第19話 肉を盗んだのは誰だ!?
俺のスマホに大量に来る紅希からの通知。だからハシレチェンジャーを使って通信しろと言っているのに、何故こいつは毎度スマホを使うんだ……。
だが緊急事態であることに違いは無いだろう。とりあえず何を言っているのか読まなければな。
俺はスマホのロックを解除し、紅希のチャットルームを開く。そこには紅希からの怒涛のチャットが残されていた。内容はこうだ。
『碧! 大変だ!』
『俺の大切な干し肉が無くなってんだ!』
『昨日まで大事にトイレに干してたのによー!』
『きっと盗まれたんだ! 犯人探しを手伝ってくれ!』
『なるべく早く既読を付けてくれよー! ところで既読って何だー? 食えるのかー?』
『食えるならとりあえずそれでいーや! 干し肉見つけたら連絡くれなー!』
『G.S. 生肉って調理したら生じゃなくなるのなんでだ?』
「こんなものを一気に送ってくるな! トイレに肉を干すのは不衛生すぎるからやめろ! 既読が食えるわけがあるか! 生肉は調理したら生じゃないのは当たり前だ! そしてGSはガソリンスタンドだ!」
「おお!? どうしたんだ橋田、いきなりツッコミを連発して」
「すみません部長。紅希のバカが変なチャットを送ってきていて……」
そんなどうでもいい説明をしている中、ハシレチェンジャーに通信が入る。今度は何だ?
「碧! ワシや! お前が放課後友達と遊んでる時に一緒に混じってたお兄さんや!」
「お前か! あれは誰だろうとみんな不思議がってたぞ! ……いやそんなわけあるか! ハシレイ、何があった?」
「なんやもうバレたんか、おもろないなあ。次に通信入れる時は何て名乗ったろかな」
「それはどうでもいい! 緊急事態じゃないのか?」
「ああすまんすまん、そやったな。緊急事態や! 韓国語で言うと비상사태や!」
「ハングルで言われても分からないんだが!? 早く何があったか言え!」
全くこいつは、さっさと用件を言うだけのことが何故できないんだ。余計な小ボケを挟まないと生きていけないのか?
「紅希の干し肉が盗まれたって連絡来たやろ? あれの犯人が分かったんや!」
「なんだ、そのことか……。どうせ自分で食べたとかそんなオチじゃないのか?」
「それがな、なんとホーテーソク団の仕業やったんや。ワシも最初は紅希が7時間くらい反芻して食べたんちゃうかと思ってたんやけどな」
「牛か! 紅希がそんなにゆっくり食べているのは見たことが無いぞ! ……それで、怪人が出たんだな?」
「せや。今すぐ向かえるか?」
いつもいつも唐突だな。まあわざわざ怪人が今から人を襲いますよと予告してくれるわけも無いのだが。俺は気持ちを切り替え、ハシレイに返事をする。
「了解。すぐに向かう! 場所を送ってくれ!」
「助かる! 今牛の体の断面図を送ったから、ちゃんと胃袋が4つあるか確認してくれ!」
「牛はもういい! 場所を送れと言っている!」
「お? 牛だけに『もう』ってか? いいダジャレやなあ。そのセンス、買うで! 『cow』だけに」
「今日は一段とうるさいなお前! いいから怪人の場所を送れ!」
「おおすまんすまん。ほい、送っといたで!」
「やっとか……。すぐに向かう!」
俺は通信を切り、鳥羽部長に声をかけた。
「すみません部長、怪人が出たみたいなので行ってきます!」
「ああ、今日も頼んだぞ! ハシレブルー!」
「ありがとうございます! 行ってきます!」
俺は会社を出てマップを開き、怪人のいる場所に向かって走り出した。
「この辺りだが……。誰も見当たらないな」
俺が辿り着いたのは植物園。見たことの無い花や草が生い茂っており、温室になっていて少し蒸し暑い。
そんな植物園の中を見回しても、人の気配がしないのは何故だ? 怪人がいるのは確実にこの植物園の中。人を襲うのが目的なら、大勢の人間がいる場所を狙いそうなものだが……。
そんな時、目の前の茂みからガサガサと音がした。俺は咄嗟に後ろに下がり、いつでも戦えるようハシレチェンジャーに手を置く。
ガサガサという音は次第に大きくなり、突然人影が現れた。
「ああもう、どれもこれも茶葉じゃないわね。どうして植物園なのに紅茶の葉が無いのかしら」
俺はハシレチェンジャーを触った姿勢のままズッコケた。
「黄花! お前何をしてるんだ!」
「何って、植物園に来たんだから茶葉を探さないと損でしょう? 怪人も見当たらないし、とりあえず楽しむことにしたのよ」
「なんて呑気なやつだ……」
黄花の間の抜けた返答に呆れ果てる俺。だが現れたのが仲間だったのは良かった。俺1人では、怪人と出会っても苦戦を強いられることは間違い無かっただろう。
「黄花、紅希はもう来ているか? 合流したいんだが」
「目が悪いにもほどがあるわね。紅希ならここにいるわよ」
「は? どこにいるって……うおっ!」
下に視線を向けると、へたへたに萎びた紅希が地面を這っていた。
「紅希お前、何してるんだ!」
「ニク……ニクヲクレ……」
「碧も知ってるでしょう? 紅希はしばらく肉を食べないとこうなるの」
「初耳だ! なんでこんなことになる!?」
「植物園って場所も悪いのかもしれないわね。肉と1番無縁の場所だもの」
「そんな漫画みたいなことがあるのか……」
近くにあった木の枝で紅希をつついていると、植物園の中に大声がこだました。
「来たねハシレンジャー! 今日はあたいの餌食になってもらうよ!」
怪人のお出ましか。声のした方を見ると、赤いTシャツを着たロボットのような怪人が、大きなプラカードを掲げて立っていた。




