第26話 凶と大凶と凶
占い師が険しい顔で念を込めながら籖筒を振り始める。なんでカタコトのこいつがおみくじで占うんだ……。
そんな俺の疑問を、黄花の声が遮る。
「この占い師は1週間前からここで占いの館をやってるわ。占いっていうのは良いことも悪いこともある。当然外れることもあるから、評判もある程度極端になるわ」
「まあそうだろうな。言い当てると言って当たらなかったら評判は下がるだろう」
「でもここの評判は不自然なほどに悪いの。何も当たらないって」
「悪い方なのか!? 良い方じゃなくか!?」
「ええ。正確に言うと、良い占いは当たらないの。悪いことだけ言い当てるから、みんな憂鬱になりながら帰るらしいわ」
「なんだそれは……。俺は今まさにそいつに占われているわけだが、何を言われるのか不安で仕方ないぞ」
そんなことを話していると、念を込めて籖筒を振っていた占い師が突然カッと目を見開いた。
「出マシタ! アナタノ1時間後ノ運勢ト、昨日の花粉情報デス」
「昨日の花粉情報は要らない! 何の役にも立たないだろう!?」
「昨日は花粉ガそんなに舞っていませんデシタ。安心してお出かけできたデショウ」
「なんだその意味の無い情報は! 『ああ出かけてれば良かった』と思うだけじゃないか!」
「一昨日ノ花粉も占いマスカ?」
「花粉情報に重きを置くな! せめて俺の運勢を占え!」
「アア、そうデシタネ。アナタノ1時間後ノ運勢は、大凶デース。大切ナ友達もろとも、命ヲ落とすかもシレマセーン」
占い師がそう言うと、空気が一瞬で変わる。これは……殺気だ。やはりこいつ、ホーテーソク団か。
「お前……まさか悪い占いを全部自分の力で本当にしてきたのか?」
「サア、どうデショウネ? もしそうダッタラどうするつもりなんデス?」
「面倒だ。さっさと本性を現してもらおうか。紅希、黄花、行くz……は?」
振り向くと、紅希と黄花は向かいのカフェに歩き出していた。
「おい何をしてるんだお前ら! 戻って来い!」
「うるさいにもほどがあるわね。今紅希と一緒に紅茶を飲みに行くのよ」
「俺は紅茶より肉が食いてーぞ! なんか肉の肉詰めとかねーのかー?」
「なんだ肉の肉詰めとは!? それはただの塊肉じゃないのか!?」
「碧も来る? オススメの紅茶を教えてあげるわよ」
「誰が今行くか! こいつは恐らく怪人だ! 戻って来い!」
俺の言葉に口を尖らせながら、紅希と黄花が戻って来る。何が不満なんだ。本来の目的を忘れるんじゃないぞ。
「おや、3人も集まって私二何ヲしようって言うんデス?」
「まだシラを切るつもりか? 黄花、こいつの働いた悪事を教えてやれ」
「OKよ。まず水難に襲われるって占ったサラリーマンを飲みに誘ってベロベロにさせて、そのまま寝かせておねしょさせたわ」
「タチは悪いがしょぼいな! なんだその小さいイタズラは!」
「それから、ものを盗まれるって占った主婦がいたわ。その主婦がパートしているスーパーに行って、薄いポリ袋を大量に持ち帰ったのよ」
「ギリギリ盗みじゃないぞ! セコいだけだろう!?」
「あと昨日銀行強盗に入ったわ」
「急に犯罪! 警察は何をしてるんだ!」
銀行強盗はまああれだが、それ以外の悪事はもうイタズラレベルだぞ……。本当に怪人か?
そんなことを考えていると、占い師の体が震え出した。
「そこまでバレているトハ……。想定外デシタ。やりますね、ハシレンジャー……。まさか銀行強盗までバレるナンテ……」
「それだけはバレるだろう!? やっていることがド派手だぞ!?」
「いいデショウ、私が相手してあげマショウ!」
そう言うと占い師はベールを脱ぎ捨て、本来の姿を見せる。そこにはロボットのような姿の怪人が立っていた。ただし、目の部分には水晶玉が埋まっている。
「私はウラナイマン! アナタたちの運命を、大凶にしてあげマショウ!」
「やっと本性を現したな。行くぞ!」
「よっしゃー! エンジン全開だー!」
俺たちはハシレチェンジャーのハンドルに手をかけ、アクセルを回す。
「ハシレチェンジ!」
俺たちの周りを赤、青、黄のタイヤが回りだし、俺たちをハシレンジャーの姿に変える。
「赤い暴走! ハシレッド!」
「青い突風! ハシレブルー!」
「黄色い光! ハシレイエロー!」
「エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
「ハシレンジャー!」
名乗りの爆発で占いの館が半分吹き飛び、俺たちとウラナイマンは外に転がり出た。
「アナタたちは私の占いに逆らえないのデース! まずはレッド、アナタの運勢を見てあげマショウ!」
「運勢だか燻製だか知らねーけど、俺にそんなもんは関係ねえ! 美味しくいただいてやるぜ!」
「燻製の方に引っ張られるな! お前が自分で言ったんだろう!?」
「レッドの運勢は……凶デース! そのまま走って来るト、良くないことが起こりマスヨ!」
「んなわけねーだろ! 行くぜみんnうわっととと!」
いつの間にかレッドの前に屈んでいたウラナイマンに躓き、レッドはすっ転んでしまった。
「いってえ〜! なんだよこいつ〜!」
「鈍臭いにもほどがあるわね。屈んでいる今がチャンスよ。私が仕掛けるわ」
素早くウラナイマンのところへ移動したイエローが、ダガーを振りかぶる。
「アナタノ運勢も、凶デース! ダガーを振り下ろすと、痛い思いをすることになりマース!」
「当てずっぽうにもほどがあるわね。いいからはやく観念しなさ……いっ!?」
イエローのダガーはウラナイマンの目に刺さったように見えた。……が、実際は水晶玉に弾き返されていたのだ。
なんて固い水晶玉だ……。あれは本当に水晶なのか?
だがこれで分かった。以前のトレーナーマンとは違い、ウラナイマンは自らの占いを自分自身で現実にする。間抜けな戦法だが、つまり純粋に戦闘力が高いということだ。
なら話は早い。やることは一つだ。
俺はスマホを取り出し、電話をかけた。




