第36話 楽しいヨガ教室
「さあそれでは皆さん、今日も怪人ヨガを始めていきましょう」
練習スタジオの中では、ホーテーソク団の怪人らしき2体が人間にヨガを教えていた。いやもう怪人ヨガと明言してしまっているから怪人なのは間違い無いのだが。
なんでこいつらは人間にヨガを教えているんだ……。意味が分からん。
「碧、何をフリーズしているの? 早くヨガを始めるわよ」
「なんで乗り気なんだ! 俺たちは怪人を倒しに来たんだろう!?」
「ヨガってなんだー? 俺のことかー?」
「それはバカだ! 自分で言っていて悲しくならないのかお前は!?」
「俺に悲しいなんて感情はねーぜ! 俺にある感情は、『腹減った』と『満員電車で偶然向かい合った人って気まずいよな』だけだぜ!」
「その2択は珍しすぎるぞ! ならお前は戦っている時に『腹減った』と思ってるのか!?」
「いーや? 『満員電車で偶然向かい合った人って気まずいよな』って思ってるぜ!」
「なんでそっちなんだ! もっとこう、闘志を燃やすとか無いのか?」
「闘志は燃やさないけど、スマホならよく燃やすぜ!」
「もっとスマホを大切にしろ!」
俺が紅希と言い合っている間に、黄花は生徒たちに混じってヨガを始めていた。
「はい、ではまずサッカーボールのポーズからですね〜。はい皆さんよくできていますよ。では今度はバスケットボールのポーズです。これも皆さん素晴らしいですね。次にスーパーボールのポーズをしてみましょう」
「ずっと丸まってるだけじゃないか! 伸ばせ体を!」
「そのままバウンドしてみましょう〜」
「もう自傷行為じゃないか! 床に響いて地震みたいになってるぞ!」
「後は皆さん蹴られるなり打たれるなり好きにしてください」
「本当にヨガ教室か!? SMクラブの間違いじゃないのか!?」
丸まった生徒たち(と黄花)がポンポンと跳ね回るのを見つめ、俺は呆気に取られていた。
冷静に考えれば、こんなことをしたら全身が痣だらけになることは想像に難くない。それを自らやるように仕向けるとは、間抜けそうな言動とは反対に危険な怪人かもしれないな……。
俺が思考を巡らせている間、いつの間にかバウンドする生徒たちの中に入っていた紅希は、跳んで来る生徒たちを次々にレシーブしていた。
「碧ー! 何してんだよ! 早くトス!」
「人間でバレーボールをするな! トスを上げてもその後何も起こらないだろう!?」
「何言ってんだよ! 俺がスパイクして怪人にぶつけんだよー!」
「おま、お前それが正義のヒーローのやることか!」
「あたりめーだろ! ただし! スパイクするボールは選ぶけどなッ!」
そう言って紅希がレシーブを上げたのは、やけに黄色が目立つボール。なるほど、読めたぞ。紅希がこんな作戦を考えるなんて予想外だが、怪人を倒すという目的のためには理にかなっている。
作戦を理解した俺はトスを高めに上げる。すると紅希はハシレチェンジャーのアクセルに手をかけ、叫んだ。
「ハシレチェンジ!」
ハシレッドになった紅希は跳び上がり、俺が上げた高いトスに軽々と追いつくと、怪人2体に向かって思い切りスパイクを放った。
物凄い勢いで飛んで行く黄色のボールの周りを、同じく黄色いタイヤが回り出す。
「ハシレチェンジ!」
気づいた頃には両手にダガーを持ったハシレイエローが、怪人2体に同時攻撃していた。
「うわあっ!」
「ひょおおっ! な、何を……!?」
紙一重で攻撃を避けた怪人たちは、素っ頓狂な声を上げる。
「のんびりアホなヨガ教室をしてるところ悪いが、怪人がのさばっているのを見過ごすことはできない。俺たちハシレンジャーがお前らを倒す! ハシレチェンジ!」
俺もハシレブルーへと姿を変え、俺たち3人はレッドを中心に並び立った。
「な、何なんですあなた方は!? 私たちのヨガ教室、『感謝感激ヨガ栄』をどうするつもりです!?」
「『感謝感激雨あられ』みたいに言うな! ここ栄だったのか!? 愛知の!?」
「とにかく! 入会希望の方以外はお断りです! 何者なんですかあなた方は!」
全く同じ話し方をするそっくりな怪人2体。双子とかなのだろうか。それはどうでもいいが、久々にこの時が来た。
「赤い暴走! ハシレッド!」
「青い突風! ハシレブルー!」
「黄色い光! ハシレイエロー!」
「エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
「ハシレンジャー!」
俺たちの背後で大爆発が起き、ヨガ教室の天井に大穴が空く。
「ああ!! 私たちのヨガ教室、『感謝感激ヨガ田辺』が!」
「何さらっと栄から大阪の田辺に引っ越してるんだ! 駅名がマイナーすぎて分かりにくいぞ!」
「よくも私たちが大事にしているヨガ教室、『感謝感激新下関』を壊してくれましたね! タダじゃおきませんよ!」
「ヨガはどこへ行ったヨガは! だんだん南下して行くな!」
「細かいにもほどがあるわね。場所なんかどこでもいいじゃない。とりあえずここはナウル共和国でいいわよね?」
「良くない! そんな電車ごっこみたいなノリで国を跨ぐな! ああもう、とりあえず行くぞ!」
「よっしゃー! エンジン全開で行くぜー!」
俺たちハシレンジャーとヨガ怪人2体は、お互いの方へ向かって走り出した。




