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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
157/192

5-45 魔石精錬

 竜暦6561年8月28日


 昨日相談して今日は午前中ヒノクスの国立図書館で調査を行い、午後ガイシュ迷宮都市に向けて出発するという話になっていた。


 本当はもっとヒノクスの国立図書館に通いたかったがしょうがない。

 帰りの予定もあるのでここはぐっと我慢した。


 俺の目当ては旅に役立ちそうな本をあさる。

 1階の一番奥にある棚にある古い背表紙の本が妙に気になった。


 その本の背表紙はかなり痛んでいて書かれているタイトルが分からなかった。


 俺はその本を手に取り中身を確認してみた。

 最初のページを開くとタイトルが記載されている。


『魔石精錬基礎』


 俺は読書机に持っていき本を読み始めたが、そこには驚くべきことが書かれていた。


 本の内容はこうだった。

 通常魔獣から採取できる魔石には多くの不純物が混じっており効率が落ちる。

 そこで不純物を取り除き純度を高めることで高い効率を得ることが可能となる。

 この純度の高い魔石を得るための作業が魔石精錬と呼ばれ、精錬された魔石を上級魔石と呼ぶ。


 そこまで読んで俺は思わず唸った。

 魔石そのものを加工し効率をあげるというのは理にかなっている。

 しかし魔石加工技術がここまで生活に浸透しているのに、この精錬技術に関して俺はこの世界に生まれて14年どこでも聞いたことも読んだこともがない。

 精錬技術が普及していないのだ。


 俺は首をかしげながら本の続きを読み進める。


 続きを読んでいくと普及していない理由が明らかになった。

 エーテルと呼ばれる特殊な溶液を用いるのだが、この入手が非常に難しい。

 本の記述によると魔獣の体液を大量に準備して時間をかけて濾過していくことで抽出することが出来ると書かれている。

 具体的には酒樽1個を濾過して小指の先ほどの量のエーテルが得られるということが書かれていた。


 魔石精錬技術が普及しなかったのは、この一点に尽きるだろう。

 精錬したあとの上級魔石は確かに効率が高いのだろうが、それを生み出すのに必要がエーテル生成に手間がかかりすぎる。

 これならば魔石をそのまま利用したほうが手軽だし安価で済む。


 読み終えたあとで俺は腕を組んで考える。


(エーテルに代わる魔石を溶かす溶液が見つかればいいのか…)


 俺は上級魔石に興味が出てきていた。

 理由は簡単で上級魔石が入手できれば小型船にしても動力車にしても速度が上がる可能性があるのだ。

 それだけで活動範囲が飛躍的に広がるだろう。


 俺は本の内容で必要な情報と思われる箇所を旅行準備メモに書き写す。


 書き写し終わり本を元の棚に戻したところで、アミとオルが俺を呼びにきた。

 時間を確認すると13時になっていた。


「そろそろ時間ですー」

「うん。じゃあ宿に戻ろうか」

「そうですね」


 俺達はヒノクスの国立図書館を出ると宿に戻る。

 宿の前で出発の準備を終えたサリスが動力車付き馬車で待っていた。


「おかえりなさい、準備は出来てるわよ」

「サリス、ありがとう」

「出発するですー」

「じゃあ、僕とアミさんは仮眠をとってますね」

「うん」


 オルとアミが馬車に乗ったので俺は御者台の手綱を握るサリスの隣に座る。


「じゃあ出発するわね。《オン》、《ドライブ》」


 徐々に動力車付き馬車が動き出す。

 ガイシュに向かう街道を東に向けて軽快に進んでいく。


 手綱を握るサリスが前方を見ながら俺に話しかけてくる。


「図書館で新しい情報が見つかった?」

「ああ、少し気にかかる本を見つけたよ」

「よかったわね」

「上級魔石というものが存在するらしいのさ」

「それって魔獣から採取できるの?」

「いや、魔石から不純物を取り除くことで出来るらしいよ」

「結構大変そうね」

「そうだな、その不純物を取り除くのが大変だから普及しなかったらしいけどね」


 俺がそこまでしゃべるとサリスが首をかしげる。


「不純物ってなにかしら?」

「あー、そこまでは本に書いてなかったな」

「普通に魔石を利用してるけど、奥が深いのね」

「そうだな。まあ俺達は技術者じゃないから、これ以上は専門家に任せるしかないけど」

「ファバキさんに相談するつもりなのね」

「そのつもりだよ。一応必要な情報は控えてきたからね」

「あんまり相談事を増やすとファバキさん倒れちゃうわよ」

「どうかなー、いつ訪ねても楽しそうな顔をしてるから平気だろ」


 そういうとサリスが笑う。


「前から思ってたけどベックとファバキさんって似てるところがあるわよね」

「そうかな?」

「自分の好きなことになると夢中になるでしょ」

「それをいうならサリスもだな。料理のことになると目の色かわるだろ」

「私はそうでもないわよ。あくまで生活に必要だからよ。美味しいものを食べさせてあげたいから」

「ありがとな」

「どういたしまして」


 嬉しそうな顔を見せるサリスが可愛いなと俺は思った。


 しばらく街道を進んでいくと徐々に空が曇ってきた。


「雨が降りそうだな」

「そうね。レインコートを用意してもらえるかしら」

「ああ、羽織っておいたほうがよさそうだ」


 俺はアイテムボックスから全天候型レインコートを取り出すとサリスに渡す。

 俺達は手早く全天候型レインコートを羽織る。


 ほどなくしてザンホエ村が見えてきたところで雨が降り出した。


「村で雨宿りしていく?」

「通り雨っぽいし、このまま進もう」


 俺はサリスにそういうと、ザンホエ村を素通りしてさらに東に向けて進みはじめる。

 顔にあたる雨が痛い。


 俺はガードマスクを2つ取り出すと一つをサリスに渡して顔に装着する。

 サリスもガードマスクを装着した。


「マスクがあると随分と楽になるな」

「うーん。見た目が問題ね。これじゃ怪しまれるわよ」

「あはは。たしかにそうだな」


 笑う俺を見て、サリスが真剣に考え始める。


「レインコートをもう少し明るくしてマスクのデザインも可愛い感じにしたいわね」

「それでも怪しいのは同じだろ?」

「今の全身黒づくめの格好よりはマシになるわよ」

「サリスは何色がいいとおもう?」

「黒は怪しいわよね。赤は血を連想させるし、それ以外の色かしら」

「緑だと森で役立ちそうだな」

「白は雪原でよさそうね」

「青は…海上かな?」

「黄色は砂漠よね」


 そこまで会話をしてから俺は少し思案して口を開く。


「各色のレインコートを準備しておくのがよさそうだな」

「そうなると、あとはガードマスクよね」

「これ以上はデザインが変えにくいだろうな」

「透明にしたらどうかしら」

「目の部分は黒いまま?」

「そうね。口元まで隠してるから怪しくなるんじゃないかしら」


 透明なガードマスクを想像してみたが問題は強度だろう。

 ガラス製だと魔獣の攻撃で砕ける可能性も出てくる。


「たしかに透明にすれば怪しさは少し改善されるけど戦闘で実用に耐えれるかが問題だよ」

「難しいわね」

「気長に取り組めばいいさ」


 俺の言葉にサリスがうなずいた。


 雨の降る中、街道を進み続けて18時半を過ぎたところでヤミジ村に到着した。

 俺達は御者の交代もあるので、ここで一休みすることにした。


 ヤミジ村の広場に動力車付き馬車を止めてから、食堂に四人で向かう。

 ここヤミジ村は宿場として成り立ってるだけあって食堂がいくつもあり、こういった休憩をするには本当に困らなくて助かる。


 食堂で野菜の揚げ物ソバを4つ頼む。

 ほどなくして店員が料理をテーブルに運んできたので俺達は美味しい食事を味わった。

 食後の薬草茶を飲みながらオルとアミに尋ねる。


「雨中の移動だけど平気かな?」

「大丈夫ですよ」

「うん、へいきですー」

「じゃあ、俺達は中で休んでおくから、なにかあったらすぐに起こしてくれ」


 二人がうなずいたあと、俺達は食堂をあとにして動力車付き馬車に戻った。

 俺とサリスが馬車に入ると、馬車が徐々に動き出す。


「馬車の中は外が雨でも快適ね」


 その言葉に俺はふと良いアイデアを思いついた。


「そうか、今は御者台が剥き出しだけど、屋根と透明なカバーを付ければいいな」


 サリスもその馬車の姿を想像したようで俺の言葉にうなずいた。


「それいいわね。マスクをしなくていいから怪しさが減るわ。でも今までそういうのが無かったのはどうしてかしら?」

「馬に引かせてたからじゃないかな。強い雨だと馬を休ませるだろうし、こんな天気で進むのはめったにないよ」

「確かにそうね」

「動力車は休ませる必要がないし、馬よりも速度も出るからそういった屋根があったほうがいいんだろうな」


 俺はそういうと旅行準備メモに馬車の改善案を書き込んでいく。

 一通り書き込んだところで横になった。


「さて休もうか。明日も早いしね」

「そうね。おやすみなさい」


 俺達は馬車の中で明日に備えて休むことにした。


2015/05/24 誤字修正

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