第34話 広告リベンジ!鳥羽部長!
「ハシレイ〜ルンバ〜♪ ルンバハシレイ〜♪」
「その歌をやめられますか!? なんでずっとハシレイを歌にしてるんですか!」
今日も相変わらずご機嫌に仕事をする鳥羽部長は、再び広告を作っていた。
「なんだ橋田、お前も歌って欲しいのか?」
「そんなわけないでしょう! 歌わなくていいんですよそもそも!」
「ダンスナンバーでどうだ? タイトルは橋田ンシングとか」
「ダサすぎます! どんな歌なんですかそれは!」
「そりゃあれだ、橋田〜橋田〜橋田音頭〜♪」
「なんで和風なんですか! 盆踊りのことをダンスナンバーだと思ってたんですか!?」
「違うのか? ダンスナンバーじゃなかったらなんだ?」
「否定はできないですが納得もできないです!」
「盆踊りは英語で言うと『BOMB DANCE』とかだろうか?」
「なんですかその物騒なダンスは!? 踊ると爆発するんですか!?」
「特に後列のダンサーがな。バックダンサーだけに」
「バックダンサーをそんな物騒なものにしないでください! 上手くないですよ!?」
そんなことを言いながらも、部長がパソコンのキーボードを叩く手は止まらない。よくこんなふざけた会話をしながら仕事ができるものだ。
「橋田、ちょっと追加で撮影したい部分があるんだ。ちょっとあそこのグリーンバックダンサーに立ってくれないか?」
「ダンサーは要らないです! バックダンサーに引っ張られすぎでしょう!?」
「ああそうだったな。それで橋田ンサーの立ち位置はだな」
「どうしてもダンサーを入れたいんですね……。俺にはその熱意が理解できないようです」
ぶつぶつと文句を言いながら、鳥羽部長の指示に従ってグリーンバックを背景にして立つ。
「よし! じゃあそこで2人に分かれてくれ」
「さらっと分身を強要しないでもらえますか!? 俺は忍者ですか!」
「2人じゃ不満だったか? ならそのまま増えていってもらっても構わないぞ。3人、5人、7人、11人と」
「なんで素数なんですか! 俺が11人もいたら気持ち悪いでしょう!」
「よーしいい顔だ! じゃあそのまま怒った顔、悩んだ顔、決意した顔を同時にやってくれ!」
「俺は阿修羅像ですか! 顔も増やすんですか!?」
部長の無茶な要求に苦戦しながらも、どうにか撮影をこなしていく。なんでとりあえず俺を増やしたがるんだこの人は……。
疑問は膨らむばかりだが着々と撮影は進んでいき、ハシレチェンジのポーズや銃を構えるポーズなど、ヒーローっぽいポーズの要求もこなす。
「よーし! これで最後だ! お疲れ様、橋田!」
「次からはもう少し人間の常識を考えてポーズを要求してくださると助かります」
「ああすまない。ちょっとばかりペンションが上がってしまった」
「別荘をせり上げないでもらえますか!?」
「だがかなりいい素材が撮れたぞ! すぐに仕上げるから、橋田は芋焼酎でも飲んで休んでいてくれ」
「休みすぎでしょう!? コーヒーとか無いんですか!?」
本当に部長が手渡してきた芋焼酎を持て余しながら、俺は大人しく座って広告の出来上がりを待っていた。
しかし瞼が重いな。この間のケイブマンとの戦いで、かなり疲労してしまったようだ。部長も休めと言っていたことだし、少し目を閉じて休むことにしよう。
俺は腕と足を組み、仮眠を取ることにした。
「はしーだあおい! そーれそれそれはしーだあおい! オーオオーオーオーオオー! オーオオーオーオーオオー! はしーだあおい! そーれそれそれはしーだあおい!」
「うるさいですよ人が寝てるというのに! なんですか部長!」
俺の目の前で俺の名前を大声でコールしながら踊り狂っていた部長に起こされ、世界一悪い目覚めを迎えた。
なんでこの人はこんなに騒がしいんだ……。社会人としての落ち着きはどこへ投げ捨ててきたんだ?
「おお橋田、起きたか! 広告ができたぞ!」
「相変わらず仕事は早いですね仕事は。どんなのができたか見せてもらえますか?」
「もちろんだ! モニターに注目してくれ!」
そう言って部長はモニターの電源を入れる。数秒真っ黒な画面が続き、映像が流れ始めた。
『ハシレイショッピング〜!』
「またハシレイじゃないですか! どれだけあいつを気に入ってるんですか!」
「まあまあそう言うな。最後まで見てみろ」
『今日は自分らに最高の商品をお届けすべくやって来た、暴走戦隊ハシレンジャーの司令官兼松山市議会議員のハシレオ・ハシレイや!』
「いつの間に愛媛で当選してたんだこいつは!」
『最近ほんまに暑いなあ。日光がギラギラ照らす中でも、外にでかけなあかん時ってあるやろ? でも帽子を忘れることもある。そんな時に便利なんがこれ! 真っ黒エコバッグや! 暑い時はこれを被って日光対策!』
「黒子みたいになってるじゃないか! むしろ暑いだろう!?」
『買い物に行く時はこれに買ったもんを入れられるで!』
「本来そういうものだ! むしろ被るな!」
『ほな、これからもハシレンジャーと松山市議会をよろしく頼むで〜! おおきにさいなら!』
ここで映像が切れ、再び画面は真っ黒になる。
「終わりましたよ!? 俺の撮影は一体何だったんですか!?」
「橋田よ。動画というのは、撮った素材をどうしても使えないこともある。お前の撮影は決して無駄ではなかったんだぞ」
「無駄ですよ! 1秒も映ってなかったじゃないですか!」
「いやあ、やはり司令官の喋りは圧巻だ! これからも広告作りの協力頼むぞ、橋田!」
「俺が関わる必要ありますか!?」
なんで毎回ハシレイがメインになってしまうんだ……。そもそもうちの会社の広告のはずなのに、謎の黒いエコバッグが紹介されている時点で成り立っていないと思うのは気のせいだろうか。
そんなことを考えていると、ハシレチェンジャーに通信が入る。噂をすればハシレイだ。
「碧! 今大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。何かあったか?」
「急ぎの用事ではないんやけど、気になることがあるんや。ちょっと基地まで来てくれへんか?」
「まあもうすぐ定時だから向かえないことはないが……この通信では言えないことなのか?」
「実際に映像を見せたいんや。紅希と黄花も基地におる。来れるか?」
「分かった。退勤し次第向かおう」
「助かる! ついでに碧の会社の向かいにある和紙専門店で折り紙を買って来てくれんか?」
「いつどこでそれが必要なんだ! とりあえず退勤したら向かうから待ってろ!」
通信を切ると同時に、時刻は18時。定時を迎えた。




