5-1 ギガロックパペット
青年期【ヒノクス旅行編】開始
竜暦6561年6月30日
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・ギガロックパペット>>→魔獣:パッシブ:土属
Dランク
HP 547/547
筋力 4
耐久 16
知性 1
精神 4
敏捷 1
器用 1
(亜種じゃないな)
離れた場所に表面に複数の岩が張り付いてる中型魔獣の姿がある。
姿は今まで戦った小型魔獣のクレイパペットやリビングデッドに近く、ずんぐりとした胴体から太い腕が二本生えていて、二本の足はなく胴体がそのまま地面に接している。
ただし大きい、背の高さは4m近くある。
真上から叩きつけてくる太い腕が厄介そうだ。
しかも討伐するとなると表面の岩を取り除かないと、ダメージを与えるのが困難だろう。
「作戦通り、アミは正面でギガロックパペットの気を引いてくれ。その間にサリスは足元へ破砕粘土の取り付けをお願い。オルは頭部への破砕粘土付きの矢を射ってくれ、頼む」
サリス、アミ、オルは大きくうなずく。
「《ガード》《ライト・スティング》《レフト・スティング》」
とアミが呟いてギガロックパペットの背後から音を立てずに駆け寄っていく。
駆け寄るアミの両手の盾が高熱を発していく。
足元に辿りつくとすかさず目の前のギガロックパペットに貼り付いている岩を右手のパイルシールドガントレットでアミが躊躇なく殴りつけた。
ドスっと鈍い音がする。
飛び出た杭が岩に突き刺さりヒビが入っていく。
さらに左手の杭の出たパイルシールドガントレットでヒビを目掛けて殴りつけた。
ガスっという音と共にアミの目の前の岩が割れ落ちた。
ギガロックパペットもいきなり攻撃されて激昂したのか、アミを目掛けて頭上から腕を振り落とそうとしたがアミは素早くその場を離れて距離を取り、腕の攻撃を避ける。
その隙にサリスが背面と側面の3箇所に破砕粘土を取り付けて距離を取って、その場から離脱。
オルも破砕粘土を巻き付けた矢を背中の岩の隙間に三本射ち込んでいく。
三人がギガロックパペットから距離をとって地面に伏せたのを確認した俺は、寝そべったままマルチロッドで足元の破砕粘土を狙って火の玉を撃ち込む。
「《バースト》!」
ギガロックパペットの背面の足元に火の玉があたると3つの破砕粘土が凄まじい爆発をおこす。
頭の上を爆風と砕け散った岩の破片が通り過ぎていく。
足元を大きくえぐられたことでギガロックパペットが倒れそうになったところで、上半身に刺さった矢に再度火の玉を放つ。
「《バースト》!」
先ほどと同じく大爆発がおきてギガロックパペットの背中が大きくえぐれる。
大きなダメージを受けて、たまらずギガロックパペットがその巨体を支えきれずに崩れ落ちた。
ギガロックパペットが巨体を起き上げようとするが、体の大半を失ったことでうまく体の制御が出来ず奇妙な動きをしている。
俺達はその隙を見逃さずに、大きくえぐれた背中側を中心に攻撃を加えていく。
アミが両手のパイルシールドガントレットで背面をガスガス殴りつける。
打撃音が太鼓を叩くように聞こえる。
サリスは太い腕を少しづつ削りつけるようにフレイムストームソードで剣を振るう。
その姿がアミの打撃音と合わさり剣舞を踊ってるようであった。
オルは離れたい位置から頭部を中心に矢を放っていく。
岩の隙間を狙ってあてる技量はさすがだ。
俺はチェーンハンドボウを用いて脇腹のあたりの岩の隙間にスパイクを次々と撃ち込んで行く。
ガシンッと大きな音がアミのほうから聞こえた。
「殻見つけました!」
俺はアミの元にいき、至近距離から殻を狙いスパイクを撃ち込んだ。
ゴスっと殻にスパイクが突き刺さると殻が崩れ落ちて、中から大きな魔石が姿を現すと同時にギガロックパペットは動かなくなった。
「ふぅー、お疲れ様です」
「ああ」
「なんとか倒せたわね」
「やはりクランはいいな」
オルの言葉に俺達は大きくうなずく。
「クシナでの修行の締め括りとして今日のギガロックパペットは良かったな。こいつを倒せるとは思ってなかったし」
「ちょうど討伐依頼が出てたし、でも支給品の破砕粘土3個だけで倒せなかったのは残念だわ」
「安全に倒せるなら、それに越したことはないだろ」
「ベック、先に鉱石を回収しておこう」
オルがギガロックパペットの頭部に向かう。
「これのことかな?」
オルが赤い鉱石を指差す。
(【分析】【情報】)
<<赤鉄鉱>>
土属
魔力 20
耐久 415/415
(酸化した鉄鉱石か、間違いないな)
「ああ、依頼の鉱石らしい」
持ち上げてみたが、やはり欠片にしても重い。
オルも採取しようと持ち上げたが、重いことに気付いたらしい。
「特殊な採取箱らしいし、とりあえず詰めていこう」
「そうだね」
俺とオルは鉱石採取を進め、その間にアミとサリスは魔石、矢、スパイクの回収をしていった。
全て回収が終わった俺達は採取箱の元に集まる。
採取箱を持ち上げようとしたが、やはり重い。
受付の人の話だと重量軽減処理がされているという話だったのだが…
俺達は結局持ち上げるのを諦めて、そのまま転移石を使って迷宮の外にでた。
受付の職員を採取箱のところまで連れてきて報告をすると、職員が驚いた顔をする。
「えっと箱一杯になるほど鉱石があったんですか!」
「いつもは違うんですか?」
「だいたいこの量の半分程度ですね」
「じゃあ、大物だったのかな…」
どうやら俺達が倒したギガロックパペットは他のDランク冒険者が放置していた一回り大きな魔獣だったらしい。
報酬は4人で銀貨38枚だったので、俺はオルに銀貨19枚を渡す。
アミの希望で、アミとオルの分配はオルにやってもらう話になっていたからだ。
オルは几帳面な性格をしており、こういったお金の管理や在庫管理に対してすごく有能であった。
消耗品の矢を使うので、自然とそうなっていったという話を聞いて俺はおもわず納得していた。
お金の管理は今まで俺一人でやっていたので、オルの隠された才能は俺にとっても非常に助かった。
これで、旅の計画だけに専念できるのだ!
オル、本当にありがとう!
君がいて本当に俺は嬉しいよ!
報酬を受け取ったあと俺達は冒険者ギルドに併設されたカフェで明日の出発の相談をすることにした。
「僕の方は代表に話しを通したし荷物もまとめたから。いつでも出発可能だよ」
「わたしも荷物をまとめたですー」
「私も数日分の食材の買出しは終わってるわ」
「俺も終わってるから平気だな、あとは明日何時に出発するかだけど朝5時でどうかな?」
「ガアナット村までと考えると、そうなるわね」
「僕はガアナット村までは分からないからから、まかせるよ」
「わたしは5時でいいです!」
「では5時に出発だな。オルとの待ち合わせは馬屋の前にしよう」
三人が大きくうなずく。
コーヒーを飲んでから俺は旅行準備メモを取り出して、港湾都市バイムについてからの計画を話す。
「バイムに着いてからだけど、まずは船の操船訓練をしようと思ってる」
「僕も?」
「ああ、全員で行うつもりだよ。24時間操船する可能性があるから交代することも考えないといけないしね」
「なるほど」
「あとは船に載せる食材などの物資の買い込みもあるね。これはサリスとアミに頼もうと思う」
「港に定期的に寄るし、そんなに買わなくてもいいんじゃないかしら」
「海があれた場合は沿岸の波の穏やかな場所に退避すると思うんだ。そうすると天気が回復するまで数日停泊する可能性があるからね」
「そうなると少し多めに買っておく必要があるわね」
俺はそこまで話をして行き先を告げる。
「元々はドルドスに戻るつもりだったけど、予定を変えてヒノクスにいこうと思ってる」
「「「え?」」」
三人が驚く。
てっきりドルドスのパムに戻ると思っていたからだ。
「バイムについてからヒノクスへ渡るための情報を港で集めるつもりだけどね、そこで問題なさそうならヒノクスに行く。難しいようならパムに戻るって考えなんだけどどうかな」
「理由を聞いてもいいかしら。昨日まで誰にもその話をしてないわよね」
「思いついたのは昨日の寝る前だからね、相談が今になって申し訳ない」
俺は三人に頭を下げる。
「ベックのことだから、ちゃんと理由があるんだろ」
「ああ。まずは今年の終わりまであと半年ある。このまますぐにドルドスに向かっても勿体ないかなと思ってね」
「長い時間、ルキス義姉様、アミス義姉様に経理を任せられないわよ」
「約束では年内に戻ると伝えてあるからギリギリ平気かなって思ってるんだけど…」
「うーん」
サリスが唸るっているが俺は話をつづける。
「7月中旬にヒノクスへ向けて出発すれば、途中港によっても8月中には到着すると思うんだ」
「小型船はそれほどの速さがあるんだね」
「うん、あとはパラノスに来て、小型船や新しい香辛料や破砕粘土など珍しいものも手に出来たからね、ヒノクスに行けばさらに知らない便利なアイテムなどが手に入る可能性もあると思うんだ」
「確かに否定できないです。あとは聖地や精霊の情報もあるかもです」
「ヒノクスを10月に出発すれば、ドルドスには年内に帰り着けるだろうから、ヒノクスで2ヶ月滞在できるのは大きいと思う」
サリスがまだ考え込んでいる。
「ヒノクスには新しい香辛料や食材、あとは料理もあるかもな」
サリスが俺を睨む。
「それで私を説得しようとしてるでしょ」
「まあ、そうだね」
「資金は足りそうなの?」
「ああ、小型船を購入したのでかなり減ったけど、まだ金貨20枚あるからね。平気だと思うよ」
「え!」
オルが目を大きくしてビックリした顔を俺を見た。
「いや、ちょっとまって!銀貨じゃなくて金貨だって!」
「アミ、オルに話してないの?」
「なにをです?」
「いや、クランで立ち上げたベック冒険旅行商会の収入のことだよ」
「話してないです」
「あー、てっきりオルに話してるんだと思ってたよ」
「本の出版と、冒険の報酬だけでそんな金額になるなんて…」
俺はアイテムボックスから写真機を取り出した。
「これのことは知ってる?」
「なんだい、その箱は」
「まだパラノスには届いてないのか」
アイテムボックスから風景を写した銅版を元に印刷したパム近郊の風景写真をオルに見せる。
「こういった風景を記録できるマジックアイテムで写真機っていうんだよ」
「え?風景を記録?」
「ああ、そうだよ、それでマジックアイテムの開発に関わっていて利益の半分が商会に入るんだよ」
「はぁぁぁぁ!」
オルが驚きすぎて大声をだしてその場で立ち上がる。
周りの客がオルを見つめる。
それに気付いたオルが猫耳を紅くしながら椅子に座った。
「君達には、いろいろと驚くことが多すぎなんだよ…」
「オル、元気だすです」
「ありがとう、アミさん…」
「でも他の国を旅したり、船を買ったりしてるのも納得がいったよ。ベックが大金持ちの商会の息子だとばかり思ってたからね」
「まあ、それも外れているわけじゃないわね」
「そうだな、オーガント家の実家は行商人だしな。でも父様の援助は受けてるわけじゃないから外れてるんじゃないかな?」
「実家も商売をやっているのか…」
「まあ、これから一緒に行動するし、いろいろ話していくよ。でヒノクス行きだけどどう思う?」
俺は三人に聞いてみた。
「僕はわからないことが多いけど、ヒノクスには興味があるかな。破砕球もヒノクスから伝わってきたしね」
「聖地や精霊の情報を集めたいので行ってみたいです」
「…しっかりと計画立ててるみたいだし、反対しないわよ。でも重要なことはもっと早く相談してね」
「たしかに唐突すぎたのは、俺が悪い。本当に申し訳ない」
「いいわよ、今後気をつけてね」
なんとかサリスも賛成してくれた。
「これ以上はバイムでヒノクスの情報を集めてから話をするよ、最初にいったように移動が難しいようならヒノクス行きはやめてドルドスに戻るからね」
俺がそういうと三人がうなづいた。
カフェでコーヒーを飲みながらヒノクス行きを強く反対されなくて良かったと安堵していた俺がいる。




