4-22 休日
竜暦6561年6月13日
俺とサリスは二人でクシナ迷宮都市の近くにある丘に来ていた。
クシナ迷宮都市を一望できる場所で景色もよかった。
俺は写真機を取り出して、丘の上からみた風景を撮っていく。
「食事できわたよ」
「ありがとう、サリス。これを撮りおえるまで待ってね」
クシナ迷宮都市の北のほうに見える山脈の写真を俺はちょうど撮っているところだった。
かなり遠い場所にあると思われる山脈は6月だというのに白い雪に覆われている。
標高が高いのであろう。
「かなり高い山みたい。山の頭が白いわね」
「そうだな、でもここから見ると本当に綺麗だな」
「迷宮ばかり行ってるのも疲れちゃうし、こうやってのんびりするのも悪くないわね」
俺は写真機を片付けると、シートの上に座り、サリスの作ってくれた肉と野菜を挟んだナンを口に頬張る。
香辛料のスパイシーさが心地よい刺激を口の中に与えていく。
その味わいに食が進んでいく。
「サリスは、また料理の腕を上げたな。香辛料の加減が絶妙だよ」
「パラノスではドルドスに売ってない香辛料が多いわよね。いろいろ工夫しがいがあって楽しいわ」
「美味しい料理を食べれる俺は幸せだよ。ありがとな、サリス」
「ベックが美味しく食べてくれるから、作りがいがあるのよ。こっちこそお礼をいいたいわ」
二人で笑いながらクシナ迷宮都市を見つめる。
サリスがぼつりと呟く。
「うまくやってるかしらね。アミ」
今日はサリスの企みで、アミとオルが街に買物にいってるのだ。
サリスは、なんとか二人の仲を進展させたいらしい。
俺もオルが悪いやつではないので、応援したい気持ちはあるが、サリスが焦りすぎではないかと危惧していた。
「昨日も部屋で言ったけどサリスはちょっとアミの件を強引に進めすぎだとおもうよ。もっとゆっくり育んでいけばいいんじゃないかな」
「うーん。でも強引にしないと話が進まないわよ」
「そうかな?」
「どっちかが積極的ならいいんだけど、二人とも見るかぎりウブすぎるのよ」
俺もサリスと同じ意見だが、事を急ぎすぎるのも得策じゃない気がしていた。
「しかしオルはいいやつだな。アミをあれだけ大切にしてくれるとは。あとは性格もいいし弓の腕もいい」
「そうね、あと育った村に同年代の猫人族の女の子がいなかったのも良かったわね。ライバルがいないわ」
「でも、そのせいで女性に対して奥手だからな、いきなりアミとうまくやれってのも辛いと思うよ」
「だからこそよ、ここでアミともっと親密に仲良くなってもらったほうがいいのよ」
「サリスはオルとアミに一緒になってもらいたいんだよね」
「親友がはじめて恋心を抱いたのよ、応援したくなるわ。それに私もオルが予想以上に良い人だと分かってきたしね。奥手な部分さえ乗り越えれば二人は一緒になれると思うわ」
こういった恋愛に関するサリスの積極さは、俺と出会った頃からあまり変わってないなと思う。
しかし少し暴走してる気がしないわけではない。
あまり強引にすすめすぎた結果、破局というのは避けたいのである。
「サリスの気持ちと俺も同じ気持ちさ、だからこそ慎重に進めるべきじゃないかな」
「でもね…、あと3週間くらいでここを旅立つ予定よ。オルが私達と一緒に旅に出てくれないとアミが泣くことになっちゃうわよ…」
「そこはオルとアミに任せよう。本当に人生を左右する相手なのかを見極めるのは、オルとアミだからね。俺達は環境は整えることまでしか出来ないよ」
「…」
サリスが俺の言葉に耳を傾けてくれる。
「そう…ね…」
俺はサリスの肩を抱き寄せる。
サリスが赤毛のポニーテールを揺らしながら、俺の肩の上に頭を乗せてくる。
「アミを、いや違うな。家族を信じよう。心配なのはわかるけど見守ることも家族として大切だと俺はそう思ってるよ」
「…」
サリスは何も答えないが、俺の手を握ってくる。
いろいろと胸の内で思うことはあるのだろう。
しばらく俺は無言で考えるサリスに付き合うことにした。
空を見上げると青い空が広がっている。
ところどころ雲が浮いていて静かに流されていく。
小鳥がさえずる声が聞こえてくる。
頬をなでる優しい風が、サリスの赤毛のポニーテールをなびかせる。
陽も傾いてきたが、まだまだ高い場所にある。
クシナ迷宮都市を眺めながら俺はアミとオルの姿を思い浮かべた。
お似合いの二人である。
幸せになって欲しいなと願う。
ふと二人が結婚したら、二人はどっちの村に戻るのかなと思ってしまう。
もしかすると二人が一緒になる場合の一番の問題は、どちらの村を選ぶかなのかなと俺は気付いてしまった。
アミは10歳の時からアンウェル村を離れているとはいえ、家族もまさかドルドスから離れるとは思っていないだろう。
オルの家族も同様で、パラノスから離れるとは全然思っていないだろう。
数の少ない猫人族だ、どちらの村にしても、人が減るのは耐え難いはずだ。
サリスにこの話をしようかと考えたが、だまっておく事にした。
話せばかならず二人に決断を迫るだろう。
重要なことを決めるのはアミとオルだが、家族も関わってくるとなるとかなり悩むのは目に見えている。
俺に出来ることは、なにかないのかなと遠くに見える山脈を眺める。
自分のことを見つめなおしてみたが、やはり俺には旅に関連したことしか出来ない。
距離の離れているアンウェル村とルードン村との間の旅がもっと快適になって短い時間で行き来が出来るようになれば、二人は周囲から歓迎されるであろう。
(やはり飛行船かな…)
当分は小型船で間に合わせるしかないだろうが、内陸部の村と村を短時間で繋ぐのに、空を飛ぶ方法は有効である。
いずれは旅を快適にするために飛行船を開発しようとは思っていたのだが、パムに戻ったら前倒しで飛行船作りの資金集めを進めようと俺は決意した。




