は喜んでくれるかしら」

「高価な宝石や装飾品より喜ぶんじゃないかな。間違いなく母様は喜ぶよ」

「それならいいんだけど」


 同じ女性ということでサリスが心配になっている。

 嫁としての自覚がそうさせるんだろうなとコーヒーを飲みながら想像していた。


「あとは旅で覚えた料理を振舞えば全員間違いなく喜ぶから心配しなくていいよ」


 俺がそういうとやっとサリスが笑顔を見せてくれた。

 旅行準備メモを見ながら俺は他に漏れがないか確認しているとグリーンティーを飲んでいたサリスが何かに気付いて声をあげてしまった。


「あ!」

「ん?」

「師範と冒険者ギルドを忘れてたわ」

「あーーー。師範はまずいな」


 俺は腕を組んで考えているとサリスが話しかける。


「もう1本ヒノクスソードを買ってきましょうか」

「いや、師範はファキタ義父様と同じ物は嫌がると思う」

「それもそうね」

「例のオルが買わなかった弓にしようか」

「珍しい素材の弓だったわよね」

「師範なら道場に飾っておくと思うんだけど、あの弓なら道場に来た子供が触っても平気だろ」

「たしかにそうね」


 なんとか師範の件は片付きそうだ。

 残るは冒険者ギルドである。


「全職員には配れないな」

「でも代表や受付の人にだけっていうのも難しいわね」


 転生前の世界なら職場への土産といったら小分けに出来るお菓子などが人気だったが、さすがにこの世界にはそういったものはない。

 それにドルドスに帰りつくのは数ヶ月先だ。

 お菓子なんかかったら腐ってしまう。

 俺とサリスは頭を悩ませる。


「日持ちする食べ物か、もしくは小さな雑貨かしら」

「あとは飲みも…、あ!ライス酒はどうだろう」

「ダメよ、取り合いになっちゃうわ」

「駄目かー」

「ヒノクスにしかないものが喜ばれるわよね」


 その言葉にある風景を思い出した。


「なあ精霊峰イジュフ山の写真を印刷して渡したらどうかな。冒険者ギルドのホールに絵画のように飾っておけるだろ」


 サリスもその光景を想像して身を乗り出してきた。


「お金もかからないし、それがいいわね」

「特定の人に渡すわけじゃないから角をたたないしな。そうしよう」


 お土産を考えるだけで結構疲れてしまった。

 これはこれで旅の醍醐味であるが大変な作業である。


 俺はコーヒーを、サリスはグリーンティーを飲み干して席を立つ。

 代金を支払うとすぐに装備工房に戻り師範の土産のバンブーボウを購入した。

 次に雑貨屋に向かう。

 漆器の食器を買うためだ。


 ここは完全にサリスに任せて俺は店内をぶらついた。

 カップを置いている場所を歩いているとペアになったティーカップとソーサーが売っているのに気付いた。

 少し大きなティーカップのソーサーは青を基調にした縁取りがされていて、小さなティーカップのソーサーには赤を基調にした縁取りがされている。

 両方ともティーカップは白地に見覚えのある花の絵が描かれている。

 間違いがなければこれは桜だ。


 なぜか凄くこの食器に惹かれてしまった俺はサリスに気付かれないように店員を呼ぶとペアティーカップとソーサーを包んでもらい代金を支払ってからアイテムボックスにしまう。

 良い買物が出来たとニコニコしているとサリスが俺の元に戻ってきた。


「ラッカーの食器は買えたみたいだね」

「かなり安く買うことが出来たわ、やっぱりラッカーならヒノクスね」

「みんな喜ぶな」

「時間もないし食材屋にいきましょ」


 食器を売っている雑貨屋を出た俺とサリスは食材屋に向かう。

 航海を考えてサリスが食材をいろいろ選んでいく。

 俺は終始荷物持ちに徹していた。


 食材を買い終えて店を出ると17時を過ぎていた。


「いったん買った荷物を船に積み込もうか」

「そうね」


 アイテムボックスに入れておく量にも限界がある。

 俺とサリスは荷物を持って小型船の係留されている桟橋に向かった。

 桟橋のところまで行くと同じことを考えていたオルとアミと偶然合流することになった。


 一緒に船に荷物をしまうと小型船に鍵をかけて桟橋をあとにした。


「本当に偶然ね」

「びっくりしたです」

「お土産を準備できたようでよかったな」

「ええ。良い買物が出来ました」


 オルがにっこり笑う。


「せっかくだしヒノクス最後の晩餐だから、どこかでパァーと過ごそうか」

「だったら賭博場いきたいですー」

「いいですね」

「あそこで軽い食事も取れたわよね」

「お酒もあるしいいな」


 俺達はヒノクス最後の晩を大いに楽しもうと街に繰り出すのだった。


2015/06/05 表現修正

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