表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/102

36話「やっぱりアイツ、怖いわ」


 港町アスーラでの日々は穏やかに過ぎていった。

 治療院での雑用を通して町の人達とも仲良くなれたし、オウカ食堂の手が足りない時はそっちを手伝いに行ったりもした。

 例の船に乗っていた子達も元気に働いていて、おっさん達はそれを嬉しそうに眺めながら警備の仕事をしている。

 たまにアルが討伐依頼に巻き込んでくるが、今のメンバーなら何の問題も無く完了できた。


 サウレやジュレが凄いのは前から分かっていた事だが、予想外だったのがクレアの戦い方だ。

 盾を打ち鳴らしたり大声を上げたりして敵の注意を引き、その攻撃を素早く躱したり受け流したりしていた。

 その様は手馴れていて、今まで一度も被弾していない。

 さらには目や耳が良く、敵の接近にいち早く気付いてメンバーに教えてくれたり、休憩中の気配りも上手い。

 いつでも明るく元気で、アルと並んでパーティーのムードメイカー的な存在になっていた。



「お前、凄いなぁ。何で今までちゃんとしたパーティー組まなかったんだ?」


 オウカ食堂で買った夕飯を冒険者ギルドに持ち込み、皆で飯を食いながら聞いてみた。


「いやー。ボクの好みに合う人が中々居なくってさ」

「そんな理由でパーティーを選ぶなよ」

「いやいや! パーティーメンバー内で結婚とかよくある話だし、ここは大事だよ!?」

「あぁ、確かによく聞くなぁそれ。俺には無縁の話だが」


 結婚ねー。憧れのスローライフを始められたら考えて見ても良いかもなぁ。

 少なくとも今の状況で結婚なんて考えられないけど。


 ちなみに俺たちの居るユークリア王国は、結婚に関する法律がかなり緩い。

 同性間での結婚や重婚、さらには兄弟間の結婚も認められている。

 その場合、子どもを作る際は申請がいるらしいが、この緩い法律が出来てから結婚率がかなり上がったらしい。


「そこんところ、ライはかなり良物件だからね! 早くボクと結婚しよう!」


 うさ耳をぴょこんと動かしながらにこやかに笑う。

 うーん。こいつも見た目はかなり可愛いんだがなあ。

 すぐに話をそっち方面に持っていくのは勘弁して欲しいものだ。


「……ライは結婚するの?」

「どうだろうな。特にしたいとは思わないが、将来的にはするかもしれないな」

「……私は何番目でも良いから」

「あーはいはい。ほら、汚れてるぞ」

 

 口元を拭ってやりながら適当に答える。

 何処と無く幸せそうにされるがままになっているのに癒されつつ、本題を切り出すことにした。


「さて。路銀も貯まってきた事だし、そろそろ王都に向かおうと思うんだが」

「ついに王都! 復讐の時は来ましたね!」

「……王都は久しぶり」


 港町アスーラから馬車で二週間ほど南下したところにある、王都ユークリア。

 そこが俺たちの目的地だ。

 アルの元婚約者やサウレを騙した奴を探す為に、王都の冒険者ギルドで情報を集める必要がある。

 俺は俺で「竜の牙」の連中の追跡を逃れるという理由がある。


「そこで聞いておきたいんだが、ジュレとクレアはどうする?」

「私はご一緒致します。一人だとどうしようも無いですし、一緒に居たいですから」

「ボクも右に同じ! ライから離れる選択肢はないかな!」

「そうか。じゃあ三日後に出発予定だから準備してといてくれ」


 治療院の方には今日の仕事明けに事情を伝えてある。

 かなり惜しまれたが、理由があるなら仕方ないと送り出してくれた。

 後は旅路の食料や道具の材料を買い込むだけだ。

 とは言ってもほとんど買い揃えた後だし、買い残しが無いか確認するだけなんだが。


「私たちの準備は出来ていますよ。今からでも行けるくらいです」

「そうか。そりゃ何より……だが、そういうセリフはやめてくれ。嫌な予感がしてくるから」


 前回も似たようなタイミングで出没したからな、ルミィ達。

 

「さすがに今回は大丈夫ですよ! いくら何でもこのタイミングで――」


 バガンっ、と。冒険者ギルドのスイングドアが開かれた。

 とっさにテーブルの下に身を隠す俺とアル。

 次の瞬間、聞きなれた声が聞こえた。


「セイっ!! ここに居るんでしょうっ!?」


 うっわぁ……この声、間違いない。ルミィだ。

 よく見たらカイトとミルハも居るし。

 ……なんか、死にそうな顔してるけど。何かあったんだろうか。

 いや、そんなことはどうでも良いか。


「…………ほらみろ。おかしなこと言うから」

「…………私のせいですかっ!?」


 小声でアルとひそひそやりあうが、ヤバい。

 冒険者ギルドの裏口はここから遠い。見付からずに逃げるのは不可能だろう。

 かと言って、このまま隠れ続けてもいつか見付かってしまう。

 どうしたものか。何とかここを逃げ出さなければならないのだが。


「……ライ。あの女がルミィ?」

「…………そうだ」


 サウレが目線を下げずに聞いてくる。

 他の二人も同じく、警戒しながらルミィの方をじっと見ている。


「あの方がそうですか。綺麗な方ですけれど、確かに目がイッちゃってますね」

「うわぁ。アレはヤバいねー」


 ジュレとクレアの見解は同じらしい。やっぱりヤバいよな、アレ。

 うっわ、鳥肌立ってきた。


「……ライ。私達が時間を稼ぐ。馬車を借りて門の前で待っていて」

「…………大丈夫なのか?」

「……上手くやる。任せて欲しい」


 サウレは真正面を向きながら、テーブルの下にそっと拳を伸ばして来た。

 冒険者間で使われる合図。健闘を祈るという意味が込められたそれに、苦笑いしながらこちらの拳をこつんと当てた。


「……騒ぎを起こして注目を集めるから、その隙に。二人にも手伝ってほしい」

「今回ばかりは遊んでもいられませんね。協力致します」

「うーん……ちょっと怖いけど、ライの為なら頑張るよ!」


 三人揃って席を立つと、「竜の牙」の連中の元へと歩み寄って行った。

 さて。サウレの奴、どうするつもりだ?


「……貴方が探している人は、罠師のセイ?」

「えぇ、旅先ではぐれてしまいまして。何かご存知なのですか?」


 うわぁ。ルミィの奴一瞬で猫被りやがった。あの女神みたいな微笑みが逆に怖いな。


「……知っている。彼は優しい。普段も、ベッドの中でも」

「は?」


 ピシリと。ルミィの笑顔と共に、ギルド内が凍りついた。


 おいこら、何て事言ってんだお前。俺を社会的に殺す気か?


「……彼は今、宿のベッドで眠っている。さっきまで夜伽(えっちな事)をしていたから」


 その言葉に対して。

 ルミィが手に持ったロッドを振り下ろすのと、サウレが短剣を振り上げるのは同時だった。

 ガチリと噛み合った武器同時がギリギリと音を立てる。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」

「……やるなら相手になる」


 やべ、ルミィがキレた。

 あ、でも武器を合わせたまま奥の方に走って行ったな。さすがだ、サウレ。


「あなた達もセイさんを探しに?」

「あ、あぁ。アイツは俺たちの仲間だからな。何か困ってるなら助けになりたい」

「宿屋に居るならちょっと行ってみようかな! ありがとう!」

「それが宜しいかと。まだ寝ていると思いますので」


 こっちはこっちで凄いな。ジュレの奴、真顔で嘘ついてやがる。

 クレアも若干引いてるし。


「ルミィは……無理だな。すまないが頼めるだろうか。俺たちは先にセイと話をしたい」

「分かりました。お任せください」

「すまない。じゃあ、頼んだ」


 それだけを言い残し、二人は冒険者ギルドから去っていった。

 よし、今だ。


「…………アル、行くぞ。裏口だ」

「…………わかりました!」


 響く戦闘音を後に、俺たちはギルドをこっそり抜け出した。

 しかし、久しぶりに見たけど……


 やっぱりアイツ、怖いわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ