第32話 仲間を取り戻せ!
「生憎だがお前なんかと食う寿司は無い。一人で行ってきたらどうだ?」
「ツレないねエ。シーバスぐらいツレない」
「『釣れない』の意味が違うぞ! なんでお前の例えは全部魚なんだ!」
「ボクの例えはホーテーソク団でも人気なんだヨ。例えが出ると『うお』って言われるヨ」
「やかましいぞお前! ボケるために来たのか!?」
ケイブマンは制帽を被り、俺に向かって一歩近づく。それに合わせて俺は一歩下がった。こいつ、何をするつもりだ?
「そんなに怖がらないでヨ。ボクはキミ……いや、キミたちにある提案をしたいだけなんダ」
「提案……? 何を言うつもりか知らないが、悪の組織の幹部と交渉するつもりは無いな」
「ハア……。やっぱりそう吹き込まれてるんだネ。ホーテーソク団は悪の組織なんかじゃないヨ?」
何を言ってるんだこいつは。今まで散々人間を襲っておいて、悪の組織じゃない? 別にハシレイを信じてるわけじゃないが、ホーテーソク団のことはもっと信じていない。こいつらが悪の組織であること自体は間違い無いはずだ。
「ボクたちホーテーソク団は、衰退しそうな星や国を立て直すお仕事をしてるんダ。なかなか理解してもらえないから多少荒々しくはなるけどネ」
「悪いが理解不能だ。確かに今俺たちが住む日本は衰退気味かもしれない。だが他所の星からやって来て人間を襲うような組織に、立て直してもらうほど落ちぶれてはいない!」
「そう言われるのも慣れっこサ。最初は理解してもらえないんだよネエ。だから力づくでやるしかなくなる。ボクたちに人を襲わせているのは、キミたちなんだヨ?」
「論理が破綻しているな。そもそも勝手に俺たちの国に来たのはお前らだ。こちらは最初からお前らに助けなど求めていない」
「ちなみにボクの趣味は右手でオセロ、左手で囲碁をすることだヨ」
「聞いてない! 絶対にどっちがどっちか分からなくなるだろう!?」
「同時に口で詰将棋をすることもあるヨ」
「やめておけ汚いな! 口に駒を詰めているのか!?」
「口に入れた駒は高原で吐き出すヨ。口駒高原だネ」
「くりこま高原みたいに言うな! 駒を口に入れるのをやめろ! 赤子か!」
何を言ってるんだこいつは……。さっきも同じことを思ったが、意味が違うぞ。緊張感が無さすぎる。こっちの気が抜けてしまうな。それが狙いなのかもしれないが……。
「さて、じゃあ寿司屋に向かおうかナ」
「なんでまだ行こうとしてるんだお前は! そこまでして寿司が食いたいのか!?」
「それもあるけど、キミと話がしたいんダヨ。もちろん、キミの仲間ともネ」
「……おい、まさか紅希と黄花に何かしたか?」
「まだしてないヨ、まだネ。キミ次第ってとこかナ?」
「分かった。行ってやろう。その代わり、紅希と黄花には手を出すな」
「物分りが良くて助かるヨ。じゃあ行こうカ」
ケイブマンに従って、俺は寿司屋への道を歩き始めた。
「大将、やってル?」
「異星人がそのノリで入るな! 常連か!」
「いらっしゃい! やってるぜー!」
「……は?」
そこにはハチマキを巻いて元気に寿司を握る紅希の姿があった。
「おー! 碧やっと来たかー! おせーぞ!」
「何をしてるんだお前は! 大将とはお前のことなのか!?」
「そーだぜ! 俺は宰相だ!」
「偉くなりすぎだろう!? 言い間違いが過去一よろしくないぞ!」
「宰&相だー!」
「最&高みたいに言うな! そもそもお前魚肉が苦手だっただろう!」
「握るのはいけんだよ! 俺握力475kgあるからよー!」
「ゴリラの握力! 握り潰してるじゃないか!」
紅希と俺が言い合っていると、奥から黄色い着物を着た女将が出て来た。
「何を騒いでいるの。マナーがなってないにもほどがあるわね」
「黄花……お前もか! なんで寿司屋で働いてるんだお前らは!」
「仕方ないでしょう。タクシーのお導きでここに辿り着いたのよ」
「じゃあ最初からここに来るつもりで来てるじゃないか! タクシーを神聖なものみたいに言うな!」
ケイブマンはカウンターの前に立ち、両手を広げてドヤ顔で口を開いた。
「と、いうわけでキミの仲間は懐柔済みサ。寿司を食べるかい?」
「……お前、何をした? 俺の仲間はバカだが簡単に敵に懐柔されるようなやつらじゃない。何かしただろう」
「さあネ、赤い彼には何かしたかもネ。黄色い彼女は自発的にここに来たヨ」
「なんで黄花だけ何もされてないんだ! 本物のバカなのかあいつは!?」
「失礼にもほどがあるわね。私は看板娘に憧れがあったのよ」
「本物のバカだった! そんな理由でみすみす敵のところに行くな!」
「ハダカデバネズミ握り、いっちょ上がりだぜー!」
「頼んでない! せめて魚を握れ! ……おいこれ生きてるじゃないか! 紅希お前、ただ生きてるハダカデバネズミを米の上に乗せたのか!?」
予想を超える仲間のバカっぷりに呆れてしまうが、ケイブマンが敵であると認識しているのは俺だけ。なら俺がこいつらの正気を取り戻すしかない。まずは何もされていない黄花からだな。なんで何もされてないんだ。頭の中に酢飯でも詰まってるのか?
「さあ碧くん、キミもこちら側においでヨ……さあ……」
不気味なケイブマンの表情を見ながら、俺は頭をフル回転させていた。




