第31話 紅希……?
今日も今日とて蒸し暑い夜。俺は夜中に起きてしまい、仕方なく冷房をつけて涼しくなるまで水を飲んでいた。
冷たい水を飲むと目が覚めてしまうな。窓の外を眺めながら、どんどん冴えていく頭に苦笑する。まあ明日は休みだ。昼まで寝てゆっくり過ごすとしよう。
そんなことを考えていると、夜空に一筋の流れ星が現れた。それもかなり大きい。
流れ星に願いごとをすると叶う……そんな迷信を俺は信じないが、一応願っておこう。これ以上あいつらに振り回されませんように……。
こんなことを願うのも虚しいが、俺はクールでいたいのだ。もう最近はツッコミが板についてきて、全然クールじゃなくなっている自分がいる。そんなのは俺の本望じゃないからな。
色々と考えごとをしていると、少しずつ眠くなってきた。よし、もう一度寝よう。今夜は夜更かししてしまったからな。ゆっくり昼まで眠るんだ。
ベッドに入った俺が目を閉じると、少しだけ揺れを感じる。どうやら小さい地震があったようだな。まあこのくらいなら関係無い。明日ゆっくり過ごすために、良質な睡眠を取るんだ。
そのまま俺は眠りに落ちて行った。
ブオーン! ブォンブォンブオーン!
けたたましいエンジン音が俺を目覚めさせる。 なんだこんな朝っぱらから……。カーテンを開けて外を見ると、大型バイクに跨った紅希がこちらに手を振っていた。
「あーおいくーん! あーそびーましょー!」
「小学生かお前は! こんな朝早くから何をしているんだ!」
「あーおいくーん! かいきんしょー!」
「何の皆勤賞だ! 会社は早退しまくっているから皆勤賞とは程遠いぞ……」
「この近くに美味そーな店ができてんだよー! 一緒に行こーぜー!」
そんなことで俺を朝から叩き起したのか……。相変わらずむちゃくちゃなやつだな。
無視してもう一度寝るか……。
俺がベッドに戻ろうとすると、紅希が窓に向かって何かを投げつけてくる。
パリーン! 窓を突き破って部屋に入って来たのは、大きな魚のようなもの。マグロかこれは……? ご丁寧に冷凍されている。こんなものを投げてくるな!
「おい紅希! 何をしてくれてるんだ! 窓が割れたぞ!?」
「だからよー! 一緒に飯食いに行こーぜー!」
「ああもう分かった! 今準備するから待ってろ!」
「いえーい! 流石碧! 分かってんなあ〜!」
毎度毎度騒がしいやつだ。しかし窓を割るのはやりすぎだろう!? いつも常識外れだが、今日は特にそれが酷いな。
俺は洗面所に行って顔を洗い、化粧水をつけてから髪を濡らしていつも通りセンターパートにセットする。
適当に服を着て外に出ると、紅希がスクワットをしながら待っていた。
「4653271! 4653272! 4653273! あーもう分かんねえな、5万回目でいーや!」
「良くない! 俺が準備してる間に何回スクワットをしてるんだお前は! いいから早く行くぞ!」
「おー碧! 準備できたかー! じゃー行くぞ! 美味い寿司屋ができたんだよ!」
……ん? 寿司屋? 確か紅希は魚が苦手だったはずだが……。
「何突っ立ってんだ碧ー? お前もスクワットするかー?」
「スクワットはしないが……。お前どうしたんだ?」
「どーしたって何がだよ? 俺はいつも通り、寿司を何皿でもドカ食いするだけだぜー!」
なるほどな、そういうことか。
俺は左手のハシレチェンジャーに手をかけながら、紅希の方を睨みつける。
「お前、本当に紅希か?」
「はー? 何言ってんだよ! 俺は俺! この世に1人しかいないぜ!」
「いや、お前は紅希じゃない。紅希なら『俺はこの世に70億人ぐらいしかいねーぜ!』とか言うはずだ」
俺がそう言うと、明らかにたじろぐ紅希のような人物。そして慌てて言い返して来た。
「それは俺だって調子悪い日ぐれーあんだろ! いつもいつもボケてらんねーぜ!」
「紅希がそんなことを言うはずがない。あいつは自分がボケだと思ってないからな。常軌を逸したバカなだけだ」
「なっ……!」
「それに寿司。紅希が寿司を進んで食べに行くはずがない。魚肉は専門外と自分で言っていたからな。そもそも今日のお前の行動にはどこか違和感があったし、ボケが全部弱い。紅希なら逆立ちのまま壁を登って来るぐらいしたはずだ」
すると紅希の姿をした人物は、下を向いて笑い始めた。
「クク……ククク……九九ハチジュウハチ!」
「81だ! 待ってくれ、お前もアホなのか!?」
「ハア……。まさかそんなに簡単に見破られるとはネ。ボクの変装もまだまだダナア」
「お前……まさかホーテーソク団の幹部か? 例のケイブマンだな?」
「よく分かったネ。流石はハシレンジャーの右脳担当だネ」
「そこは頭脳担当だろう!? なんでよりによって直感を司る方なんだ! せめて左脳にしろ!」
ケイブマンは自分の顔に手を置き、そのまま顔を引っペがした。そこには以前ハシレイがモニターで俺たちに見せたのと同じ、機械的な顔があった。
「そうサ! ボクはケイブマン! この間ジュンサブチョウマンから昇格したのサ!」
「お前の昇格はどうでもいい! お前、何をしに来た?」
「だから言ったでしょウ? 近くに美味しい寿司屋ができたっテ」
「なんで食べに行きたいのは本当なんだ! 呑気か!」
「お寿司を食べたらキミに話があるんダ。とーっても大事な話が、ネ」
不気味に笑うケイブマンの顔を見て、俺の背筋に寒いものが走った。




