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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【パラノス旅行編】
111/192

4-24 相談

 竜暦6561年6月26日


「キャスクホーンの依頼は良い修行になるし、報酬も高いし、本当に素敵よね」

「触手の動きにも慣れてきたしね、確かにそうだな」

「報酬うれしいです」


 最近俺達はキャスクホーンの討伐を中心にDランク魔獣で修行を続けていた。

 今日も角を回収して、さきほど報酬を受け取ったところだ。

 一人銀貨10枚は非常に助かる。

 クシナ迷宮都市の宿屋に一ヶ月間宿泊しているので、路銀が稼げるのは俺達にとっては、とても有難いことだった。


 冒険者ギルドを出ようとすると、オルが俺に武器の相談があるので二人きりで話したいと声をかけてきた。

 オルの顔を見ると、顔色が悪い。

 朝あった時から気付いてはいたが、そのままにしていた。


 俺はサリスとアミを先に宿へ帰らせてから、オルと一緒にカフェに入って話を聞くことにした。

 俺とオルが注文したコーヒーを、店員が運んできた。

 俺がコーヒーに口をつけると、オルが俺にたいして話を切り出す。


「ベック、出会ったときに話のあった僕への指名クエストの件だが、その後どう思ってるか聞かせて欲しい」

「指名クエストの件については、正直なやんでる」

「!」


 オルが目を大きくして前のめりになる。


「俺の実力じゃやはり不足なのか!」

「勘違いをさせたみたいだね、オル」

「勘違い?」

「指名クエストでは、オルとの間柄は一時的なものにしかならない。期間が終われば俺達はそれで終わりだ。延長して指名クエストを続けることも可能だろうが、それでもいつかは指名クエストは終わるだろう」

「…そうだな」


 俺はコーヒーを一口飲んでから話を続ける。


「3週間オルと一緒に過ごしてきたけど、正直な話としてオルをクランに誘いたいと思っている」

「え?」

「俺はアミとは詳しい話をしていないが、俺とサリスの間ではオルの実力を高く買っている。自分達の生死を預けてもよいと思ってるんだ。アミも気持ちは同じだろう」

「どうして…、理由を教えてくれないか」

「まず俺達のクランで欠けている遠距離職というのが大きい。いままで俺達は近接攻撃主体だったがDランク魔獣との修行で中型魔獣以上を相手にするなら遠距離職にいて欲しい」

「うん」

「次にオルは弓の腕がいい。お世辞ではなくて本当に凄い。長く修行してきた成果だと思う。狙った位置に矢を射るのは難しいことをしってるから特にそう思う」

「…うん」

「あと今フリーというのも大きい。オルがこのままクシナ迷宮で一人で修行を進めていけば間違いなく他のクランに誘われるだろう。他のクランに誘われたあとに俺達が誘ったんでは遅いからね」

「それは…」

「最後に一番おおきい理由は俺とサリスもオルが好きだし、それ以上にアミがオルのことが好きだからだ」

「…」


 オルがうつむく。

 青毛の猫耳と尻尾がペタンを垂れているのが見える。


「もうすぐここを出発するが、オルと離れることになるとアミは悲しむだろう。しかし指名クエストで期間限定で一緒いることも出来るが一時しのぎだ。結局オルと分かれるときにアミは悲しむ」

「…」


 俺は身を乗り出して、オルに言う。


「オルもアミの事が好きなのは見ていてよくわかってる。良い機会だし実際のところどれほどアミの事が好きなのか聞かせてもらいたい」


 オルは顔と猫耳を紅くしながら苦しそうにしゃべりだす。


「僕の中でアミさんは特別で大切な存在だと思ってる」

「思ってるだけなのかい?」

「幸せにしたい」

「どうやって?」

「そばにずっとついていて彼女を守る」

「アミには、そのことを伝えてないよね」

「…ああ」

「どうしてかな」

「正直不安なんだ。冒険者の実力にしても僕はまだまだ修行中だし、君達に迷惑をかけるんじゃないかとか、もし異国に旅に出てもうまくやっていけるのかとか…、そもそも外の国なんて俺にいけるのかとか…」

「じゃあ、いつになったらオルは平気になるのかな。Dランク試験に挑戦できる18歳?Cランク試験に挑戦できる22歳?」

「…」


 俺はコーヒーを飲んでから落ち着いた声でオルに話しかけた。


「俺達も修行の途中だし、この先のことを考えると不安があるよ。俺とサリスは結婚したけど旅先で強い魔獣に襲われて、どちらかを失うかもしれないっていつも不安に思ってる」

「…そうなのか」

「アミに関しては自分の村に年齢の近く血縁が薄い子がいなくて、ずっと不安だった。アンウェル村で血縁が薄い子が成人するのを待ってるとアミは24歳になるそうだ」

「…それはアミさんに聞いた」

「アミはその他にも将来の子供や孫について自分と同じように血の問題で困るんじゃないかと心配して不安になってる」

「え?」

「生まれてきた子供や孫にも血が濃すぎて結婚できないなんて事態になって欲しくないらしい。それで婿探しの他に聖地の研究もしてるんだよ」

「その話は聞いてなかった…」


 オルが俺から出た聖地の話にビックリしたようだった。


「オルだけが不安なんじゃないよ。みんな不安なんだ。でも前に進まないと何も掴めないし、そのうち後悔することになると思う」

「後悔?」

「オルがアミを諦めても、いずれはルードン村に戻って時を待てば結婚は出来るだろう。だけどそれでオルは本当に良かったといえるかな」

「…」

「決断をするのは俺じゃない。決断をするのはオルだから真剣に考えて欲しい」

「そうだね」

「俺が出来るのはアミとオルに幸せになってもらうために環境を整えることだけだからね。だからオルをクランに誘ってる。身勝手だけど許して欲しい」


 オルはコーヒーを飲んで、考え込んでから口を開く。


「ベック、僕とアミさんの事を真剣に考えてくれてありがとう」

「気にしないでいいよ。あと出来ればアミと一緒に真剣に今後のことについて話をして欲しい。オルと同じようにアミも不安になってるだろうしね」

「ああ、わかったよ」


 俺はコーヒーを飲みほすと席を立って、オルに一緒に宿にいこうと告げた。


「え?」

「アミが宿で待ってるはずさ。あと1週間しか残されてないからね」

「えーーー」

「わかったって言ったんだからすぐに行動しなきゃ駄目だよ。オル」

「いや、心の準備が…」

「オルの準備が出来るのを待ってると1週間経っちゃうぞ。ほらほら行くぞ」


 俺は引きずる様にオルを宿に連れて行き、アミの泊まってる部屋にオルを押し込んでからサリスの待つ部屋に戻った。


「お疲れ様、ベック」

「ああ」

「良い武器の相談は出来たかしら」

「いまオルをアミの泊まってる部屋に押し込んできたからね、良い相談が出来たと思ってるよ」

「それはアミが喜びそうね。さっきまで私が話を聞いてたけどアミもちょっと不安な顔をしてたから」

「あとは二人の問題だよ。結論は分からないが、もしオルがアミと一緒にいたいならクランに入ってもらおうと思ってる」

「そうね、アミには聖地探しもあるから、それが一緒にいるなら条件になっちゃうわね」


 俺は部屋のテーブルで取り出した旅行記の記事の続きを書き始めた。

 オルとアミの相談しあう風景を想像しながらペンを走らせていく。


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