第91話 バラバラになったハシレンジャー
「——ッ!!」
声も出せないまま、俺たちは吹っ飛ばされた。ハシレンジャーロボがゆっくりと倒れていくのが視界の端に見える。
あまりの衝撃に、意識がどんどん薄れていく。このまま俺は死んでしまうのか……?
嫌だ。まだ死にたくはない。ハシレンジャーとして、ホーテーソク団を倒すこと。それをまだ成し得ていない。
それに、まだ答えを出せていない。栞と再会してからずっと抱えている、俺のこの気持ちに。
まだ死んでたまるか。そう思いはするものの、意識は薄れていくばかり。自分の体が高速で飛んでいるのを感じながら、俺は意識を失った。
「——きろ! おい、橋田! 起きるんだ!」
「んん……ここは……」
上から大きな声が聞こえてきて、俺は目を覚ます。ぼんやりとしていた視界がだんだんとはっきりしてきて、必死に俺を揺すっている鳥羽部長の顔が見えた。
微かに磯の香りがする。海まで飛ばされたのか……?
「部長……無事でしたか……」
「ああ! 私は大丈夫だ! 咄嗟にチェンジして華麗に着地を決めたからな! 周りにいた人たちもその華麗さに拍手してくれてな! それはもう見事なスタンディングエクスプロージョンだったぞ!」
「スタンディングオベーションじゃなくてですか!? 立ったまま爆破させてませんか!?」
「安心しろ! 着地の衝撃を和らげるために何個か地面に爆弾を投げたが、中身は海苔の佃煮だ!」
「なんでそんなもの投げたんですか! だから磯の香りするんですか!?」
ということはここは海ではないのか。俺は一体どこに来てしまったんだ? 周りを見ると木々に囲まれており、森かどこかのようだが……。
「ハシレチェンジャーの位置情報によると、どうやら上手く基地の近くに飛ばされたらしい。とりあえず基地まで戻って、みんなを探すぞ!」
「それはラッキーですね……。分かりました。すぐに向かいましょう」
「だが橋田、ちょっと待て。体は大丈夫なのか? 私も橋田が倒れているのをさっき見つけたところだから、どんな状態か把握していないんだ。どうだ? ちゃんと逆立ちできるか?」
「しないです! できたとしてもしないです! なんで今ここで倒れてるやつに逆立ちさせようとするんですか!」
「無理なら側転で誤魔化してもいいぞ!」
「歩かせてください! 倒立を伴う動作をさせるのやめてもらえます!?」
こんな時でもマイペースな鳥羽部長に呆れながら、体を起こしてみる。ところどころに擦り傷はあるが、目立った外傷は無さそうだ。上手いこと着地できたのか? いや、俺の横に大きな茂みがある。あそこに着地したから助かったのか……と思ったら、右足に深い切り傷がある。木の枝に引っ掛けでもしたのだろう。
「部長、少し待ってください。足を怪我しているようなので、応急処置をしてから行きます」
「アジを逃がしている?」
「足を怪我しているんです! なんでアジを逃がしてるんですか! 釣り人ですか俺は!」
「足を怪我しているのか! それは大変だ! 痛みを和らげるためにコント動画でも見るか?」
「気を紛らわせてどうするんですか! そんな遠回しの応急処置は要らないです!」
ツッコミながらポケットからハンカチを取り出し、傷口に巻く。本当は洗い流したいところだが、パッと見た感じ近くに川は無い。一旦これで我慢しておこう。
「終わりました。部長、行きましょう」
「よし! タクシーを呼んであるからとりあえずこの森から出るぞ!」
「タクシー呼べるなら最初から呼んでくださいよ! なんでちょっと逆立ちさせようとしたんですか!」
「いやあすまない。ついぽっくり」
「うっかりでしょう!? そんな軽いノリで死なないでください!」
俺たちは森を出てタクシーに乗り、基地を目指した。
そして十数分後、俺たちは基地に到着していた。料金を支払ってタクシーを降り、基地の入口まで走る。
「急げ橋田! みんなはもっと重症かもしれない! 早くハシレチェンジャーの信号を追跡して、場所を見つけるぞ!」
「了解です。今システムを起動するので少し待ってください」
「分かったぞ! なら起動するまで私はパ〇プロをやるぞ!」
「なんでのんびりできるんですか! すぐ起動しますから!」
「もうすぐペナントの結果が決まるんだ! 頼む! 少しだけやらせてくれ!」
「さっき急げって言ってたの忘れたんですか!? ゲーム内のペナントレースはどうでもいいでしょう!」
「だがあと少しで5位に上がれるんだ!」
「今最下位なんですか!? なら尚更どうでもいいじゃないですか!」
そんなことを言っている間に、システムが起動する。俺はすぐにハシレチェンジャーの信号を辿り、仲間たちの居場所を探した。
「紅希とハシレイはお互い近くにいるようです。黄花だけ少し離れていますが、あいつならテレパシーで呼びかけられます。まず黄花を紅希とハシレイに合流させましょう」
「あーっ! またホームランを打たれた!」
「ゲームやめてください! 何のんびりしてるんですか!」
「くそう……これで9者連続ホームランか」
「早くピッチャー変えればいいじゃないですか! ……いやゲームをやめてくださいまず!」
「仕方ない、一旦この試合はリセットしておくぞ! それでシュークリームが何だって?」
「言ってないです! なんでこのタイミングでシュークリームの話するんですか!」
「分かってる分かってる。黄花くんにテレパシーを送るという話だろう? 私を舐めるんじゃないぞ。ちゃんと聞いてるんだからな。それじゃあ黄花くんを呼んでみよう! せーの、黄花おねえさーん!」
「子ども番組じゃないんですから! ちゃんと呼んでください!」
(はーい)
「お前も応えるな! 余裕だな1人のくせに!」
黄花からアホみたいなテレパシーが返ってきたが、これでとりあえず黄花が無事であることは分かった。一安心だ。
(黄花、今お前だけ少し離れたところにいるようだ。俺は部長と一緒に基地にいる。紅希はハシレイと近いところにいるから、まずは紅希たちと合流してくれ。俺たちもすぐに向かう)
(了解よ。それで、最初のお歌は何にするの?)
(子ども番組のノリを引きずるな! いいから紅希たちのところへ行け!)
(それじゃあ最初はこのお歌! 『固定資産税っていいな』)
(どんな歌だ! ああもうなんでもいいから向かってくれ!)
本当にちゃんと向かってるんだろうな……? とりあえず黄花を信じることにした俺は、出発するために鳥羽部長に声をかける。
「部長! 黄花に紅希たちと合流するよう伝えました! 俺たちも行きましょう!」
「了解だ! 今キックボードを準備するぞ!」
「要らないですそんなもの! いいから早く行きますよ!」
「待ってくれ、まだローラーブレードを履いてない」
「なんで普通に行けないんですか!」
俺は無駄な装備を身につけようとする鳥羽部長を止め、基地の外へ引っ張り出して紅希たちの元へ向かった。




