第14話 不思議なエナジードリンク
缶を開けた俺たちは、一斉にエナジードリンクを口に含む。
……何だ? 何か力が漲ってくるような……。
「うおー! なんか力が湧いてくるぜ! 今なら牛30ダースは食えそうだ!」
「牛をダースで数えるな! 何故湧いてきた力を食べることに使う!?」
「私も今なら何でもできる気がするわ。試しに原付で高速道路に乗ってみようかしら」
「お前のパワーはどうか知らないが、原付には限界があるだろう!?」
「大丈夫よ。原付に限界が来たら自力で走るわ」
「なら最初から乗るな! 高速道路を自分の足で走るやつは見たことが無いぞ!」
紅希と黄花にツッコミを入れるものの、実際俺も今なら何でもできる気がしている。体の中から無限に力が湧いてくるようだ。
紅希の大声が聞こえたのか、バタバタとハシレイが入って来る。
「なんや! 何を大騒ぎしとるんや! まさかティッシュの特売か?」
「そんなわけあるか! なんでお前はそんなに紙類に敏感なんだ!」
「ティッシュもトイレットペーパーも日常生活に必要不可欠やろ? でもワシは敏感肌でな。ローションティッシュやないとかぶれてまうんや」
「心の底からどうでもいい情報だな……」
ハシレイは俺たちから視線を外し、鳥羽部長の方を見た。
「ほんで? このべっぴんさんはどこのどなたや?」
「ああ、すまない。紹介が遅れたな。こちらは俺の会社の上司で……」
「鳥羽桃子と言います! 橋田がいつもお世話になっております!」
そう言って鳥羽部長は勢い良く頭を下げる。
なんだいきなり畏まって。ハシレイを敬う必要なんかどこにも無いぞ。まあでも初対面の人にちゃんと挨拶をする辺り、部長もれっきとした社会人だな。
「おうおう、碧の上司か! ワシはハシレンジャーの司令官、ハシレオ・ハシレイや。こちらこそ、いつもうちのブルーがお世話になっとります。ワシは堅苦しいのはあんま好かんから、ぜひぜひタメ口で接してくれや」
「そう言ってもらえるとありがたい! あなたが司令官か! 立派なフルフェイスだ! 私も2、3個被ってみたいものだ」
「なんですかそのトリプルのアイスみたいな被り方は!」
ハシレイは部長の方をまじまじと見て、再び口を開く。
「しっかし派手やなあ。なんや碧、お前の職場はキャバクラか?」
「誰がボーイだ! 失礼すぎるぞお前!」
「はは、良いんだ橋田。よく言われることだ。実際私も会社のことをキャバクラだと思っている節がある」
「なんであるんですか! まさか部長、社長や専務に媚びを売って昇進したなんてことは……」
「さあ、どうだろうな。だがピンクのスーツや10cmのヒールが私だけ許されてるのは、そういうことかもしれないぞ」
「ああ、ちゃんと社会人として異端な自覚はあったんですね。ホッとしました」
「ちょっと失礼だな橋田! このネイルだって寝る間を惜しんでやってるんだから、もうちょっと尊敬してくれても良いだろう? ほら見てみろ。親指から順番に『十二』『二十四』『三十六』とネイルパーツの数字が増えていくぞ」
「なんで12の倍数を爪に付けてるんですか! そんなことしてるからエナジードリンク発注ミスするんでしょう!?」
「それはそうだな。ぐうぐうの音も出ない」
「ぐうが1個多いです! 寝ようとしてます!?」
部長とアホなやり取りを繰り広げていると、基地にサイレンが鳴り響く。
「あかん、出たで! ホーテーソク団や! ハシレンジャー、行けるか?」
「私たちが揃って基地にいる時に怪人が現れるなんて、都合がいいにもほどがあるわね。ちょうどこの有り余るパワーをぶつけたいところだわ」
「そーだぜ! 今なら走るより側転の方が早く移動できる気がするぜ!」
「確実に気のせいだからやめておけ……。だが力が有り余っているのは俺も同じだ。このタイミングで出て来た怪人が可哀想なくらいだな」
ハシレイが少し不思議そうな目で俺たちを見る。そういえばエナジードリンクのことをこいつに説明していなかったな。まあいいか。
「なんや自分ら、なんかしたんか? まあええわ。やる気満々なんはええことや。そしたらハシレンジャー、出動や! 今ローションティッシュを叩き売りしてるちょっと怪しい店の場所を送るで」
「そんなどうでもいい情報は送るな! 怪人の場所を送れ!」
「ああすまんすまん。ワシとしたことが、ローションティッシュの誘惑に負けてしもた。でも店と近いとこに怪人もおるから、帰りに買って来てくれや」
「仕方ないわね。何ダース必要なの?」
「お前らの間ではダースで数えるのが流行ってるのか!? そんなクールじゃないやり取りをしてる場合か!」
「しゃー! 碧、黄花、行くぜー! エンジン全開だー!」
俺たちは基地の外に向かって走り出し、虹色の空間へと入った。
「おお! 遂に出動の場面を見られたぞ! いつかは私も……」
微かに部長の声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。とにかく怪人のところへ向かわなければな。
心做しかいつもより早く虹色の空間を抜けた。薄暗く、青い照明がぼんやりと俺たちの影を作る。周りはガラスが張り巡らされ、魚が泳ぐのが見える。
俺たちが出た場所は、大きな水族館だった。




