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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
142/192

5-30 遊び

 竜暦6561年8月13日


 今日は四人で装備工房を訪れた。

 広い店内を見てまわる。


「変わった剣があるわね」


 壁に掛けられた棚に置かれていた剣をサリスが指差す。

 見覚えのある片刃で反りのある独特な形の剣が鞘に収められていた。

 まさしく日本刀である。


(【分析】【情報】)


 <<ヒノクスソード>>

 Dランク

 火属

 魔力 60

 耐久 720/720

 敏捷 4


(ヒノクスソードって言うのか…。日本刀と同じ製法なんだろうな…)


「シャイハの装備工房で見たけど、ヒノクス独自のスティールという金属を使ってる剣なのかしら」

「そうだと思うよ」

「刀身を見てみたいわね。ベック、ここで待っててね」


 ほどなくして店員を連れてサリスが戻ってきた。


「この確認したのは、このヒノクスソードですね」

「ええ、そうです」

「ちょっとお待ちを」


 そういって店員が棚の刀掛台から刀を外してサリスに渡す。


「重いわね」


 そういって鞘から刀を抜くと、その刀身に目を向ける。


「この刀身に浮き出た模様はなにかしら、凄く綺麗なんだけど」


 店員が説明してくれる。


「それは刃紋ですよ、作るときに土を被せて焼入れを行うんですけど、それで出来る模様ですよ」

「焼入れ?」

「詳しくはわかりませんけど、製作するときにそういう工程があるっていう話を職人から聞いたんですよ」

「サリス、それ以上は店員さんも困るよ。機会があったら作ってる工房に行ってみよう」

「そうね。説明ありがとうございました」


 そういってサリスが刀を片手で少し振るがしっくりこないようで首をかしげる。


「どうしてかしらバランスが悪いわね」

「お客さん、そのヒノクスソードは両手で使うんですよ」


 サリスが両手で刀をもって正眼に構える。

 今度はしっくりきたようだ。


「そういうことね。でも両手だと私には向かないわね…」

「残念だけど、そうだね」


 サリスが気落ちしながら刀を鞘に納めて店員に返す。


「サリスにあった剣も探せばあるよ。それに今のフレイムストームソードにも慣れてるだろ」

「予備の剣があるといいかなと思ってるのよ。以前いた火に強い魔物がいたりするから」

「そういうことか。それならガイシュ迷宮都市でも、また探してみよう」

「うん」


 ヒノクスソード以外にサリスの気になる装備はなかったので、俺はオルとアミの姿を探すと二人は弓の売り場にいた。

 どうやらオルがヒノクスの弓を見て不思議そうな顔をしていた。


「どうした?」

「このヒノクスの弓なんですけど、素材が木ではないようなんですよ」


 俺はヒノクスの弓を見ると、竹で出来ていた。


(【分析】【情報】)


 <<バンブーボウ>>

 Eランク

 風属

 魔力 30

 耐久 510/510

 器用 4


(バンブーか、やはり竹だな)


「これは本で読んだことがあるけど、ヒノクスにあるバンブーという植物を使ってるようだな」

「へぇ、でもなぜ木を使わないんですかね」

「そこは俺もわからないけど、案外このバンブーが簡単に入手できるとかじゃないかな。詳しくは店員か工房に聞いてみるしかないけど」

「そうですね」

「オルから見て、その弓はどんな感じかな?」

「軽くてしなやかですね。一つ気になっていたのは木を使ってないので、どの程度の耐久性があるかなんですよ」

「いま使ってる弓の方がいいんじゃないかしら。バランスの違う弓を使うのは大変でしょ」

「そうなんですけど、いまの弓の他に予備が欲しいなとも思っていたんですよ」

「まあ、ガイシュ迷宮都市にも装備工房があるだろうし、そっちも見てみよう」


 そこまでいうとアミが俺に尋ねてきた。


「ベックは破砕粘土を買えたです?」

「冒険者証を提示したけど称号があってもトウキでは買えないようだね。Dランク以上って言われたよ」

「そうですか」


 オルが気落ちしている。


「でも、ガイシュではどう扱われるかが店員も分からなかったようだし、うまくすればガイシュで入手できる可能性があるわよ」

「サリスの言うとおりガイシュの装備工房に期待しよう」


 港湾都市トウキの装備工房をあとにした俺達は、これからどうするか宿に戻りながら相談する。


「これから、どうしようか」

「昨日までに準備は終わらせてるから、のんびりしてもいいんじゃないかしら」

「そうですね」

「ゆっくりするです」

「じゃあ、宿に帰って休むかな」


 サリスとアミが腕を組んで考えている。


「それはもったいない気がするわ」

「遊びにいくですー」

「遊びといってもな、オルはなにがしたい?」

「ヒノクスじゃ、なにがあるかわかりませんよ」

「そうだよなー。アミとサリスは心当たりがあるかな?」

「ないわね」

「ないです」


 俺達四人は悩みながら大通りを歩いていく。


「トウキの人は、どんな遊びをしているのかしら」

「尋ねてみるです!」


 そういってアミが通りを歩く人に話しかけている。


「すごいですね、アミさん」

「遊びたかったんだろうな…」

「普通、この時期だと海水浴とかじゃないかしらね」


 アミが話を聞き終わったようで、俺達のところに戻ってきた。


「なにか情報はあったかな?」

「賭博場という場所があるそうですー」

「賭博場?」

「え?」


 俺は耳を疑った。

 その話が本当なら、お金を賭けて遊ぶ場所があるということだ。

 この世界にギャンブルが存在したとは…

 ドルドスでは耳にしたことがなかったが、ヒノクスでは存在していたことに俺は驚いた。


「オル、パラノスで賭博場というのは聞いたことがあるかな?」

「ないですね」

「ちなみにでいいんだけど、パラノスで大人が遊ぶ場合はどんな遊びがあるのか分かるかな?」

「うーん、有名なのはレースですかね」

「レース?」

「ええ、馬で決められた距離をどれだけ早く走るかを競うんですよ。どの馬が勝つかお金を賭けたりしますね」


(それって競馬だよ!!!)


「バイムやクシナでは見たり、聞いたりしたことがなかったけど」

「レースはパラノスでもレース場のある都市でしか行われませんからね」

「なるほど、今度パラノスを訪れることがあったら行ってみたい場所だな」

「ドルドスには、どんな遊びがあるんですか?」


 サリスがオルの質問に答える。


「この時期は海水浴が多いわね。あと一年を通して遊ぶのはボーラかしらね」

「そうだな、あれはボールさえあれば遊べるからな」


 ボーラとは、転生前の世界でいうフットサルに近い遊びだ。

 四人以上いれば遊べるという気軽な遊びで子供から大人までやっている。


「しかし遊びといっても、国によって違うのね」

「そうだな」

「賭博場いってみるです?」

「どうも、そこはお金を賭けて遊ぶ場所だろうな。行ってみてもいいけど遊び始めるとお金が大量になくなる可能性があるから注意が必要だな」

「ベックは知ってるの?」

「どんな遊びかは分からないけどね。昔、本でよんだ話ではハイリスクハイリターンな遊びらしいよ」

「僕は興味はあるから、見学だけでもしてみたいですね」

「私もそうね」

「いくですー」

「じゃあ、アミが場所を聞いたようだし行ってみようか」


 アミが先頭になって賭博場に向かうことにした。

 客の多い普通のカフェのようだったが、店の中に入ると、俺はそこがどういう場所か理解した。


(なるほど、ダーツみたいな遊びか、だけど…あれはどう見ても棒手裏剣だよな…)


 壁に丸い的が掛かっており、それを狙って客が手に持った小さな刃物を投げて当てている。

 場所によって、色が変わっているが、その色毎に点数が決まってるらしい。


「珍しい遊びね。はじめてみたわ」

「弓を使わずに、あの小さな刃物を的にあてるんですね」

「投げナイフです!」

「店の人にルールを聞いてみようか」


 俺は飲み物を提供していた店員に、この遊びのことを尋ねてみた。


「旅の方でしたか。これはターゲットという遊びですよ。あの壁にかかった円盤に投釘を三本投げて競うんですよ」

「へぇー」


 店員の話では、離れた場所から投釘を交互に三本投げて円盤に投げて、当たった場所の得点の合計が高いほうが勝ちらしい。

 ちなみに円盤の中心にいくほど点数が高くなっている。

 あとは賭けの部分だが、点数差の分だけ負けたほうが買ったほうにお金を払うらしい。

 レートは本人達が遊ぶ前に設定するので、仲間内なら全くお金を賭けないで遊ぶことも可能ということだ。


 俺と店員の話を聞いていた三人も遊びの内容を把握したらしい。

 手軽で面白そうだし、俺達もターゲットを遊んでみることにした。


 店員から点数表と投釘6本を受け取ると、店の一角に案内された。


 ちなみに料金は時間単位で支払うということで、円盤一つを1時間占有して銅貨5枚であった。

 かなり安い料金設定であるが、飲み物や食べ物を頼むと、別途料金がかかる。

 どうやら店の儲けは、飲み物や食べ物のお金で稼いでるらしい。


「誰から遊んでみる?」

「わたしとオルで遊ぶです」

「じゃあ、私とベックは見てるわね」


 オルとアミの遊ぶ姿を見たが凄まじかった。

 はじめて遊ぶはずなのに、なぜか円盤の中心付近に投釘が吸い込まれるようにあたっていく。

 サリスもその正確さに驚いているようだった。

 幼い頃から狩猟を生業としてきたせいかもしれないが、あまりにも正確だった。


 周りで遊んでいた他の客も、オルとアミの遊ぶ姿に次第に目を奪われていくのがわかる。


「うーん、あとちょっとなのにオルに負けたです…」

「アミさんも凄く上手だったよ」

「でも、負けたです!悔しいです!」


 アミが本気で悔しがっていた。


「もうアミったら熱くなっちゃって。オルはアーチャーだし狙うのは得意なのよ。それより近接職のアミがこんなに上手くてビックリしたわよ」

「えへへ」


 褒められたアミが機嫌をなおして笑顔になった。


「しかし二人とも本当に上手だったな」

「幼い頃は投げナイフを扱ってましたからね」

「わたしもですー」

「それは猫人族なら、みんなそうなのかな?」

「そうかもしれませんね。幼い頃は弓とか剣は持てませんし、それで護身ということで投げナイフを使ってました」

「そういうことなのね。じゃあ、次は私とベックの番ね」


 俺とサリスもターゲットで遊んでみたが…

 結果は予想通りであった。


 俺は遊んでいる三人の姿をおつまみにライス酒の水割りを飲みながら、ほろ苦い思いを噛み締めていた。


2015/05/17 誤字修正

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