第51話 新広告撮影会
「あー、今日は暇だな。業務が大体終わってしまった。何かやることはないだろうか。フォトウェディングとか」
「誰とですか! 唐突に花嫁姿を残さないでください!」
「私はウエディングドレス派じゃなくてな。体操服派なんだが、いいカメラマンはいるだろうか」
「白無垢とかじゃなくてですか!? そんな派閥聞いたことありませんよ!?」
「体操服のゼッケンを相手の苗字に変える瞬間と言ったら無いよな」
「知らない文化! どこの地域で育ったんですか!?」
「群馬県前橋市だ」
「前橋市の人に謝ってください!」
今日のタスクをこなしてしまった鳥羽部長が、暇つぶしにやたらと話しかけてくる。俺はハシレンジャーの活動で溜まった業務が大量にあるのだから、静かにしてもらえるとありがたいのだが……。
「ところで橋田、ケイシマンについて何か分かったか?」
「……いえ。調べるとは言いましたが、地球に来るのが初めてのケイシマンについてどう調べたらいいものかと悩んでます」
「そうだろうな。私も橋田が困っていると思って、一緒に困ろうと思ったところだ」
「解決策を持って来るとかじゃないんですか!? ただ困ってる人間が2人に増えただけですよ!?」
全く、部長はこんな調子だから困る。何故この感じで仕事ができるのかは分からないが、確かに連絡を返すのが異常に早かったり、たまに先回りして指示をくれたりすることもあるから、頭の回転が早いのだろう。その回転の早さをぜひボケ以外のところで発揮して欲しいものだ。
「橋田、それが終わったら次は広報の方を手伝ってくれないか? 私がハシレンジャーになったことで新しい広告の作成指示が出てるんだ」
「また広告ですか……。今までのは広告として全く機能していない気がしますが、今度は大丈夫なんですか?」
「ウーロン茶! 間違えたもちろんだ!」
「どんな間違いですか! 全然違いますよ!?」
「今回は私と橋田でビタミンドリンクのCMを作るぞ! ヒーローと言えばビタミンドリンクだからな!」
「その常識は知りませんが、本当に大丈夫ですか? 部長が心配です」
「失礼だな橋田! 私はちゃんとこの日のために気合いを入れて増量してきたんだぞ!」
「ボクサーじゃないんですから! 普通ダイエットでしょう!?」
部長にツッコミを入れながら業務を終わらせた俺は、そのまま部長について広告の撮影に向かった。
もう見慣れてきたグリーンバックのスタジオ。会社が俺(と部長)のためにお金をかけて用意したスタジオだ。1人ヒーローが出ただけでここまでしてくれる会社も無いだろうな。いや今は2人になっているが。
「よし! じゃあ早速始めるぞ! まず橋田はこれを持ってくれ!」
部長が手渡してきたのは、茶色い瓶に入ったビタミンドリンク。赤いパッケージがお馴染みのドリンクだ。
「それを思いっきり飲み干してくれ! おかわりも52万円分くらいあるぞ!」
「本数で言ってください分かりにくい! じゃあ飲み始める合図をお願いします」
「任せろ! 私が3.14からカウントするからな!」
「なんで円周率なんですか! どのタイミングで飲めばいいか分からないですよ!?」
「ああすまない。3・2・1とカウントして防犯ブザーを鳴らすから、そのタイミングで飲み始めてくれ」
「防犯ブザーは要らないです! 誰が不審者ですか!」
「じゃあいくぞ! 3・2・1!」
俺は部長のカウントでビタミンドリンクを開け、口を付けた。黄色いドリンクが喉を通り、弱めの炭酸が心地良い。ビタミンドリンクと言えばこの味、という妙に人工的な甘みを感じていたら、一気に飲み終わってしまった。
「カット! いい感じだ! 角度を変えて何回か撮るから、あと420本いけるか?」
「何カット撮るつもりですか! そんなに角度って存在します!?」
「それが終わったら私のカットに入るからな」
「まさか同じだけあったりしないですよね?」
「何言ってるんだ! そんなわけないだろ! 私のカットは君の倍だ!」
「減らしてください! それだけ撮ってどうするつもりなんですか!」
「そりゃあれだ、私たちのフィギュアを作って我が社の新商品として発売、私と橋田のセットなら10%オフで売るぞ」
「もう部長は余計なことせずに広告だけ作っててください!」
こうして相変わらずむちゃくちゃな部長の広告撮影は進んでいった。とんでもない量のカットを撮らされ、腹がちゃぽちゃぽになって何度トイレに駆け込んだか分からない。
なんでこうちゃんとした広告制作ができないんだこの人は……。やはり広報から外すべきではないだろうか。今は部長もハシレンジャーの一員なわけだし、責任者としては別の人間を置くのがベターだと思ってしまう。
ちなみに、後日出来上がった広告動画を部長が自信満々に持って来たが、案の定ハシレイのクリケット一人語りを延々と見せられたために作り直しをさせたのは言うまでもない。
こんなことをしている場合なのだろうか……。今もケイシマンがいつ怪人を派遣してくるか、やきもきしながら仕事をしている。ケイシマン、一体どんな敵なんだ……。




