第99話 決戦!ケイシソウカンマン!
翌日——。
俺たちは基地の外に出て、紅希を中心にならんでいた。
「よっしゃおめーら! いくぜ!」
紅希の声を合図に、前に向かって走り出す。
すぐに虹色の空間に突入し、そのまま走り続ける。何秒か走ると虹色の空間を抜け、俺たちはだだっ広い空き地に辿り着いた。
空き地の中心にはケイシソウカンマン。それも1人ではなく、武装した戦闘員軍団を引き連れて立っていた。
「よく逃げずに来たっすねハシレンジャー! 時間ピッタリで偉いっすよ!」
「お前に褒められる道理は無い。それに、お前は今から俺たちに倒される。それは変わりようの無い事実だ」
「舐められたもんっすね! じゃあ早速始めるっすよ!」
ケイシソウカンマンがそう言うと、戦闘員たちが銃を構える。
それを見て俺たちもハシレチェンジャーに手をかけた。
「ハシレチェンジ!」
5色のタイヤが俺たちの周りを回り出し、体にスーツが装着されていく。
ヘルメットを被ってチェンジが完了した俺たちは、ケイシソウカンマンを睨みつけた。
「赤い暴走! ハシレッド!」
「青い突風! ハシレブルー!」
「黄色い光! ハシレイエロー!」
「ピンクに突撃! ハシレピンク!」
「非道な悪を迎え撃ち、地球の平和を守るため! 日々身体の鍛錬と高校野球観戦に時間を費やし! 正義の組織を束ねる者! 黒い姿で闇を駆け……」
「なんで今長い方の名乗りをやるんだお前は! ああもう締まらないじゃないか!」
「ええ? 今絶対決めるとこやったやんか! 最後やしフルで名乗っとかなと思って」
「リズム良くやれ! お前だけでどれだけ尺を使うつもりだ!?」
全くこのタイミングでボケをかますなんて、どういう神経をしてるんだ……。確かに決めるところではあったが、ハシレイ1人が目立ってどうする。全員で名乗って最後に決めるのがテッパンだろうに。
「もうしゃあないなあ。黒い爆風! ハシレブラック!」
「エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
「ハシレンジャー!」
俺たちの後ろで大爆発が起こる。この名乗りも、もう最後だ。
「戦闘員たち、一斉射撃っす! ハシレンジャーどもを鳥の巣にしてやるっす!」
「言うなら蜂の巣だろう!? 鳥の巣にしても髪型がアフロになるだけじゃないか!?」
「そんな簡単にダチョウの巣にされてたまるかよ! ハシレンジャー、突撃だ!」
「いつ誰がダチョウに限定した!? ダチョウの巣って砂をちょっと掘っただけのやつじゃないか!?」
「うるさいにもほどがあるわね。ダチョウは足が早くてかっこいいからいいのよ」
「価値観が小学生で止まってるな!? 足の早さは今関係無いだろう!」
「そんなことを言ってる場合じゃないぞみんな! 私はまだスマハラの攻略が終わってないんだ!」
「今1番どうでもいいです! 昨日かっこいいこと言って買って来て、結局ただゲームしてただけじゃ無いですか!」
なんてマイペースなんだこいつらは……。呆れている間に、戦闘員たちの銃から光弾が放たれる。
それを見た俺はヘルメットの左側のタイヤを押し、叫んだ。
「思考暴走!」
俺たちの前に固いシールドが出現し、光弾を完全に防ぎ切る。弾幕が途切れた瞬間、ピンクが戦闘員たちに向かって飛び出した。
爆弾をありったけ取り出したピンクは、ヘルメットの左側のタイヤを押す。
「思考暴走!」
ピンクが放り投げた爆弾はどんどん大きくなり、戦闘員たちに直撃する。
「ぎゃあああああ!!」
次々に吹っ飛んで行く戦闘員たち。だがまだまだ数は減らないどころか、新たにどんどん出現している。一体何体いるんだ? まあ何体いようとも、全員吹っ飛ばすだけだ。
俺が銃を取り出して戦闘員たちに向けると、その両脇をレッドとイエローが駆け抜ける。
「思考暴走!」
イエローは真上に跳び上がり、大量にダガーを出現させた。黄色いダガーの弾幕が戦闘員たちを襲う。
「思考暴走!」
レッドは鉄パイプを巨大化させ、思い切り振り回す。レッドの周囲にいた戦闘員たちは根こそぎなぎ倒され、後ろにいる戦闘員にぶつかってドミノ倒しにやられていく。
俺の少し後ろにいたブラックは、釘バットを取り出して叫んだ。
「思考暴走!」
するとビキニ姿の女性が戦闘員たちの周りに大量に出現。妖艶な仕草で戦闘員たちを誘い、そのままどこかへ行ってしまった。
「おい真面目に戦え! 釘バットは何だったんだ!」
「こういう頭の使い方もあるっちゅうこっちゃ。勉強なったやろ?」
「お前ラスボス戦なんだからもうちょっとちゃんと……」
「ああ! 戦闘員たちが! よくもやってくれたっすね! これでどうっすか!」
ケイシソウカンマンが手を大きく振り上げると、地面から3つの影が出現する。
その影は、全て見覚えのあるものだった。
「ケイブマンにケイシマン、ケイシセイマンか……。大方戦闘員の体と3人のデータを使って一時的に再現しただけだろう」
「冷静にもほどがあるわね。冷凍庫で寝たのかと思うわ」
「だとしたらもう死んでるじゃないか! 余計なことを言わなくていいから、戦うぞ!」
俺たちは手元に自分たちで作り出したリーゼントのカツラを用意する。
「ハシレンジャー! リーゼントカスタム!」
5色の光が溢れ出し、俺たちは全員リーゼントカスタムへと姿を変えた。
「いくぜおめーら! ハシレンジャー! リーゼントダブルダッチ!」
レッドとブラック、イエローとピンクのリーゼントが繋がり、長く伸びていく。
4人はケイブマン、ケイシマン、ケイシセイマンを挟んだ格好で、頭をめちゃくちゃに振り回した。
「おいだから真面目にやれ! なんでダブルダッチなんだ!」
「これで疲れさせて倒すのよ。見て分からない?」
「なんだその地味な攻撃方法は! リーゼントはその使い方なのか!? あと俺はどうすればいい!?」
「ブルーはそこで指を咥えて見てたらいいぞ!」
「別に羨ましくないですよ!?」
幹部たちはなんとかダブルダッチをこなしていくが、そのスピードに耐えきれず、ケイブマンが引っかかってしまった。
すると幹部たち全員の足にリーゼントが絡みつき、めちゃくちゃに振り回された挙句どこかへ飛んで行ってしまった。
「さあ! あとはおめーだけだぜケイシソウカンマン! 落語しろ!」
「覚悟だろう! なんでこのタイミングで落語をさせる!?」
「毎度バカバカしいお話をひとつ……」
「お前も乗るな! なんで無駄にノリがいいんだ!?」
いつの間にか用意されていた座布団から立ち上がったケイシソウカンマンは、再び大きく手を振りあげた。
「まだ終わってないっす! 頼むっす! ロボ兵たち!」
すると空から以前も現れた巨大ロボが3体出現。着地の衝撃で地面が大きく揺れる。
「出番だぜ! ハシレンジャーロボ! ついでに耳かきを持ってきてくれ!」
「今耳掃除するな! そもそもヘルメットでできないだろう!?」
レッドの声に応え、ハシレンジャーロボが地面からせり上がってくる。
ハシレンジャーロボと敵ロボ3体が向かい合う格好となり、俺たちはハシレンジャーロボに乗り込んだ。




