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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
143/192

5-31 マオトーイン

 竜暦6561年8月14日


 村が見えてきたので時計の針を見たところ13時半を示していた。

 11時に港湾都市トウキを動力車付き馬車で出発したので、2時間半ではじめの村に着いたことになる。


「本当に早いわね。馬車というより乗馬で進むような感じよね」

「そうだな」


 俺はそういいながら動力車付き馬車を操作して村に近づく。

 村の入口にいた住民に話を聞いてみたが、タスイ村という小さな村だった。

 山あいの村で林業が盛んらしい。

 俺は名残り惜しかったが、そのままタスイ村を素通りした。


 山あいの街道を進みながら、周囲の風景を眺める。

 木々が青々としていて気持ちいい。


(ガイシュ迷宮都市まで、寄り道せずに進むのは、もったいないよな…)


 そう思った俺は、御者台の隣に座るサリスに相談をする。


「どこか一箇所だけでも村か街に寄って一泊してみたいなー」

「でも日程がきつくならないかしら」

「うーん…」


 悩んでいる俺をサリスが優しく諭してくれる。


「もし帰り道で、時間に余裕があるようだったら寄ってみればいいんじゃない?」

「…そうだな。行きは、気になる情報がないかだけ、住民に聞いてみるよ」

「それがいいわね」


 しばらく山あいの街道を進むと陽がかなり傾いてきていた。

 ほどなくして街道の先に次の村が見えてくる。

 俺は時間を確認すると16時を過ぎたところであった。


 住民に話を聞くと、ラバイ村という狩猟を主体にしている村であった。

 サリスがせっかくだし新鮮な肉だけ購入したいというので、食材屋の前に動力車付き馬車を止める。

 室内を覗くと、オルとアミはまだ寝ているようだった。


 俺とサリスは食材屋に入って買物を済ませる。


「サングリエの肉が手に入ってよかったわ」

「夕飯は久々に肉料理が食べたいなー」

「そうね」


 俺達は動力車付き馬車にのると、また街道を進みはじめた。

 今回はサリスが御者をすることになった。


「横で見てたけど、本当に動力車の操作は簡単なのね」

「うん。馬と同じ感覚で扱えるのがいいよな」

「そうね、あとは馬だと水をあたえるのに休憩をこまめにとらないといけないけど、それがいらないってのは大きいわね」

「ああ、この分だとアミとオルに交代するときには、次の村に着いてそうだな」


 俺の言葉どおり、陽がちょうど沈んだところで三番目のキカタ村に辿りついた。

 時計を見ると19時半である。

 村の広場に動力車付き馬車をいったん止める。

 馬車からオルとアミが出てくる。


「せっかくだし食事はこの村でとりましょうか」

「はいです」

「いいですね」

「ちょっと食事が出来る場所を聞いてくるよ」


 俺は家路につく住民に話を聞き、宿屋で食事が出来るという情報を仕入れた。

 四人で宿に向かうと、宿の主人に食事だけの提供をお願いした。


 主人の話では今日作れる料理はソバだけだというので、それを注文する。


 そのあと主人が俺に尋ねてきた。


「宿泊せずに街道を進むんですか?」

「ちょっと急いでいるんですよ」

「そうですか。夜道ではマオトーインには注意してくださいね」


 マオトーインという言葉はひっかかる。


「それは魔獣ですか?」

「ええ、暗くなると現れる魔獣なんですけど」


 俺はヒノクスの魔獣図鑑を取り出すとマオトーインのページを見つけた。

 挿絵がなかったが、説明では夜になると音もなく飛んできて人を襲う大きな鳥の魔獣と書かれていた。


「マオトーインの肉は食べたりしないんですか?」

「うーん、肉は食べないですけど、羽根は矢羽根に使えたはずですよ」

「そうですか、教えていただきありがとうございます」


 主人が食事を作りに厨房に向かったので、その間に俺達は魔獣について話をする。


「オルは聞いたことある魔獣かな?」

「マオトーインは聞いたことがないですね。でも図鑑の説明を見るとノークテュアのことでしょうかね」


 俺はパラノスの魔獣図鑑を取り出して、ノークテュアのページを開く。

 挿絵が描かれていたが、その姿はフクロウに似ている。

 ただし一点だけ俺の知っている転生前のフクロウと違いがあった。

 鋭い爪の生えた足が4本あるのだ。


 あとノークティアの説明を見ると、確かにマオトーインの説明に酷似している。


 アミが魔獣図鑑を覗き込んでノークティアの挿絵を見たとたん、驚く顔をする。


「アミも知ってる魔獣かな?」

「ドルドスにいるメガヒボウに似ているです!」

「メガヒボウは私も父から聞いたことがあるわ。たしか別名があったわよね」

「夜のハンターです!」


 俺はアイテムボックスからドルドスの魔獣図鑑を取り出してメガヒボウのページを開く。


「たしかにノークティアに似ているが…、こっちは大きな太い足が一本だけなんだな…」

「確かにそうね。でも説明は同じね」

「同じような生態の魔獣が各地にいるんですね」

「面白いですー」

「まあ、ヒノクスのマオトーインも同じ系統の魔獣だろうから注意しよう。オルは弓があるからいいけど、アミにはチェーンハンドボウを貸しておくよ」

「はいです」


 しばらくすると主人が料理をテーブルに持ってきた。


「どうぞ、水ソバです」


 そこには大皿にソバが山盛りに盛り付けられている。

 さらに店主がた特製のソバつゆが入ったお碗を4つ持ってきた。

 どうみても俺の知っている盛りソバである。


 港湾都市トウキでは、見かけなかったがキカタ村では、こういった食べ方をするようだ。


「これはどうやって食べるのかしら…」

「大皿からソバを取って、そのスープにつけてから食べてください」

「なるほど、トウキでは見かけなかった食べ方ですね」

「美味しいですー」


 アミが器用にスプーンとフォークでソバを取って、つゆにつけてから美味しそうに食べている。

 サリスとオルも同じように味わいはじめる。


「ソバの香りがいいわね」

「そうですね」


 俺は箸でソバを取ってから、すするように音を立てて味わう。


(いやーー、やっぱりこっちのソバの食べ方も美味しいなーーー!)


 サリスが音を立てて味わう俺を肘でつつく。


「ベック、行儀が悪いわよ。そんなに大きな音を出すと…」

「あ、そっか。そういえばそうだな」


(そういえばドルドスじゃ音を出して食べる習慣がなかったな…)


 そのサリスの声が聞こえたのか主人が、サリスに話しかけてきた。


「音を出しても平気ですよ、お嬢さん。むしろこの辺りのもんは音をわざと立てて食べるんですよ」

「そうなんですか?」

「そのほうがソバの香りが鼻から抜けるんで、美味しく感じるんですよ」

「国が違うと、食べ方まで変わるのね。ベックは知っていたの?」

「いや、そんなことないけど、こう食べたほうが美味しいかなって思ってね」

「そうなのね。でも、本当に器用にすするわね」

「こういうことは器用なようだな」


 その後、ソバを堪能した俺達は食事代を払い、宿をあとにした。


「四人で銅貨20枚ってお得だったわね」

「この辺りはソバの実の栽培が盛んらしいから安いんだろうな」


 そういって俺達四人は動力車付き馬車に戻る。

 ここから先は夜道を進むことになるのでオルとアミに動力車の操作を任せて、サリスと俺は馬車の室内で休むことにした。


 ソバで腹がふくれた俺とサリスは、すぐに眠りにつくのだった。


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