第63話 果たし状
突然駆け込んで来たハシレイを見て、俺たちは全員呆気にとられていた。
「大変やみんな! 大変大変、中国語でまたねは再見や!」
「落ち着けバカ! どうでもいい情報を投げ捨てて来い!」
「ああすまんすまん。ついしゃっくり」
「うっかりだろう! 確かにしゃっくりは不意に出るが!」
「ひいーっぷ! ひいっぷ!」
「尻からしゃっくりを出すな! それで、何があったんだ?」
ハシレイはいつものデスクにドカッと腰掛けると、左手に持っていたタンブラーから何かを飲んだ。
「司令ー、それ何飲んでんだー?」
「ああ、これはごま油や」
「本当に何を飲んでるんだお前は! よく飲めるな!?」
「この香ばしい風味が水分補給にちょうどええんや」
「コーン茶の感想! ごま油は水分補給になってないだろう!」
ごま油を飲み干して大きなゲップをしたハシレイは、やっと落ち着いて話し始めた。
「自分らが怪人を何人か倒したやろ? それに怒ったケイシマンが直接果たし状を送り付けて来たんや!」
果たし状だと……? あのヤンキーっぽいケイシマンのやりそうなことだ。
「ハシレイ、その果たし状を読ませてくれるか?」
「モヒカンや! あ、ちゃう間違えた、勿論や!」
「間違えすぎだ! 『モ』と『ン』しか合ってないぞ!?」
「不安や葛藤を解消できひんモモンガが水戸黄門と出会って問い答えのやり取りになる話はどうや?」
「悶々モモンガ紋所問答! もんもんやかましいぞ!」
「うるさいにもほどがあるわね。司令、本題は?」
「ああすまん、また脱線してしもた。ケイシマンの果たし状やな。モニターに映すで」
そう言うとハシレイは果たし状をデスクに置き、モニターに映し出した。なんか学校でこういう授業があったな。ちょっと懐かしい気持ちになるぞ。
「えーなになに? 『てぬえら、よくもやってくれたな。俺様がちょくちょくに出張るしかねえようだな。てぬえら、覚悟して待っていやがれ。P.S.サラダチキンってハーブ味しか受け付けねえよな?』とのことや」
「とりあえずケイシマンの字が汚いこと分かった。あと直々をちょくちょくと読んでることも分かった。要するにやつはバカだ」
「サラダチキンはハーブ味しか受け付けねーんだってよ! サラダとチキンを分けて食えばいーのになー!」
「うん、お前もケイシマンに負けず劣らずバカだな。とりあえずサラダチキンで検索して来い?」
手紙でもバカ丸出しなケイシマン。相変わらず気の抜けるやつだ。ホーテーソク団の幹部はこんなやつしかいないのか? 不安になって来たな……。
「別にその内容はいいのだけれど、日時も場所も書いてないじゃない。私たちはどうすればいいって言うのかしら?」
「確かに果たし状と言う割に必要な情報を書いてないな! こんなやつが私の部下なら、野球の上手さで部署異動を決められるところだぞ!」
「それ心当たりあるんですがどういう意味でしょうか!?」
鳥羽部長の言葉に不安を覚えていると、ハシレイが果たし状の隅を拡大し始めた。
「ちょっと待て、ここに日時と場所が書いてあるで。肉眼でギリギリ見えるかどうかのちっちゃい字やけど」
「詐欺契約書か! なんでそんな隅っこに書いてあるんだ!」
「司令、読み上げてみてくれないか? 私はちょっとばかし目が悪くてな。パソコンをずっと触っているからだろうか」
「俺も目がわりーからよー、読み上げてもらわねーと分かんねーぜ!」
「私は老眼が酷いからできれば読み上げて欲しいわ」
「なんでお前ら全員目にトラブルがあるんだ! 黄花は老眼って何歳だお前!?」
「失礼ね、私はまだカバで言うと11歳よ」
「人間で言え分かりにくい!」
俺以外の全員が目を凝らしてモニターを見る中、ハシレイが果たし状の隅にある文字を読み上げる。
「えーと、『場所:ケイシマンくんのおうち 日時:9月18日午後4時から 持ちもの:ケイシマンくんに向けたお手紙とプレゼント』とのことや」
「誕生日会か! 誰があんなやつを祝うんだ!」
「こら橋田! 誕生日は誰しも平等に祝うものだぞ!」
「こいつが誕生日かどうかも分からないじゃないですか! そもそもこれ果たし状ですよ!?」
「でもよー、18日って明日じゃねーの? もう準備しないとじゃねーか! 俺プレゼント買ってねー!」
「誰も買ってないから安心しろ! もう全員ハシレピンクの爆弾とか持って行きましょう」
「私はケイシマンとの思い出が詰まったアルバムを持って行くわ」
「彼女か! お前まだケイシマンに会ったこと無いだろう!?」
俺たちが騒ぐ中、ハシレイがコホンと咳払いをして俺たちを黙らせた。
「自分ら、油断してたらあかんで。ケイシマンはケイブマンよりも格上の幹部。あんまり舐めてかかると、真ん中のグミだけ残るで」
「グミの周りが飴になってるタイプのキャンディー! 誰がそんなお菓子なんだ!」
「分かったぞ! 気を引き締めて行こう! ということでみんな、今から私の家でサプライズの準備をしないか?」
「だから誕生日会じゃないんですって! 話聞いてました!?」
「そうだなあ、サプライズだからドアを開けた瞬間ウォータースライダーに落ちるとかはどうだ?」
「ドッキリじゃないですか! 祝いたいのか嫌がらせしたいのかどっちなんです!?」
「ワシはやっぱりパイ投げがやりたいなあ」
「お前はさっきの自分の発言を思い出せ!?」
こうして気の抜けたまま、俺たちはケイシマンとの決戦に向かうこととなった。




