第39話 祝杯をあげよう
「んん……ここは……?」
朦朧とする意識の中、俺は目を覚ました。辺りを見回すと、基地の中のようだ。
俺と同じように寝転んでいる黄花と、ハンバーグでジャグリングをする紅希の姿が見える。
「おいハンバーグを投げるな! 何してるんだ紅希!」
「おー! 碧起きたのかー! いーだろこれ! ハンバーグジャグリング、略してバグリングだ!」
「なんだそのバグった輪っかは! くぐると何が起きるんだ!」
「そりゃーあれだぜ、住民票が浦安市に移る」
「千葉に強制引越しさせるな! 夢の国どころか悪夢の国じゃないか!」
「んなこと言うなよー! 俺と一緒に久米の国回ろーぜ!」
「それは久米島じゃないのか!? 沖縄の!」
「いや、岡山の久米郡だぜ!」
「どこでもいいが住民票を移すな! えげつない嫌がらせだな!」
俺と紅希が騒いでいると、黄花がゆっくりと目を開けた。
「ここは……基地の中ね。こんなところで落ち着いていられないわ。基地の外に出てフラフープをしながらロシア国歌を歌いつつ髪の毛をサボテンに突き刺さないと」
「基地外でキチ〇イするな! なんでそんなダジャレのために体を張るんだ!?」
「髪の毛を突き刺すサボテンは10個空に転がっているわ」
「サボテンten天転じゃないか! ……なんだサボテンten天転とは!?」
アホな会話をしていると、ドアが開いて黒いフルフェイスのヘルメットが入って来る。ハシレイだ。
「おうおう目覚ましたか! お憑かれさんやで!」
「縁起が悪すぎる変換ミス! ちゃんと確認してから変換しろ!」
「まあまあ憑かれたもんはしゃーないやろ。碧には何の霊が憑いてるんや? 魚肉ソーセージか?」
「魚じゃダメだったのか!? なんで加工済みなんだ!」
「まあそんなことはええんや。とりあえず碧、黄花、初めての身体暴走おめでとう! せっかくやから喧騒を聞きたいな」
「感想だろう!? 騒がしい声を聞いてどうする!」
俺のツッコミを無視し、黄花が身体暴走の感想を語り始める。
「わーわーがやがやひーひーかぷかぷぜえぜえ」
「喧騒だった! 途中クラ〇ボンがいなかったか!?」
「身体暴走、恐ろしい機能だったわ。どうしても碧のことを殴りたくなったの。王は私だ! って叫びながら」
「王だ殴打しようとするな! 無駄にダジャレを挟みすぎだろう!?」
「碧はどうや? 歯や歯茎が染みたりすることは無いか?」
「歯科検診か! そんな不調は今のところ無いが、体が勝手に動いたのは恐ろしかったな……」
身体暴走。ハシレンジャーのスーツに備わる機能の一つ。ただでさえ強化されている身体能力の限界を超え、一時的に強靱な筋肉とパワーを得る機能だ。
ハシレイから聞かされていたこと、そして紅希だけが先に使ったことで身体暴走がどのようなものかは知っていたつもりだった。
だが実際に使ってみた感想としては、恐らくあのままだと俺と黄花は耐えられないだろうというものだ。
お互いに潰し合い、周囲のものを破壊し、聞かされていた通り歯止めが効かなくなってしまうのだろう。
偶然にも紅希には身体暴走の影響が無いため、俺たちは今無事でいる。だがもし紅希がいなかったら……? ゾッとするな。
「さてさて、自分らが無理やり身体暴走を使って怪人を倒したことで、経験値が十分に溜まった! これからはエナジードリンクを使わなくても身体暴走できるで!」
そう言ってハシレイはモニターに映った雑な棒グラフを指す。よく見ると俺のグラフだけ右に傾いている。ピサの斜塔か!
「ちゅうことで今日は祝杯や! ハシレンジャーの新たな力に参拝しようやないか!」
「乾杯じゃなくてか!? 俺たちは神社か!」
「しゃー! 何飲むんだー? 金平糖かー?」
「お前の中では金平糖は飲みものなのか!? あんなゴツゴツしたものが!?」
「意味不明にもほどがあるわね」
「ほら黄花もこう言っているぞ!」
「金平糖は飲みもの以外何だと言うの?」
「そっち側だった! お前らの喉はコンクリートでできてるのか!?」
「よっしゃ! 自分ら飲むで! まずは水分が極端に不足してる体のためにスポーツドリンクからや!」
「そんな生命維持に重きを置いた乾杯があるか!」
ハシレイがタオルとスポーツドリンクを俺たちに手渡し、俺たちはそれぞれペットボトルを掲げる。
「ほな! ハシレンジャーの新たな力と、岡山県久米郡の発展に!」
「余計なものを足すな! 1発ネタで終わらせろそんなもの!」
「惨敗!」
「乾杯しろ!!」
無駄なボケがいくつも重なる乾杯を経て、俺たちは祝いの席についた。
まあたまにはこんなこともあっていいだろう。何か仲間としての絆が少し深まった気もするな。
「いやあほんまに良かったな自分ら。これでケイブマンにもしっかり対抗できるかもな。あいつは昔かr……おっと! なんでもないで!」
明らかに怪しいこいつを除いて。ハシレイ、こいつは一体何者で、何を目的に動いているんだ……? 怪しさがどんどん増していくな。
紅希が押し付けてくる唐揚げを口に4つ含みながら、俺はハシレイをじっと睨みつけていた。




