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56話「早く用事を済ませて街に行くとしよう」


 早朝。キッチンにて。

 熱した平たい炒め鍋に分厚いベーコンを置き、表面をジュワジュワと焼いていく。

 肉が焼ける音や匂いというのは何故こんなにも心地よいんだろうか。

 食う前から確実に美味いのが分かる。

 軽く炙ったらひっくり返し、やや弱火でじっくりと火を通していく。

 こうする事で肉の旨みが抜けないようにできるらしい。


 次は玉子。別の小さな炒め鍋に油をひき、火にかけながら次々と割り入れていく。

 十数個ほど並べたあと、塩を振ってから少量の水を入れて蓋をする。

 手軽に作れる割に腹にたまるから、昔から得意としている料理の一つだ。

 蒸している間に皿を並べ、大きめなバスケットに白パンをこれでもかと積んでおく。


 女性とは言えそこは冒険者。特にアルなんかは俺以上に食うからな。

 それなりの量を作っておかないといけないが、これはこれで中々に楽しい作業なので特に苦には思わない。

 今朝は材料が無いから簡単な物になってしまったが、この後買い出しに行けば昼はまともなものを作れるだろう。


 さてさて、何が良いだろうか。生野菜は外せないとして、王都なら新鮮な魚もあるからな。

 普段は食えないものを買い込んで置きたいところだ。

 

 ちなみにうちのパーティーで料理が出来るのは俺とクレアだけなので、旅の途中だと交代制で作っていたりする。

 あいつ何気に何でも出来るんだよなあ。

 どんな人生を送ってきたのか少し気になるけど、何となく聞けないままでいる。

 そんな事を考えながらベーコンの火の通り具合を確認していると、トントンと階段を降りてくる軽い音。

 ふむ。この重さはサウレだな。


「……おはよう、ライ」

「おはようさん。顔洗ってこい」


 顔を出したところに挨拶を交わす。

 最近着るようになったパジャマ代わりの俺のシャツは、やはりサイズがあっておらずぶかぶかになっている。

 小柄なサウレの股下まである簡素なシャツだが、サウレが来ているとどこか愛らしさを感じる。

 ちなみにこの下は何も着ていないと自己申告されたが、本当かどうかは確かめていない。


「……ん。その前に撫でて」

「はいよ」


 ぐりぐりと頭を撫で回すと、ほわんとした寝ぼけ顔にうっすらと喜びの表情が浮かぶ。

 サウレはことある事に撫でろとせがんでくるので、このやり取りも慣れたものだ。

 しばらくの間わしわしと撫でた後、満足したらしいサウレは洗面所の方へと消えていった。


 次いで、また階段を降りてくる音。

 今度はクレアか。

 あいつは独特なリズムで歩くから分かりやすいな。


「おっはよー! めっちゃ良い匂いしてんじゃん!」


 朝一番から元気に手を上げてきたので、それに応えてハイタッチ。

 クレアは既に身支度を整えていて、いつもの長袖シャツにショートパンツ。但し革鎧は外しているので普段より一層華奢に見える。

 

「何か手伝うことは?」

「特に無いな。暇ならアルとジュレを起こしてくれ」

「りょーかいっ!」


 ぴょこんと一跳びすると、今降りてきたばかりの階段を駆け上って行った。

 数秒もしない間にドアが豪快に開かれる音。そして「わひゃあ!?」というアルの悲鳴。

 どんな起こし方したんだあいつ。

 

 そして数十秒後、意外と静かな音でアルが階段を降りてきた。

 髪はぼさぼさ。首元や袖が緩やかな薄手のワンピース姿だが、普通の服なのに胸がめちゃくちゃ強調されている。

 ある意味アルらしい部屋着だが、こいつわざと狙ってるんじゃないだろうか。


「えぇと……おはようございます」


 両手をへその下辺りでモジモジしているせいで、大きな胸がふにふにと変形する。

 思わず目を逸らすと、アルもそれに気付いたのか顔を真っ赤にしながら慌てて両手を崩そうとして。

 ふと何かに気付いたかのように、半泣きの上目遣いで俺を見上げてきた。


「あの、えぇと……見たいですか?」

「いいから早く顔洗ってこい」


 どちらとも答えられず、ぺしりと頭をはたいておいた。

 昨晩の感触を思い出してしまい、若干鳥肌が立ったのは内緒だ。


 去っていくアルは首筋まで赤くしていたが、恥ずかしいならやらなきゃいいのにとは思う。

 好意を向けられるのは嬉しいんだが、やはりまだ自分の心の整理がついてないな。


「さて、後はジュレだけだが……大丈夫かあいつ」


 かなり深酒してたし、酒が残ってるかもなあ。

 まあ二日酔いは回復魔法で治せるか問題ないとは思うけど。


 しばらく待つと、普段着のドレスに着替えたジュレと不服そうなクレアが連れ立って階段を降りてきた。


「おはようございます。昨晩はご迷惑をお掛けしました」

「気にするな。ところでクレアはどうしたんだ?」

「何かねー。改めて二人を見ると、やっぱりボクも胸ほしいかなーって思って」

「…………そうか」


 当たり前だがペタンとしている胸元を両手で抑えるクレアに、何とも言えない切なさを感じて頭を撫でておいた。

 すぐにニコニコ顔に切り替わったので、二人で朝飯をテーブルに運ぶ。


 戻ってきたアルとサウレが席に着いたのを見て、全員揃って手を合わせると。


「んじゃ、頂きます」


 皆で同時に言ってから、まだ温かい朝食を食べ始めた。

 

 今日は気持ちの良い晴天。買い出し日和だ。

 早く用事を済ませて街に行くとしよう。


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