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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
125/192

5-13 古塔都市クバ

 竜暦6561年7月24日


 オルの声で俺は起きる。

 目をこすりながら時間を確認すると早朝4時をすぎたところだった。


「ベック、クバが見えてきたよ」

「ふぁぁぁ、あ、う、うん。ちょっとまってて」


 俺は起き上がると眠気を振り払うために水を飲んでから操船室にいく。

 アミが操船している横でオルが前方を凝視していた。


 外はまだ暗い。

 島嶼都市タゴンを出港したのが一昨日22日の朝8時。

 今が24日の朝4時ということは44時間も海上を進んだことになる。

 さすがに古塔都市クバまでの移動時間は長かった。


 俺はオルと一緒に上陸手続きを進めていく。


 古塔都市クバに近づいたところで、アミが何かに気付いたようで俺とオルを呼んだ。


「あれなんです?」

「あれが古塔じゃないかな」


 オルがそういうが、まだ外が暗くて俺にはまだその古塔というのが見えていない。


「さすがに暗視持ちは凄いな、俺じゃまだ暗くてわかんないよ」

「東の空も白んできたし、ベックにももうすぐ見えるんじゃないかな」


 俺は上陸手続きの準備に戻り、明るくなるのをまった。

 しばらくすると小型船も古塔都市クバに近づいていき、東の空が徐々に明るくなっていく。

 俺は再度、古塔都市クバのほうをみてビックリした。


 かなり高い塔が存在していた。

 高さは正確にはわからないが、そそり立つ建造物が異様な光景を見せている。


「おいおい、あんなに高い塔なのか…」

「パラノスの国内でも、あんな塔の話を聞いたことがないですね」

「ドルドスでもないです」

「ここだけにある建物なのかな…。あとで上陸してから調べてみないとな」

「他の都市のエワズ海運商会では古塔の事は話が出なかったの?」

「バイムにいたときの資料で古塔都市という名前が気になって聞いた時は、"高い塔がありますよ"くらいしか言ってなかったんだ。まさかあんなに巨大だったとは…」

「街の人もよく平気ですよね、あれ崩れたら大変ですよ」

「危険です!」


 俺はふとパラノスに行く途中によった古代都市ネテアの遺跡を思い出した。


「もしかしたら、あの遺跡には魔石による硬化処理なんかが施されてるのかもな」

「え?」

「オルと会う前だけど、ドルドスからパラノスへ移動する途中で寄った古代都市ネテアって街に古代の遺跡があってね。そこの遺跡の内部の壁には硬化処理がされていたんだ」

「あの遺跡は古かったですけど、平気だったです」

「そんな場所があるんですね」

「ああ、もしあの塔にも同じような処理があるなら崩れる心配は無いのかもな」


 小型船をアミが桟橋に寄せたので俺だけ下船して上陸手続きを行い、四人揃って上陸できたのは朝6時半を過ぎていた。

 まずは大通りを歩いて、エワズ海運商会で紹介された宿にに向かう。


 通りを行き交う人を見ると独特な民族衣装を着ている女性が目立つ。

 俺の知っている転生前の知識でいうとインドの民族衣装のサリーに近く、カラフルな長い布を体に巻きつけている。


「あの女性の着ている服は目立ちますね」

「オルの着ていた礼装に近い感じがするわね」

「でも、あの女性の服は布1枚だけみたいです」

「珍しい服だよな」

「あの布の生地も気になるわね」


 たしかにサリスが気にするように布の表面に光沢があり綺麗である。

 俺はふと頭にある生地の名前が脳裏に浮かぶ。


(あれってシルクかも…。となると養蚕業が発達してるのか?)


 そんなことを考えて、しばらく歩くと宿に着いた。


 夜通し海上を進んでいたため、オルとアミもそろそろ寝ないときつい。

 オルとアミに手続きが終わったら宿で休息をとって欲しいと伝え、宿の手続きは任せて、俺とサリスは古塔都市クバの情報を集めることにした。


 まずは宿近くの店で食事をとることにする。

 いつものように、店員におすすめの料理を頼む。


「どうぞ、カオマンガイです」


 そういって店員が食事をテーブルに運んできた。

 そこにはスライスされた鳥肉とライスが皿に盛られていた。

 サリスが一口頬張って美味しいと呟く。

 俺も鳥肉とライスを頬張ったが、確かに美味しい料理だった。

 ライスにもしっかりと鳥肉からでた旨みが染込んでいる。


 俺は店員にどうやって調理したのか聞くと、鳥肉を茹でた際のスープにお米を入れて炊いたらしい。

 塩味と少しの香辛料だけで比較的あっさりした味付けだが、その為に鳥肉の旨みを十分に堪能できる料理だ。

 サリスもこの料理をかなり気に入ったらしく、先ほど店員が教えてくれた調理法をメモしていた。


「この料理は手軽に作れる割に、かなり美味しいわね」

「うん、今後作ってね」

「うん。期待して待っててね」


 そういうとサリスが微笑む。

 次の航海では、おいしいカオマンガイが食べれるなと思った。


 食事を食べ終えた俺とサリスは紅茶を飲みながら、今日の行動を確認する。


「まずは冒険者ギルドよね」

「そうだね。冒険者ギルドにいったら周辺の魔獣の情報と名所や特産品の確認だな」

「名所はあの古塔以外はないんじゃないかしら」

「たしかにあの古塔は目立つからなー」

「そうね」

「あと寄るところはあるかな?」

「装備工房と食材店、あとは雑貨屋かしら」

「雑貨屋は、あの布についてかな?」

「そうよ」

「なるほどな」

「あれは他の都市にもっていけば高く売れると思うわ」

「あまり布には詳しくないけど、そうなの?」

「間違いないと思うわ。まずパムじゃ見たことないわね」

「ふむ、最悪パムで売れば資金になるのか…」

「そうなるわね」


 俺は紅茶を飲み干して席を立つ。


「時間も早いし、全部回れそうだね」

「じゃあ、いきましょうか」


 サリスも立ち上がって一緒に店を出る。


 まずは冒険者ギルドに行き、Eランク掲示板を確認する。


 ・サングリエ討伐    銀貨4枚

 ・セイレーン討伐    銀貨4枚


「サングリエって名前はどこかで見たわね」

「どこだっけ?」


 俺はとりあえずパラノスの魔獣図鑑で確かめると、その魔獣の記載されたページがあった。


「ふむ、見た目はボアに似てるな。ほら」


 俺はサリスにサングリエの挿絵を見せる。


「たしかに角の生えてるボアね。そうすると、この補足の肉の採取も頷けるわね」

「味はボアに似てるんだろうな」


 俺は依頼の出ている魔獣の名前をメモしてから、近くにいたギルトの職員に冒険者証を見せ、旅の冒険者であることを告げて古塔都市クバの情報を教えて欲しいと告げる。


「なるほどドルドスからの冒険者ですか。遠い場所から大変だったでしょう」

「大型帆船などを利用して、ここまで来たんですけどね」

「そうでしたか」

「あの古塔はこの都市では、どういう扱いなのですか?」

「この都市のシンボルですね。いつの時代に作られたのか、誰によって作られたのかは分かりませんけど。それでもこの都市にずっとあったのでシンボルになってるんです。あとは昔は内部に入れたようですけど今は行政庁の指示で閉鎖されていますけどね」

「閉鎖?」

「内部の崩壊を食い止めるためですよ。そこまで劣化はしてないんですけど、やはり崩れたら大変ですから」

「なるほど」


 あの塔のてっぺんから見た景色が見れなくて俺は少し気落ちした。

 サリスが続けて職員に尋ねる。


「他に名所らしい場所は、ないのかしら?」

「あの古塔くらいですね」

「そうですか…。そういえば女性の方々が素敵な布を体に巻きつけていましたが、あれはなんていうのかしら?」

「あれはこの街でスラダと呼ばれる服ですよ、災いを退けるという意味があるんです」

「マジックアイテムなんですか?」

「いえ、普通の布なんですけどね。民族衣装というやつで古くから身につける風習があったんです」

「なるほど風習でしたか。そういえば普通の布とは違いますよね?」

「あれは魔獣から採れる糸を使用してるんですよ」


 俺はその魔獣に興味を持った。


「なんという魔獣なんですか?」

「おとなしいFランクの魔獣で、クピンサルという名前ですよ」


 名前を聞いてパラノスの魔獣図鑑を見たが、その魔獣の記載はなかった。

 念の為にドルドスの魔獣図鑑も見たが、やはり記載がなかった。


「パラノスとドルドスの魔獣図鑑には載ってないですね…」

「このあたりにしかいないんでしょうかね。わりと見かけますし、家で飼ってる人もいますけどね」

「「え?」」


 俺とサリスは驚いた。

 魔獣を家で飼うというのは危険すぎる。


「それは危険なのでは?」

「ある餌を食べさせると凶暴性が抑えられるんですよ。ほぼクバでは家畜扱いですね。あと暴れてもそこまで強くないので、すぐに倒すことも出来ますしね」


 人が飼うことの出来る非常に珍しい魔獣に俺とサリスはすごく興味をもった。

 このあたりでどこで見ることが出来るか職員に聞くと、クピンサルを飼っている農家を教えてもらった。

 俺とサリスは職員に頭を下げてから冒険者ギルドをあとにした。


「人と魔獣が共存する都市か…」

「砂塵都市クトのシャモールに近いような気もするけど、シャモールは飼っているわけではないわよね」

「そうだな。明日4人で見に行こうか」

「是非見に行きましょう」


 次に俺達は装備工房に足を伸ばした。

 工房の中を見て回ると、変わった金属製の矢を見つけた。


(【分析】【情報】)


 <<ハープーンアロー>>

 土属

 魔力 50

 耐久 80/80


(これは変わった形状の矢だな。形としては銛のほうが近いよな)


 金属製の矢の先端の鏃には、銛のような大きな返しがついている。

 一度刺さると肉に食い込むようになっていた。

 あとはシャフトが太くて、横から見て長細い溝穴がついている。

 その溝穴の長さはシャフトの先端から後端まであった。


 俺は店員に聞いてみた。


「この矢はなんですか?」

「ああ、それはハープーンアローだよ。水に住む魔獣用の矢さ」

「え?普通はロープ付きの銛を使いますよね」

「もちろん銛もうちでは売ってるけどね。こいつは銛のような働きをするように作られた矢なのさ」


 店員が、そういうと先端に金属製の円環状のフックのついたロープを持ってきた。

 そのフックをハープーンアローの溝穴に引っ掛ける。


「矢を番えるときは、溝穴の先にフックを持っていくんだよ。そして矢を放つと勢いでフックが溝穴の後方に自然と移動して飛んでいくんだ」

「へぇー」

「前は矢の先端だけにフックを引っ掛けていたんだけど、ロープの重さで遠くまで飛ばすのが難しかったのさ」

「バランスが悪かったんですね」

「ああ、近くにいる魔獣なら手投げの銛でもいいんだし、あまり使われていなかったんだけど、この溝穴のおかげで後方にロープが移動するようになって当てることが出来る距離が伸びたんだよ」

「なるほど…」

「まあ、普通の矢とは違うから使おうとすれば練習がもちろん必要になるけど、それでも遠くの魔獣に矢を当てて引き摺る事が出来るのは魅力があるんだよ」


 俺は海の魔獣対策にかなり有効だなと思ったので、ハープーンアローとロープを3セット購入した。

 他に普通のロープ付きの銛も3本購入した。


「話を聞いてたけど面白そうな矢ね」

「ああ、オルに渡してみようと思ってね」

「オルなら少し訓練すれば、すぐにコツを掴みそうよね。今でも破砕粘土付きの矢も放ってるし」

「うん」


 少し時間が遅くなったが、最後に布を売っている雑貨屋に寄ってみた。

 サリスが店員と一緒にスラダに使われている布を真剣に見ている。

 あの様子だと購入するには、かなりの時間がかかりそうだと思い、俺は布購入をサリスに任せて店の外で待っていることにした。


 目の前を大勢の人が行き交う人を眺めながら明日の予定を考える。


(まずはクピンサルのいる農家の見学だな…。あとは…うーん、古塔にも入れないし…)


 俺はサリスの買物が終わるまで、明日の夕方古塔都市クバを出発するかどうか悩み続ける。


2015/05/08 誤字修正

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