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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
121/192

5-9 入り江

 竜暦6561年7月17日


 朝7時に東部部市ナムパトを出港した俺達は曇り空を眺めながら、次の寄港地の島嶼都市タゴンを目指していた。


 港を出た当初は平気だったが、徐々に雲が厚くなっていき、波の少しづつ荒れてくる。

 13時を過ぎた頃、とうとう雨が降り出したのを契機に船を安全な場所に移動させることになった。


 まずは速度を落とし横波にも気をつけ、ゆっくりと進む。


 俺は【地図】を使い、近くに入り江がないか探すと、ほどなくして避難に適した小さな入り江を見つけることができた。

 小型船を波の穏やかな入り江に移動してから碇を下ろす。


「おつかれさま、よくこんな入り江を見つけたわね」

「たまたまさ。ちょうど入り組んだ場所が目に入ってね」

「少しは揺れも小さくなったし良かったわよ」

「天気が落ち着くまで横になろう」


 俺とサリスは操船室から船室に移動した。

 中ではアミとオルが休んでいた。

 俺はアイテムボックスから酔止薬を取り出して3人に勧める。


「どれほど荒れるか分からないし酔止薬を飲んでいこう」

「はいです」

「ありがとう、ベック」

「私はさっき飲んだから平気よ」

「じゃあ、俺が飲んでおこう」


 俺達は薬を飲んで揺れる船の中で休むことにした。

 キャビンにあたる雨音が激しくなっていく。

 横になっているサリスが不安そうに話す。


「1日おいて明日出発すればよかったわね」

「そうだな。ここまで酷くなるとは思ってなかったよ」

「朝の天気が曇り空なら出港を見合わせたほうがよさそうですね」

「そうだな」

「静かにして今は寝るです。すぐにやむです」

「え?」


 アミが変なことを言い出す。


「アミ、天気の変化がわかるのか?」

「耳がむずむずしなくなってきたです」

「オルは耳はどう?」

「いや僕は普段と変わんないよ」

「朝からずっとむずむずしてたら、やっぱり雨が降ってきたです」

「アミは凄いわね」


 アミだけが持ってるパーソナルスキルらしい。

 というか天気が分かるとか凄いんだが…


「アミ、耳がむずむずしなくなると天気はいつもどうなるのかな」

「晴れるです」


 自信満々でアミが答える。

 まあ、すこし様子を見てみようと俺は思った。

 さすがにすぐには信じられない話だからだ。


 船室で天気が回復してるのを待ってると3時間ほどして、雨がキャビンにあたる音がしなくなった。

 俺は操船室に出て、外を確認すると西の空から晴れ間が出ており、入り江の外の波もかなり小さくなっているのが見てとれた。


(まさか、本当にアミは天気がわかるのか!)


 俺は信じられない状況にびっくりした。


 時間を見ると16時半だった。

 この状況なら出発できそうだが、夜間進むならアミとオルに頼ることになる。

 船室にいる三人を起こす。

 眠そうにする三人に状況を説明する。


「この様子ならもう少しで出発できそうだから準備をしよう」

「晴れてきたのね」

「ああ、西の空が明るくなってるよ。いま16時半だから先に食事をとってしまおう」

「じゃあ、鍋を温めるわね」

「ああ、頼むよ」


 サリスが鍋を温める。


「操船はオルとアミに頼んでいいかな、もう夜になるしね」

「うん、任せてくれていいよ」

「大丈夫ですー」

「しかしアミのいうとおり晴れたな」

「私の耳に間違いはないです」

「というか、いつ頃からそんなことがわかるようになったんだい?」

「わたしが小さい頃です」

「へぇー、アミさんは凄いんだね」

「えへへ」


 アミが照れくさそうに笑う。

 しかし本当に凄い能力だ。

 もしかしてら気圧の変化に敏感なのかもしれない。

 転生前の世界でも、天気によって膝や関節が痛むなんて話す人もいたし、そういった類の能力なのかなと俺は思った。


「アミ、今後むずむずすることがあったら、オルに話してくれ」

「なんでオルにです?」

「そのほうがオルが喜ぶだろ」

「べ、ベック!なにを馬鹿なことを」

「じゃ、オルに話すですー」

「オル、よかったな」


 オルが顔を真っ赤にしているが、まんざらではなさそうだ。

 まあ、このくらいの出来事に慣れておかないとオルも先に進めないからなと、笑いながら俺は思う。


「はいはい、みんなお皿を持ってきてね。よそうわよ」


 オルとアミはそれぞれ自分の皿をもってサリスのところにいくと、サリスがカスレをよそう。

 俺は自分の皿とサリスの皿をもっていく。


「気が利くわね」

「ああ、このくらいはしないとな」


 俺とサリスのカスレをよそうとサリスも食事につく。


「このカスレという豆料理は美味しいですね」

「サリスのカスレは普通のカスレより美味しいからな」

「サリスは料理が上手ですー」

「アミもさ、オルに料理を作ってあげるようにならないとな」

「そうよ、アミ」

「え、えっと、サリスに任せるです…」

「二人ともからかわないで下さい」


 アミとオルの猫耳が紅くなるのをみて、俺とサリスが小さく笑う。

 海上での雨で大変な日であったが、この日の夕食はとても楽しいものであった。



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