表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
115/192

5-3 タンドリーチキン

 竜暦6561年7月2日


 サリスの起こす声で俺は目覚めた。

 時計を見ると6時半である。

 御者の交代時間だ。


 外に出ると東の空が徐々に白んできていた。

 馬車は街道の脇に留めていてシートの上でオルとアミが食事を取っていた。


 俺はサリスと一緒にシートにいくと、そこにあった料理を見てビックリした。

 サリスがメガプテルの肉をカレーで使う香辛料に漬けて焼いた料理を二人に提供していたからだ。

 どうみてもタンドリーチキンである。


「おいしそうな料理だな、サリス」

「クシナで同じような鳥肉料理があったんだけど香辛料をまぶしただけだったから、ちょっとアレンジを加えて漬け込んでから焼いてみたのよ。味はどうかしら」

「こっちのほうがわたしは好きです!美味しいです!」


 アミが食べながら興奮してしゃべる。

 オルも美味しそうに鳥肉を頬張っている。


「漬け込んで焼くのはルードン村近くの料理方法なんですけど、サリスさんは鳥肉の漬込焼きは知らなかったんですよね?」

「そうよ、でもそういう料理を出す地域もあるのね」

「独力でここまで再現できるって、サリスさんは本当に凄いですよ」


 オルがサリスを褒めている。

 俺も一緒に鳥肉の漬込焼きを食してみたが、まさにタンドリーチキンであった。

 鳥肉もジューシーだし香辛料のピリっとした味も食欲をそそってくる。


「鍋の中で多めに鳥肉を漬けているから、夕方にでもまた焼いてあげるわね。それまでにはもっと香辛料が染みこんでいるはずよ」


 その言葉に俺達三人は喜んだ。

 やっぱり美味しい料理が食べれるのは嬉しいものだ。

 サリスがいて本当によかった。

 愛してるよ、サリス。

 俺はサリスに感謝しながら美味しい鳥肉を頬張っていく。


 東の空に陽も顔を見せたので、休憩を終わりにして馬車を進ませることにする。

 俺が御者で、3人には馬車の中で休んでもらうことにした。


 朝焼けに染まった景色を眺めながら、俺は御者台で馬を操りながら【地図】を使った。

 宙に地図が映し出される。

 一度通った道なので、バイムまでの残りの距離が大体把握できる。

 おおよそだが、のこり25kmくらいだろう。

 このまま馬車を進ませれば夕方にはバイムに着くはずだ。


 頬をなでる朝の少し冷たい風が気持ちよい。

 俺はのんびりと馬車を走らせ景色を堪能していく。


 二日間走らせ続けて馬もだいぶ疲れが溜まっているようなので、街道脇に馬車を留めてこまめに休憩をとりながら先に進む。

 15時をすぎたくらいで、3人が起きたようで声をかけてきた。

 俺は街道脇に馬車を留めて馬に桶で水と飼葉を与える。


 サリスが少し早いけど食事を作るということで、鍋の中で漬け込んでいた鳥肉を焼いてくれた。

 朝も食べたが、やはり美味しい料理だ。

 4人で食事を取ってから少し休憩して、また馬車を走らせる。


 御者は引き続き俺がやって、隣にはオルが警戒にあたってくれることになった。

 弓の手入れをしていたオルが俺に小声で話しかけてくる。


「ベック、ちょっと話を聞いてもいいかな」

「ん?暇だし平気だよ」

「え、えっと、あの、えっと…」


 オルが顔と猫耳を真っ赤にしながら口ごもる。


「どうした?」


 オルは馬車の中の二人に聞こえないような小さく抑えた声でつっかえつっかえ話す。


「や、宿に泊まる時だけど、そ、その僕とアミさんは、お、同じ部屋なのかな…」


 そういえばアミとオルが宿で一夜を共にするのは港湾都市バイムからである。

 宿で二人で一緒に寝るのは、馬車の中で一緒に寝るのとはわけが違う。

 オルにとっては、かなり恥ずかしいのであろう。

 オルにだけ聞こえるように小さな声で俺も話す。


「恥ずかしいなら、当分俺とオルで二人部屋に泊まってもいいけどな。もしくは四人部屋を借りて全員で寝泊りしてもいいよ」

「うーん」


 オルが腕を組んで悩んでいる。

 恥ずかしいのは恥ずかしいが、それでもアミと交際をはじめたのに、アミと二人きりになれるのを拒否するのもアミに悪いと思っているみたいだ。

 俺は猫耳と尻尾をくるくる動かしながら、悩んでいるオルを見て微笑んだ。


 一ヶ月近くクシナ迷宮都市で、修行を共にしてきたが、オルは本当にいいやつだ。

 まず裏表がなく正直だ。

 何事にも真摯に向き合う姿は好感をがもてる。

 しかしそういった反面、その性格が災いして少々不器用な面もある。

 弓の腕はものすごく器用なんだけど。


 今悩んでいるオルの姿は、まさにその性格を表していた。

 俺がオルを見て微笑んだ理由は、もう少し気楽に物事を考えればいいのになという理由からだった。


(そういえば、オルはルードン村で年の近い子がいなかったんだっけ…、え、もしかして!)


 悩んでいるオルの猫耳のそばで、俺は小声で聞いてみた


「もしかしてオルは女性と、あの経験をしたことがないのかな」


 オルが固まった。

 そしてギギギッと音がするような感じで、首をゆっくり回して横にいる俺を見てから小さく首を縦にふった。


(あーー、オルは童貞か…。まあアミも処女だしな…。でもアミはサリスからもいろいろ聞いてるみたいだし、まだマシかな…)


「どこまでの経験ならあるのかな、アミ以外の女性とキスしたことは?」

「え、えっと小さい時に母さんにしてもらったくらいで…」

「アミとは…」

「ま、まだしたことないよ」


 ウブな青年がここにいた。


「じゃあ、アミ以外の女性と手を握ったことは?」

「母さんとなら…」

「アミとは」

「ま、まだだよ」


 本当にウブな青年がここにいた。


「もしかして女性とデートしたのはアミがはじめてだったのかな?」


 オルが小さく首を縦にふった。


(段階を踏まずに、いきなり宿で同室はさすがに酷だよな…。オルにとっても、アミにとっても…)


「当分は俺とオルで部屋をとろう。オルとアミの同室は二人の仲が進展してからにしようか」

「そ、そうしてもらえると助かるよ」

「でもオルのほうから積極的に仲を進展させるようにしないとアミにも悪いからな。頑張れよ」

「あ、ああ、頑張ってみるよ」

「まずは手をつなぐところからだな。スキンシップは大切だから」

「う、うん」


 俺に言われて、オルは右手を何度もグーパーさせて手を握る訓練をしている。

 オルには悪いが本当に不器用だなと、俺はその姿を見てついつい笑ってしまった。


 しばらくして陽が傾き始めたところで港湾都市バイムが見えてきた。

 近づいてくる港湾都市バイムを眺めながら、これからヒノクスに渡る準備で忙しくなる日々が待ってるんだろうなと俺が考えていた。


2015/05/04 誤字修正

2015/05/04 表現修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ