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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
161/192

5-49 レッサーアラクネ

 竜暦6561年9月1日


 小鳥の声で自然に目覚めた俺は隣で小さな寝息をたてて眠っているサリスの顔を眺めた。


 こうしてみると端正な顔立ちのサリスは俺にはもったいないほど綺麗だ。

 料理も上手だし、魔獣との戦いでも頼りになる。

 欠点らしい欠点もない。


 反対に俺は旅の事以外では欠点が多い。

 まずスケベだ。

 これは否定しようがない。

 浮気はしないけど綺麗な女性を見るとついつい目がいってしまう。

 あとは戦闘がそれほど得意な訳ではない。

 マジックアイテムの力を借りてようやくサリスやアミやオルに戦いでついていけてる。


観測者オブザーバーλ567913』のスキルも補助的なものばかりだし一撃で魔獣を倒せるような力もない。

 頭を使えということだろうが思考の半分はほぼ旅が占有してしまっているので、戦いにおいてはそこまでの先を見通した戦術が立てられるわけでもない。


 考えれば考えるほど気分が落ち込んできた。


 このままでは駄目だと思い、サリスを起こさないようにベッドから抜け出すと窓の外から朝焼けに染まったガイシュ迷宮都市を眺める。

 黒い板張りの屋根と白い漆喰を使った壁の建物が整然と並んでいる景色が陽の光で赤く塗られているのは圧巻だ。


(屋根に使ってる黒い板はラウゴタの油泥湖のタールを使ってあるんだろうな…。こうやってみると人って逞しいよな。精一杯知恵を絞って自分達の生活を豊かにしようと頑張ってるんだし…)


 俺は転生前、転生後を含めて様々な都市を回って感じたことを思い出した。

 不便だと思われる場所でも、そこで生き抜くために人は努力する。

 一人では無理な事なら人と協力する。

 ひとりひとりが自分に出来ることを頑張る。

 それが明日に繋がっている。


(俺も自分に出来ることを頑張ってやるしかないよな…)


 そう思った俺は落ち込んだ気持ちを振り払って気合いを入れなおした。


 冒険者装備に着替えるとサリスが起きるまで書き掛けの旅行記の記事の書き始める。

 基本的に各記事の構成はほぼ決まった形をとっている。


 訪問した街や村の名前、交通手段、周辺の情報、人々の暮らし、郷土料理、観光の目玉になる見所、お土産になりそうな特産品などを紹介していく。

 今回は以前のバセナ紀行を出版した時よりも訪問した都市が多いし書く情報が膨大になってしまっている。


 4月1日に出発して今日で5ケ月になるが大変な日々の連続だったなと思い返しながら記事を書いていく。


 ほどなくしてサリスが目を覚ましベッドの中の俺を探していたようだがいないのに気付いて上半身を起こす。


「ふぁーぁぁぁ…」


 両腕を大きく真上にあげて伸びをする。

 胸のふくらみが強調されるのを見て、おもわず凝視してしまった。

 本人は多くの酸素を体に取り込んで覚醒しようとしているらしいのだが、俺にとっては眼福である。


「おはよう。ぐっすり寝てたね」

「何時に起きたの?」

「6時だったかな。いまは7時半だよ」

「もうそんな時間だったのね。支度しないと」


 そういってベッドから出たサリスが冒険者装備に着替える。

 昨夜はギガリビングデッドと戦ったあとの装備の手入れでサリスは遅くまで起きていた。

 そのせいで朝起きるのも遅くなったらしい。


 まあ手入れで遅くなっただけあって臭いが完全に取れているのはありがたい。

 サリスが準備できたところでアミとオルの部屋に行く。


 ドアをノックすると中から声がして二人が出てきた。

 挨拶をすませて宿を出た。


 今朝はサリスが起きるのが遅かったので食事はカフェで取ることにする。


 店員から良い魚が手に入ったという話を聞いて今日は全員焼き魚膳を注文すると、ほどなくしてテーブルに塩焼きされた魚とご飯が運ばれてきた。

 塩焼きされた魚を俺は知っていた。

 鮎だ。


「香魚の焼き魚膳です。どうぞ」


 塩焼きした魚から独特に香りが漂う。


「香りがいいです!」

「本当に良い魚みたいね」

「香魚といっていたのも頷けますね」

「そうだな。こんな魚を食べれるとはヒノクスはいいところだな」


 香魚のことをサリスが店員を呼んで尋ねている。


「湖の魚じゃないのね」

「さっきの話だと渓流都市ワッラカから仕入れたって言ってましたね」

「湖の魚だと泥臭いから処理が必要になりそうだけど、川の綺麗な渓流なら納得だな」

「トウキへ戻る際にワッラカに寄るならまた食べてみたいわね」


 食事を堪能した俺達は食後の薬草茶を飲みながら打ち合わせを行う。


「まず共通管理の消耗品の在庫状況を確認しておこうか」


 オルがメモを取り出す。


 ・井戸用水魔石 114個

 ・破砕粘土   78個

 ・光玉     58個

 ・煙玉     59個

 ・治癒玉    60個

 ・粘着玉    99個


 かなりの数を確保できている。


「井戸用水魔石は今日の午後魔石工房に行けば昨日のCランク魔石も含めれば追加で40個ほど手に入りそうですよ」

「このペースだと数日のうちにガイシュを出発することになりそうだな」

「サラガナルさんに頼んでる動力車はもう出来てるのかしら?」

「3週間って話だったし8月中には組みあがってるとおもうよ」

「そうなると9月10日ごろヒノクスを出発するです?」

「だいたいそのくらいかな」

「余裕で年内に帰りつけるわね」


 サリスの言葉に俺を含めた三人が頷く。


「さてと迷宮で修行しようか」


 俺達は薬草茶を飲み干すと立ち上がり、ガイシュ迷宮都市の冒険者ギルドに向かう。


 到着したあとは売店での購入、掲示板の確認、中庭での受付、祠の転送といつもの手順を踏んでDランク魔獣のいる広間に続く通路に到着した。

 時間は12時である。


 俺は【地図】を使ってみると今まで進んだことのある通路と広間が広い範囲に点在していた。


(今日は南西のこの一角か。しかし本当に広大だな…)


 そう思っているとアミが壁に書かれたDランク魔獣の名前を見つけたようだ。


「レッサーアラクネって書かれてるです」


 ヒノクスの魔獣図鑑を取り出して魔獣を確認する。

 挿絵には下半身がクモで上半身が女性の魔獣が描かれていた。

 思わず胸の部分を見たが体毛で覆われているので乳房が確認できない。

 非常に残念である。


「こいつだな」

「補足を見ると粘着状の糸が危険みたいね」

「糸は燃えないです?」

「出したばかりの糸は燃えないですよ」


 俺は作戦を考えて提案した。


「まず光玉を使って視界を奪う。次に尻にある糸を出す穴をマルチロッドの土塊で塞ぐ。その後アミとサリスが足を攻撃して動作を鈍くして最後に尻と胴体を破砕粘土で吹き飛ばす」

「糸を出す穴を最初に火の玉を当てたほうがいいんじゃないかしら」

「焼けて完全に塞がるかがわかんないんだよ。それなら泥の方がいいかなと思ってね」

「それなら足を封じる前に尻に破砕粘土付きの矢を突き刺して爆破してもいいかもしれませんね」


 俺はオルの提案を吟味するが、まずは足という結論を出した。


「オルの提案もいいんだけどレッサーアラクネの脚を見ると素早く動きそうなんだよね。光玉で視界を奪ったあとに矢が刺さると、それに驚いて逃げようとするんじゃないかな?」

「たしかにそういった動きも考えられますね。では最初のベックの案でいきますか」

「うん。じゃあ広間にいこう」


 俺達は通路を進んでレッサーアラクネの待つ広間に向かう。

 ほどなくして広間が近づいてきたがレッサーアラクネの姿が見えない。


 先頭を歩いていたアミが足を止めて広間の天井を指差す。

 そこにはレッサーアラクネが糸を張って休んでいる姿が見える。


 少し通路を後戻りしてレッサーアラクネに気付かれない場所で計画を練り直すことにした。


「困ったです」

「まさか天井にいるとは驚きね」

「オル、破砕粘土付きの矢で一気に地面に落とそう」

「了解」


 俺はマルチロッドに火魔石をセットし、オルは破砕粘土付きの矢を番えて天井にいるレッサーアラクネに狙いを付ける。


 オルが合図をして破砕粘土付きの矢を射ると、すぐに火魔石が空になるまで連続して撃ち込んだ。


「《バースト》《バースト》《バースト》《バースト》《バースト》《バースト》」


 レッサーアラクネの腹部に破砕粘土付きの矢が突き刺さったあとを追って6発の火の玉が襲いかかった。


 ドーンという爆音と共にレッサーアラクネの腹部と3本の脚と糸で出来た巣が吹き飛ぶ。

 さらに火の玉の効果で体毛が燃えていきレッサーアラクネの全身が火に包まれた。


 レッサーアラクネの巨体が天井から落ちてくると、オルが燃え盛る上半身に向けて破砕粘土付きの矢を放った。

 上半身に矢が突き刺さって1秒後、爆音と共に上半身が吹き飛んだ。


(【分析】【情報】)


 <<ラビリンス・レッサーアラクネ>>→魔獣:パッシブ:闇属

 Dランク

 HP 0/399

 筋力 2

 耐久 4

 知性 8

 精神 2

 敏捷 8

 器用 4


(討伐完了か、あっけなかったな)


 レッサーアラクネが天井にいなければ、もう少し展開が変わっただろうと俺は思った。

 結局のところ、天井にいたレッサーアラクネは俺とオルにとって丁度よい標的になっていたということだ。


 あまりのあっけない幕切れにサリスとアミも拍子抜けしていた。


「えっと、昨日とは随分と違ったわね」

「もの足りないです!」

「こういうこともあるさ」

「頭上に巣を張るのは森の中では脅威なんでしょうけど、迷宮内では『どうぞ狙ってください』といっている状態でしたね」

「オルのいう通りだな」


 サリスとアミが不満げだが、手早く決着がついたのは喜ぶべきことだ。

 火が消えるのを待っている間に俺達は転移石を集めておく。


 ほどなくして火が消えたところで魔石を回収する。

 心配だったのは魔石が傷ついてないかということだったが背中側の膨らんだ箇所に魔石があり爆発で無事だった。


 転移石で迷宮の外に出た俺達は、魔石工房にいくオルとアミ、装備工房にいく俺とサリスの二手に分かれる。


 なぜ俺が装備工房かというと発注したスパイクを受け取りにいく用事があったのと、大河都市キワガで見つからなかったサングラス装備を探す為だった。


(ここでサングラスが見つかればいいなー)


 そんなことを考えながら俺はサリスと装備工房の扉を開いた。


2015/05/29 表現修正

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