第46話 ピンクに突撃!爆裂救世主!
「15! 16! 17!」
ひたすら回されていく縄を、俺たちはただ跳び続ける。本当に何をさせられているんだ……。敵の姿も見えないし、チェンジもできない。こんな絶望的な状況で、どうやって敵を倒して脱出しろと言うのだろう。
「21! 22! 23!」
「このままじゃ埒が明かないわ。なんとかしないといけないわね。縄を1本増やすとか」
「ダブルダッチにしてどうする! 難易度が上がるだけだろう!?」
「ダブルダッチって何だー? ゆで卵をひき肉で包んで揚げたやつかー?」
「それはスコッチエッグだ! 言うほど語感も近くないぞ!?」
「スコッチエッグの卵を半熟にするコツは、揚げる前に冷やすことにあるのよ」
「スコッチエッグはどうでもいい! 呑気かお前らは!」
何故ここまで追い詰められた状況でスコッチエッグの話などできるのだろう。不思議で仕方がないが、今はそんなことを言っている場合ではない。ハシレチェンジャーが奪われている今、ハシレイに連絡を取ることすらできないのだ。
つまり、俺たち自身で何とかしなければならないということ。そしてハシレンジャーの頭脳担当は俺だ。さあどうする自分?
「27! 28! 29!」
「やべー! 楽しくなってきたぞ! 俺もうちょっと前に行って跳んでもいーか?」
「無駄に体力を使うな! 今考えてるんだから大人しくしてろ!」
「私は今からこのマスカラで、私たちが引っかかった後何に転生するかを占ってあげるわ」
「不謹慎な占いをするな! 最終回じゃないか!」
「いえ、むしろ第1話よ」
「転生後がメインの話だったのか!? だからラノベかって!」
結局為す術も無く、俺たちはひたすらに縄を跳び続けた。ハシレンジャーとして戦っている俺たちの身体能力は生身でもそれなりに上がっていたようで、カウントは1200を超えた。
「1203! 1204! 1205!」
「ちょっと流石にキツくなってきたわね。同じリズムが続いてキラキラしてきたわ」
「イライラだろう!? 輝いてどうする!」
「俺なんか気持ち悪くなってきたぞー! 吐き散らかしていいかー?」
「せめて綺麗に吐いてくれ! 散らかすな!」
テンション自体はいつも通りだが、体力的には限界を迎えている。実際チェンジャーを奪われ、誰か1人でも引っかかったら終わりの状況で策を練るのは不可能に近い。唯一の望みがあるとすれば、異常を察した鳥羽部長がハシレイに連絡を取り、助けに来てくれることだが……。その望みもかなり薄いものだ。
「あー! まじで誰か助けに来てくんねーかなー!」
「ヒーローのセリフではないけれど、私も今はそれを願ってしまうわ。あとセイロンティーが飲みたいわ」
「セイロンティーはとりあえず我慢してろ! ……だがこれは本当に絶対絶命かもしれないな……」
そんな時、またどこからかデスゲームマンの声が聞こえてくる。
「どーーーだいハシレンジャー! そろそろ限界なんじゃないのかい? さあさあ、早く音を上げなよ! これで私の勝利dぶっごあ!」
「……え?」
驚いて声が出てしまう。今確実にデスゲームマンが吹っ飛ばされたような声がしたよな?
気づけば戦闘員たちが回す縄も止まっていて、俺たちはその場にへたり込む。
「な、なんか知らねーけど助かったー! 俺が昨日海に向かって投げたニジマスでも飛んで来たのかー?」
「お前は何をしてるんだ! 川魚を海に投げるな!」
「そうよ。飛んで来たのは、私が投げた方のニジマスよ」
「お前も投げてたのか! 2人して何してるんだ!?」
座り込みながらツッコミを入れていると、壁をぶち破って何かが飛び込んで来る。
黒いマントに身を包み、ロボットのような顔をしているそれは、瓦礫を払いながら立ち上がった。
「なんてパワー……! 私をここまで吹っ飛ばすとは……!」
こいつがデスゲームマンだな。誰に吹っ飛ばされてここまで来たんだ……?
そう思った矢先、デスゲームマンがぶち破った壁の穴からピンクのビジネススーツを身に纏った女が入って来た。
「待たせたなハシレンジャー! SAS〇KEに来たぞ!」
「助けに来てください! え、部長!? 何してるんですか!?」
「橋田、もう大丈夫だ。これも取り返して来たぞ!」
そう言うと鳥羽部長は俺たちに何かを投げる。キャッチしてみると、俺たちのハシレチェンジャーだ。
「取り返してくれたのはありがたいですが……。何がどうなってるんです!?」
「君たちは疲れているだろう。少し休んで、ここは私に噛ませろ!」
「せめて任せろでしょう!? 噛んでどうするんです!」
デスゲームマンの前に仁王立ちする部長の左腕には、真っピンクのハシレチェンジャーが巻かれていた。
部長はハシレチェンジャーのアクセルに手をかけ、信じられない言葉を発した。
「ハシレチェンジ!」
鳥羽部長の周りをピンクのタイヤが周り出し、瞬く間に鳥羽部長の姿はピンクの特攻服風のスーツを纏った、俺たちと同じハシレンジャーになっていた。
「は? こんな戦士がいるなんて聞いてないよ! 私はハシレンジャーは3人だって……」
「それはそうだろうな! 何故なら私はたった今この瞬間、初めてハシレンジャーになったからだ! これが初体験か……!」
「語弊のある表現はやめてください部長!」
「よし、行くぞ!」
鳥羽部長/ハシレピンクは、ヘルメットの右側面にあるタイヤを押し、武器を召喚する。その両手に出現したものは、大きな爆弾だった。
「これをめちゃくちゃ投げる!」
「雑な戦法だった! 強そうではありますけど!」
ハシレピンクは思い切り両手を振り上げ、次々に爆弾を放り投げる。デスゲームマンは必死で避けるが、何分量が多すぎる。1度召喚した爆弾はいくらでも補充されるようで、導火線に火が点いた状態でどんどんピンクの両手に出現している。
「ゲホッゴホッゴホッ! え、えげつない爆弾攻撃……! このままじゃ私がやられてしまうよ……!」
「さあみんな、敵が弱っている今がチャンスだ! 早く言葉責めを!」
「精神ダメージを負わせてどうするんですか!」
「しゃー! 行くぜおめーら!」
「ハシレチェンジ!」
俺たちの周りを3色のタイヤが回り出し、俺たちはハシレンジャーへと姿を変えた。
「赤い暴走! ハシレッド!」
「青い突風! ハシレブルー!」
「黄色い光! ハシレイエロー!」
「ピンクに突撃! ハシレピンク!」
「ピンクに突撃って何に突撃するんですか!」
「そりゃあれだ、教育委員会とか」
「モンスターペアレントじゃないですか! 子どもができてから言ってください!」
「エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
「ハシレンジャー!」
俺たち4人の背後で大爆発が起こる。デスゲームマンは煙が晴れてきたところで、咳き込みながら俺たちに姿を見せる格好となった。
「おめーら! 武器を合体だ!」
レッドの一言で、俺たちはそれぞれの武器を合体させる。するとピンクも爆弾を1つ取り出し、暴走バスターの先端にセットした。
「ピンク、これどうなるんですか!?」
「私にも分からないが、もしかしたらハトとかが飛び出すかもな」
「そんなマジシャンみたいな爆弾なんですかこれ!?」
「うるさいにもほどがあるわね。いいから早く敵を倒してナイジェリアに帰るわよ」
「お前の故郷はナイジェリアだったのか!?」
「行くぜー! 暴走バスター! ハシレボンバー!」
4色のタイヤに押し出された爆弾が、デスゲームマンに向かって行く。デスゲームマンにぶつかった瞬間、爆弾はタイヤに押し上げられて上に向かい、そのままデスゲームマンを中心にして大爆発。何重もの円を描いた花火が打ち上がっていた。
「さーかやー!」
「たーまやーだろう! 何花火に託けて酒を売ってるんだ!」
「最悪の怪人の割には綺麗な花火ね。IHコンロみたいだわ」
「IHコンロを綺麗だと思ってたのか!?」
「いやー危なかったな君たち! これからは私が来たから安心だ! いつでも走りやすいヒールで駆けつけるぞ!」
「何ですか走りやすいヒールとは!? ヒールをやめる発想は無いんですか!?」
「ああ! コーナーで差をつけるぞ!」
「それは運動靴のキャッチフレーズです! ああもう、ボケが増えた……」
こうしてハシレピンクの助太刀によりデスゲームマンを倒した俺たちは、基地に向かって歩き始めた。
しかし部長はどうやってハシレンジャーになったのだろうか……。




