第62話 リーダー会議
「ということで、リーダー会議を開催するわよ」
即席で用意された議長席に座る黄花が突然仕切り始める。別室で高校野球を見ていた鳥羽部長も召喚され、メンバー全員集合だ。
「リーダー会議とは言っても……どうやって進めるんだ?」
「基本的には立候補制ね。もし誰も手を挙げなかったら、みんなで投票して決める形になるわ。時間が余ったら沙悟浄オーディションもやるわよ」
「まだ沙悟浄を引っ張るのか! しつこいぞそろそろ!」
「これ、私はいた方がいいのか? 後から加入した身としては誰がリーダーであっても文句は無いぞ。先輩へのリスペクトがあるからな。あ、橋田、ちょっと喉が渇いたからコーラを買ってきてくれ」
「リスペクトはどこへ捨ててきたんですか! 早速パシらせてるじゃないですか!」
「コーラが無かったら酵素でもいいぞ!」
「酵素の方が無いでしょう!? そんなのが売ってる自販機見たことありませんよ!?」
これは絶対に話が進まないやつだ。もう分かるぞ。ボケがボケを呼び、俺が1人振り回されるいつものパターンだ。こんなのはクールじゃない。もうそろそろ勘弁して欲しいものだが……。
「それじゃ、立候補を募るわよ。ハシレンジャーのリーダーになりたい人、両手を挙げて『宗院財閥万歳』と叫びなさい」
「思想の強い挙手! 自社の支持者を増やそうとするな!」
「宗院財閥万歳!」
「宗院財閥万歳!」
「宗院財閥万歳!」
「ええ……」
俺を除く全員が両手を挙げてしまった。紅希、黄花、鳥羽部長は必死で両手を挙げてアピールしている。
「いや紅希と黄花はともかく、部長はさっき先輩へのリスペクトどうこう言ってたじゃないですか! なんで我先に挙手してるんですか!」
「私は管理職が好きなんだ! 人を耳で使う快感ったらもう!」
「顎でしょうそこは! 耳は両側にあるからどっちか分からないじゃないですか!」
「まあいいです。それで、紅希と黄花はなんでリーダーになりたいんだ?」
部長と同じく必死で両手を挙げる2人にも問いかけてみる。まず口を開いたのは紅希だ。
「俺はやっぱりみんなを引っ張っていきてーんだ! 引っ張って引っ張って、限界まで引っ張ってから離してーんだよ!」
「ゴムパッチンか! 何の罰ゲームだ!」
「ゴムパッチンってなんだー? 後ろから膝を曲げてコケさせるやつかー?」
「それは膝カックンだ! だから何の罰ゲームだ!」
相変わらずアホだなこいつは。結局どうしたいのか分からないじゃないか。
「私は普通に考えて私がリーダーだと思っているわ。紅希はボケ、碧はツッコミ、桃子さんは大ボケっていう役割がそれぞれあるでしょう? 私しか余っていないじゃない」
「俺たちは漫才師じゃないぞ! あとお前もボケだと思うが!?」
「何を言っているの? 私は紅希や桃子さん、司令なんかと比べるとボケ密度は低いでしょう。むしろ自分で意識してボケたことは無いわ」
「そういうのを天然ボケって言うんだ! 無意識にボケられる方が困るぞこっちは!」
困ったやつらだ全く……。だが全員の言い分を聞くと、紅希が1番まともな気がするな。引っ張って離されるのは困るが、リーダーっぽいのも紅希だ。
レッドが戦隊のリーダーというのは王道だし、もう紅希がリーダーでいいんじゃないか? どうせ今までも戦闘中は紅希が仕切ることが多かったんだ。今更役割をどうこうしたところでそこは変わらないだろう。
「逆に碧は何故リーダーになりたくないのかしら。1番目立つわよ?」
「俺は真ん中に立って目立つのはあまり好まないんでな。まとめ役や仕切り役はもっと熱いやつがやった方がヒーローっぽいんじゃないか? 俺はクールでいたいからな」
「そういうことね。碧はプールにいたいのね」
「クールでいたいんだ! 別に水に入りたいわけじゃないぞ!?」
「なるほどー! 碧はプールでバイトしてーのかー!」
「誰が監視員だ! 夏休み限定のバイトをさせるな!」
「橋田はプールでタキシードとシルクハットを被った鹿に扮してマラソンを走り切りたいのか! そんな夢があったとはな!」
「プールシュールゴールしないでください! どんどん尾ひれが着いてきますね!?」
「じゃあ碧が鹿紳士マラソンランナーとしてバイトできるプールを探すわよ」
「議題が変わってるぞ! そんなどうでもいいものを探すな! 見つかるわけないだろう!?」
仲間たちの暴走をなんとか止め、俺たちは本題のリーダー決めに戻った。
「さて、困ったわね。3人も立候補者がいたら多数決ができないわ」
「うーむそうだな。今この場にいるのは橋田とそのペットのコモドドラゴンだけだしな……」
「俺がいつそんな足の早いトカゲを飼ったんですか!」
干し肉を齧りながら俺たちの話を聞いていた紅希が、面倒くさそうに口を開いた。
「じゃーもう碧に決めてもらえばいーんじゃねーの? どーせ1人しかいねーんだし」
「そうね。それしか無いと思うわ。桃子さんもそれでいいかしら?」
「ああ、異論は無いぞ。ところで沙悟浄オーディションはこの後でいいのか? 私も参加したいんだが」
「そろそろ沙悟浄への拘り捨てられますか?」
「よっしゃー! じゃー碧、せーのでリーダーに選ぶやつを指差してくれ! せーの!」
いきなりだな。だが俺的にはもう答えは決まっている。迷うこと無く人差し指を紅希の方へ向けた。
「おい碧! 人のこと指差すなよ!」
「お前が指差せと言ったんだろう! どこにキレてるんだ!」
「……ということで、ハシレンジャーのリーダーは紅希に決定よ」
黄花が悔しそうに言うと、鳥羽部長の乾いた拍手が響く。その音はどんどん大きくなっていき、遂に部長は歌い出した。
「パンパンパン! そーれかっ飛ばーせ橋田! 打ってーもアウトでも部署異動! かっ飛ばせー! は・し・だ!」
「理不尽な応援歌やめられます!? なんで俺だけ野球で部署決められるんですか!」
こうしてハシレンジャーのリーダーはハシレッドこと紅希に決定した。不安ではあるが、他の2人よりは真面目にリーダーをやってくれるだろう。
続けて始まろうとしている沙悟浄オーディションを止めようとしているその時、突然ハシレイが駆け込んで来た。




