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29話「せっかくだし観光を楽しもう」


 はた迷惑な英雄が飛び去った後、仕事を求めて冒険者ギルドにやってきた。

 何せ路銀があまり無い。路銀が無ければ旅もできない。世知辛い話だ。

 まぁ、労働自体は嫌いって程じゃないし、戦わなくて良いなら何でもやるけどな。


 てな訳で。大通り沿いにある古びた冒険者ギルドにやってきた。

 内装はどこもおなじような感じだ。ここも相変わらずボロいけど、改装とかしないんかね。金がない訳じゃないだろうに。


 早速受付の前に吊るされている依頼書の束を手に取り、内容を確認していく。

 採取依頼、討伐依頼、この辺りはスルー。

 んで、狙い目の雑用をぱらぱらと見ていくと、治療院の雑用の仕事があった。

 給金もそこそこ高い、良依頼だ。


 まぁそもそも、治療院は専門組織だしな。

 治癒魔法や治療に関する知識がないと雑用すら出来ないだろうし。

 だからこそ、給金が高いんだろうな。

 俺にとっちゃありがたい事だけど。


「俺はこれ受けるわ。お前らはどうする?」

「……私はライとどこまでも一緒に居る」

「私は討伐依頼受けます! たくさんぶち殺してきますね!」

「では私は苦戦するアルさんを見守ることにします」


 いや、なんでもいいんだけどさ。ほんとブレねぇなこいつら。


「んじゃ二手に別れるか。宿は取っておくから好きに暴れて来い」

「了解です! 船旅で溜まったストレスを発散してきます!」

「無理はするなよ……って言っても無駄か。ジュレ、頼んだ」

「報酬が無ければお断りします」

「……あー。ちなみに何が良いんだ?」

「そうですね……優しく抱きしめて耳元で罵倒してください」

「却下だ。まぁなんか考えとくわ」


 優しく抱きしめる時点で不可能だし。

 いや、正確には可能ではあるけど、あまりやりたくない。

 未だに鳥肌立つからな。

 この呪い、いつになったら解けるんかね。


「受付さん。これ受領してもらっていいですかー?」

「あら、これを受けてくれるんですか? ありがたいですけど、大丈夫ですか?」

「あぁ、ある程度の知識はあるんで」

「それなら大丈夫ですね。そちらの方も一緒ですか?」

「……私も知識はある」

「では受領しておきますね」


 さらさらとサインした後、ハンコを押した書類を渡された。

 どうやら仕事は明日かららしいので、今日はのんびりすることにしよう。


「アル達は今から出るのか?」

「はい! 待ちきれないので!」

「まぁ適当に切り上げてこいよ。まだ大丈夫は危険のサインだ」


 何事に関しても言えることだが、まだ行けると思った時、既に限界に近い状態なのだ。

 特に命の危険がある仕事だと、その無理は致命傷となる。

 今までに何度も言ってきた事だから大丈夫だとは思うけど……アルだからなぁ。


「気をつけます!」

「マジで気をつけろよ?」

「はい!」


 うーん。まぁ心配しすぎるのもアレだしな。

 この当たりなら大して強い魔物も居ないはずだし、大丈夫だろ。


「んじゃ夕飯までには戻ってこいよー」

「了解です! 腕が鳴りますね!」

「では行ってきます。また後ほど」

「気をつけてなー」


 手を振って見送り、とりあえず宿に向かう事にした。

 嬉しいことにギルドを出てすぐ近くにある宿屋で二部屋取る事が出来たので、しばらく分の宿代を先払いしておく。

 これでよし。さて、久しぶりにアスーラの町でもぶらつくとするか。


「サウレ、一応聞いてみるけど、お前どうすんの?」

「……ライのそばに居る」

「はいよ。んじゃアスーラ観光でもするか。前に来たことはあるか?」

「……何度か来た。でもすぐに通り過ぎた」

「そりゃ勿体無いな。せっかくだし色々行ってみようぜ」


 港町なだけあっていろんな露天が出てるしな。

 見て回るだけでも中々に面白いところだ。


「……町を回るなら、お願いがある」

「お、なんだ?」

「……手を繋いでほしい。せっかくのデートだから」


 俺の袖をくいっと引っ張りながら、俯きがちに呟いた。

 いつもより心無しか頬が赤い。

 うーん。こうして見てるとただの美少女なんだけどなぁ。


「つーかデートなのかこれ……いや、サウレなら手を繋ぐくらい大丈夫だと思うけど」

「……二人きりのお出かけ。即ちデート。異論は認めない」

「そうか……まぁ、何でもいいけどな」


 少量の緊張を押し殺し、ほれと手を伸ばす。

 すぐに小さくて温かい手が繋がれた。

 思っていた以上に拒否反応が出ないことに驚く。


 おぉ……少しは改善してるのな。まぁサウレだからってのは大きいだろうけど。

 なんだかんだ言って、今一番信頼してる奴だしな。


「……ふふ。ライと手を繋いでデート」


 はにかみ、嬉しそうに微笑むサウレ。

 その姿は普段より愛らしく見えて、違う意味で緊張してきた。

 うーん……まぁ、喜んでくれてるならいいか。

 俺も嫌な訳じゃないし。


「えぇと、まずは露店巡りでもすっかね。サウレは見たいものとかあるか?」

「……特にない。ライと一緒ならそれでいい」

「んじゃ適当に冷やかして回るか」


 何だか気恥しさを感じながら、とりあえず大通りに繰り出すことにした。

 周りがじろじろ見てる気がするけど、無視だ無視。


 せっかくだし観光を楽しもう。

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