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4章完
竜暦6561年6月27日
寝ていると部屋の扉を叩く音がする。
サリスが起きて訪問者と話をしているようだ。
寝惚けた頭を無理矢理働かせて起き上がる。
「ふぁぁぁぁぁ、おはよう」
「おはよう、いまアミが来てたの。このあとオルが宿に来るらしいから二人で話をしたいって」
俺は水筒から水を二つのコップに注ぐと、一つをサリスに渡し、もう一つのコップの水を飲む。
冷たい水のおかげで頭が少しだけスッキリした。
「そうなんだ。結論が出たのかな」
「昨日4人で夕食を食べたあとも、二人で部屋に戻って相談してたし、出たんじゃないかしら」
「夕食の時もあの二人はずっと考え込んでたしな。あれじゃ食事の味を楽しめなかっただろうな」
「一生を左右する問題だし、しょうがないわよ」
「もし一緒になるなら俺達も無関係じゃいられないしな。もしかしたらアミとオルは、どちらかの里にこのまま戻るかもしれないし…」
「え?」
サリスが俺の言葉に驚く。
どうやらそこまでは考えていなかったようだ。
サリスは、いつまでもアミと一緒にいるもんだと思っていたのだろう。
「なんで里に…」
「二人が一緒になる場合、オルがクランに入るか、入らないかで選択が変わるんだよ」
「…だって…」
「血の問題が解決するんだし、生まれてくる子の事を考えると里に戻る選択の方が自然だと思うよ。それに俺達のクランは特別だ。世界を飛び回るんだからね。オルがクランに入ってくれる可能性は低いよ」
「…それは…」
「俺は4人で活動したいから、クラン加入をオルに勧めたけどね。決めるのはオルとアミだ」
「…」
「それにアミの幸せを考えると、俺はどちらの選択でも受け入れるつもりだよ」
「私もアミには幸せになって欲しいわ…でもここで分かれるとか…」
「分かれるのは、すぐじゃないかもだよ。ルードン村に戻るならアミはここに残るだろうけど、アンウェル村に戻るなら帰路はオルも一緒になるな」
サリスがコップの水を飲みほしてから、腕を組んで考えている。
複雑な胸中を察して、俺は無言で装備に着替えていく。
俺が着替え終わったところで、サリスも着替え始めた。
表情が硬い。
しばらくして時計が8時を過ぎたところで部屋にオルとアミがやってきた。
簡単な挨拶を交わしたが、二人とも緊張していた。
「結論が出たんだよね」
「はいです」
「僕が詳しい話をするよ、アミさん」
オルが硬い表情をして、俺とサリスに結論を話してくれた。
「ベック、サリスさん、僕をクランに入れてください」
オルが深く頭を下げる。
その言葉と態度でサリスが安堵した表情を見せた。
里に戻ると言い出さないか心配してたのだろう。
「俺もサリスもアミもオルの加入には歓迎だよ。反対する理由もないしね。ただなぜ加入を選んだか聞かせて欲しいな。クランに入らず二人で里に戻るという選択も出来たよね」
「私もそれを聞きたいわ」
「戻る件も含めて二人でたくさん話したです…」
「アミがサリスと一緒にいたいと我がままをいったわけでは、ないんだよね」
「いえ違います。僕がアミさんの夢に希望を感じたからです」
「希望?」
オルがアミを見つめると、アミがアイテムボックスから精霊石を取り出してテーブルに置く。
「聖地や精霊という話について僕は正直本当に存在しているのかと疑ってました。でもこの力ある光る石を見て考えを改めたんです。もし存在するのなら探してみたいと…」
「でもいずれは戻るんだろう。生まれてくる子の事もあるしね」
「はい、でもそれは先になると思います。それに…」
「それに?」
「違う国の猫人族同士で結婚するということ自体、僕は聞いたことがないんです。しかもお互いの里がまだ健在ですし」
俺は少し不思議に思い、アミに質問してみた。
「アミのいたアンウェル村ではどうたったんだい。10歳でパムに出てきたときは他の里の猫人族と出会えればって思ってたんだよね?」
「えっと、パムに来たときは同じドルドスにある里だと思ってたです」
「ああ、まさか異国まで足をのばすとは10歳の時じゃ予想できないか…」
その話を聞いてサリスが口を開く。
「クランの活動拠点はパムになるから、アンウェル村のほうが近いんじゃないかしら」
「たしかにな、でもパムとルードン村もそんなに遠いとも言えなくなるよ」
「「「え?」」」
三人が俺の言葉に驚く。
「高速で移動できる小型船を購入したろ、あれで移動すれば何ヶ月もかからずドルドスからパラノスに来れるよ」
「あ、そうだったわね」
「船を購入したとは聞いてましたが、そこまで速いんですか?」
「ああ、最新式だからな」
「移動時間が短ければ、どちらの里にも顔が立つだろう」
「その話が本当なら助かります」
オルとアミが安堵した表情を見せる。
やはりどちらの里に戻るのかという問題もかなり二人で話し合ったのであろう。
いまは小型船便りだが、飛行船が完成すればもっと二人が喜ぶなと俺は思った。
「まとめるとオルとしてはクランに入って、アミと聖地を探す旅に同行するという話なんだよね」
「はい。修行も出来ますし、アミさんも守っていきたいです」
「それは交際をするという話でもあるんだよね」
二人が見つめ合ってから俺とサリスに力強く返事をする。
「はいです」
「はい」
サリスが嬉しそうに笑う。
「よかったわね、アミ」
「ありがとです。ベックとサリスのおかげです」
「オル、アミのことを宜しくな」
「はい、アミさんを大切にします」
しっかりと二人で決断をしたのだ、俺も嬉しく思った。
あとは残る問題を片付けるだけだ。
「お互いの里の家族へ結婚の報告をしないとな。そこはどう考えてるのかな?」
「えっと…」
アミが恥ずかしそうにうつむく。
オルが俺とサリスに説明をしてくれた。
「実は猫人族での正式な婚姻は、初めての子が出来たあとに行うんです」
「そんな慣習があるのか…」
「子供が出来ないと結婚できないってことなのね…」
「ええ、なのでアミさんとも当分は結婚を前提にした交際状態になります。交際状態なら家族への報告は必要ないです」
「そういった慣習があるのも、やはり人が少なく出生率が低いのが原因なのかな」
「そうですね。血縁の問題が絡んでるとも思います。僕とアミさんでは問題ないでしょうけど、里ではかなり深刻な話なんです」
「じゃあ子供が出来たら、二人の里へ結婚の挨拶に行くことにしよう。そのときはクランの仲間として俺達も同行するよ」
「それがいいわね、ベック」
「船の手配もあるでしょうしお願いします」
「嬉しいです!」
里への挨拶は後回しになったので、つぎはオルのクラン加入を里の家族にどう伝えるのか聞いてみた。
「今朝お世話になっている代表のラタファエさんに話を伝えました。行商人経由ですが、僕の手紙と共にルードン村の長に手紙を送ってくれるそうです」
「それは助かるな」
「ええ、手紙にはクラン加入とドルドス出身のアミさんと行動を共にすると書いておきましたので、長が家族へ説明してくれると思います」
「あとで代表のラタファエさんに俺達もお礼の挨拶をしにいかないとな」
「そうね」
とりあえず問題なくオルと一緒にクシナ迷宮都市を出発することが出来そうだなと俺は思いを巡らす。
話がおわったオルとアミは緊張が解けていた。
今日はオルとアミの記念する日だ。
俺とサリスにとっても、家族であり親友でもあるアミが幸せを手に入れた日だ。
さらにクランとしてもオルを迎えて戦力が強化された嬉しい日だ
俺達は街に繰り出し、二人の交際とオルの加入を食事をとりながら盛大に祝った。
新しい日々がこれから俺達をまっている。




