第43話 決着!ケイブマン!
「一度ならず二度までもボクを出し抜いてくれたネエ……! このまま何度ボクを騙すつもりダイ? 90度カイ?」
「そんな直角に騙すやつがいるか! なんだ直角に騙すとは!?」
「意味不明にもほどがあるわね。一つの角が90度なら直角三角形になるじゃない」
「誰が今三角形の内角の和を求めてるんだ! 小学生かお前らは!」
「失礼ね。ちゃんと小学校は通信で卒業認定取ってるわよ」
「小学校卒業に認定があるのか!? 高校とかなら分かるが!」
「まだまだダネ。ボクは幼稚園を除籍されてるヨ」
「そんなことで張り合うな! どうやったら幼稚園を除籍されるんだ!?」
とんでもない低学歴バトルを見せられてしまい、緊張感が一気に薄れる。どうやったらこいつと張り詰めた空気の中で戦えるんだ……。
まあそれはこの際どうでもいい。とりあえずこいつを倒して、紅希を取り戻すことが先決だ。
「ボクに本気を出させようっていうのカイ? しても知らないヨ後悔! ボクの好きなギリシャ文字はχ!」
「なんだそのむちゃくちゃなラップは! 無理に韻を踏むな!」
「じれったいにもほどがあるわね。ほら、早く倒すわよブルー」
「元よりそのつもりだ! 行くぞ!」
俺の声でイエローが走り出す。ケイブマンはその場を動かず、ただ警棒を真剣のように両手で持って上段に構えただけだ。
その構えには殺気も何も感じられない。ただ静かに警棒を構え、イエローが走って来るのを待っているようだ。
不気味なほど殺気を感じないその構えを見て、俺の背筋に寒いものが走る。イエローがこのままケイブマンに向かって行くとマズい気がする。何の根拠も無いが、本能的にそう感じたのだ。
俺はイエローを援護するため、ケイブマンが警棒を持つ手を狙って銃の引き金を3回引いた。
「クック! ドゥードゥル! ドゥー!」
「アメリカのニワトリ! お前だったのかその鳴き声は!?」
間抜けな掛け声と共に振られた警棒に、俺の弾丸は弾き返されてしまう。
だがその瞬間隙が生まれた。イエローが再びケイブマンの腹を狙ってダガーを振り下ろす。
決まった——。確信したその時、ケイブマンの前に赤い影が現れた。
キィーン! 大きな金属音が響き、イエローは後ろに仰け反ってしまう。ケイブマンの前に立っていたのは、俺たちと同じスーツを着た赤い戦士。紅希が変身した、ハシレッドだった。
縛られていたはずだが……どうやって抜け出して来た? まさかケイブマンの洗脳は身体能力も上げるのか?
「おいおいおめーら! ディベートの邪魔すんじゃねーよ! 今ニワトリの鳴き方について議論してたのによー!」
「だからその鳴き声が出てきたのか!? じゃあお前はコケコッコー派とかなのか!?」
「いーや? 俺はティッティラオーック派だぜ!」
「フィリピンのニワトリ! 誰が知ってるんだその鳴き方!」
アホなやり取りをさせられているが、状況としては非常にマズい。レッドが洗脳されて完全に敵に回ってしまっているのだ。ケイブマンを倒さなければレッドの洗脳は解けない。だがそれをレッド本人が邪魔している。これは……どうすればいいんだ……?
「頭が悪いにもほどがあるわね。私に任せなさい」
「任せる……? 何をするつもりだイエロー?」
「いいからそこで耳を咥えて見てなさい」
「どうやって咥えるんだ! 俺はエルフか!」
俺のツッコミを無視し、イエローがパンパンと両手を叩いた。するとどこからか現れた給仕のような人物が数人、ワゴンを押してやって来る。
ワゴンの上にはステーキや焼肉、ローストビーフに唐揚げなど様々な肉料理が所狭しと並べられていた。
「さあレッド、肉ビュッフェよ。好きなだけ肉を食べなさい」
「うわー! 俺こんなに大量の肉見たことねーぞ! いっただっきまーす!」
「ええ……?」
呆れる俺に目もくれず、チェンジを解除した紅希が肉ビュッフェに飛びつく。一口ステーキを食べたその瞬間、紅希の目がいつもの燃え盛る目に変わった。
「あれ……? 俺何してんだー? なんか頭良さそーなことさせられてたよーな……」
「紅希! 戻ったか! お前はケイブマンに洗脳させられ、ホーテーソク団の仲間にさせられようとしていたんだ!」
「んだとー!? おいケイブマン! てめー何してくれてんだこのビフテキ!」
「それは悪口なのか!? 目の前の肉に引っ張られすぎだ!」
「しゃー! ぜってー倒してやんぜ! ハシレチェンジ!」
紅希の周りを赤いタイヤが回り出し、紅希は再びハシレッドへと姿を変えた。
「そんナ……! またしてもボクの洗脳ガ……!」
「相手が悪かったようだなケイブマン。お前の敗因は、紅希の肉への愛を軽く見ていたことだ!」
「単純にもほどがあるわね。紅希の洗脳を解くのなんて、お肉があれば良かったのよ。精々憎むがいいわ」
「くだらないダジャレを言ってる場合か!」
俺たち3人が揃ったことで、ケイブマンは怒りに震えている。
「よくモ……よくモ……ボクをコケにしてくれたネエ!」
怒りに任せて走って来るケイブマンに、俺たちは背を向けた。
「赤い暴走! ハシレッド!」
「青い突風! ハシレブルー!」
「黄色い光! ハシレイエロー!」
「エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
「ハシレンジャー!!」
「グギャアアアアアアアアア!!」
名乗りの爆発に巻き込まれたケイブマンは、天井を突き破って遥か彼方へと飛んで行った。
「結局名乗り爆発戦法か……。やつが怒りに任せて突進して来たから成り立った策だな」
「いーんだよんなこと! それより肉食おーぜ肉!」
「呑気にもほどがあるわね。私の家が裕福だからできたことだわ」
「それよりずっと気になってたがこの給仕たちはどうやってここに来たんだ!? 都合が良すぎないか!?」
「あら、この人たちは常に私の傍に潜んでいるわよ。いないことなんて無いわ」
「無駄に金持ちな設定を利用したな……」
一息ついた俺たちは、どうにかして帰る方法を探し始めた。こんな時になってのんびりと現れたハシレイが基地まで送ってくれたのは、また別の話だ。
ケイブマンを倒し、危機は過ぎ去った。今日こそはゆっくり眠ろう。そう決めた俺の背中に、微かな声が聞こえた気がした。
「てめえ、よくもケイブマンをやってくれやがったな……。次はこのケイシマン様が相手してやるぜ……」




