秋祭りの準備
どうもみなさま、リオネッサです。
きたる山羊の月十八日の秋祭りにむけてちゃくちゃくと準備が進んでいるラシェからこんにちは。
今年も魔王さまが布やら食材やらを差し入れをしてくださったので、派手にいくぞー! 一年分稼ぐぞー! と息巻く人も多い。
ゼーナちゃんの今年の衣装は氷の女王スィシェネミアーユだ。おばさまもお母さまも張り切っているし、今年は付き添いのメイドたちも鼻息荒くやる気に満ち満ちているので、去年よりも素晴らしい出来の仮装になることだろう。よかったね、ゼーナちゃん今年もモテモテだよ。
***
「急に悪寒が……!!」
「……? 珍しい、ね。カゼ、引いたの? 明日は嵐にでもなる、のかも」
「なるかよおおおおヤダアアアア心当たりがありすぎるうううう」
「強く生きて、ね」
「ヴァアアアアア」
***
わたしはといえば、今年も
「既婚者だし……」
とおんびんに仮装を逃れようとしたのだけれど、ヴィーカとお母さまとおばさまに問答無用で仮装を決定された。アーッ!
いいもん。魔王さまと夫婦役の仮装だし、花の飾りがいっぱいついた衣装だって恥ずかしくないもん。むしろ花をいっぱいつけた魔王さまをおがめるのだから役得! そしてエルフィーともおそろいになったのだからさらにお得!
そうそう、魔王さまは秋祭りに正攻法で参加するべく、去年から人界への渡界申請を出していたのだ。だから今回は堂々と祭りに参加できる。
ただし祭りの間だけ、という厳しい条件付きだったけれど。エルトシカ王族ってばケチすぎない?
だというのにわざわざヴィーカたちのためにばしりんで来て、置いていってくれるのだから、わたしの旦那さまマジ紳士。世界中探したって魔王さま以上の紳士なんて存在しない。ロマンス小説のヒーローなんて目じゃないわ。
ケチなエルトシカ王族からピヴァーノ家へ
「魔王を監視するように」
という密命が下ったそうだけれど、お父さまは魔王さまにアッサリばらした。
魔王さまのひととなりはよく知っているし、魔王さまたちが自ら問題は起こさない、と言ってくださったので監視は形だけだ。
エルトシカ王族の息がかかった兵士でも来れば違ったのだろうけれど、魔界人を怖がっている王族がわざわざ藪を棒でつつくことはないので、監視役に任命されたゼーノおじさんたちは魔王さまと肩を組んで酒盛りでもすることだろう。
どちらかというと報告書をでっち上げなければいけないお父さまのほうがたいへんだと思う。がんばれ、お父さま。
ヴィーカとオルフェオはなんと魔王さまとわたしの仮装をする。
「今もっとも流行ってる夫婦といえば、やっぱり魔王と魔王妃でしょ!」
「本人たちがいるのに?」
「いいじゃない! せっかくのお祭りなんだし!」
いやまあ、ヴィーカがいいならそれでいいんだけれど。かわいい妹の頼みは断れない。
そんな訳でだいぶ照れくさくはあるのだけれど、魔王さまの赤と、魔界っぽさを出す黒の二色を基調とした衣装の制作を手伝っている。
「やっぱり魔王といえばこうもり羽根よ!」
「魔王さまは必要なとき以外は生やさないけどねー」
「あとりっぱな角! しっぽ!」
「大きすぎるとオルフェオがたいへんだからそれなりのねー」
「それからりっぱな体格! といきたいけど、これはしょうがないわよね」
「そりゃね。でもオルフェオも人界人にしてはがっちりしてるからね? 魔王さまやジーノおじさんと比べちゃかわいそうだよ」
「わかってるわよう」
ぶーたれたヴィーカも縫い進めていく。
ヴィーカの縫い物の腕は去年よりもずいぶん上がった。わたしのラシェ通いが始まってから、しぶるヴィーカを引きずって手芸会に参加させた甲斐があった。メイドたちが手芸を始めたのがわたしが嫁いでからと聞いてから、やる気がぐんと上がったおかげだろう。
うんうん。ライバルっていいね。
今では仲良くおしゃべりしながら刺しゅうをする仲になっている。ちょっとうらやましい。
「あーあ、オルフェオはいつ帰ってくるのかしら」
「秋祭りまでには帰ってくるって」
オルフェオの衣装を広げながらヴィーカがつぶやく。
オルフェオは引継ぎに忙しく、さらには新婚旅行のためのまとまった休みをもぎとるために馬車馬以上の働きをしているとか。いやもうほんとヴィーカがごめん。
帰ってきたらヴィーカの手編みマフラーが待ってるから楽しみにしてて。
「もしもし、王妃様。花飾りはそれくらいにしておいたらどうかな」
「まだまだ足りませんよお、うふふ」
「ああそう………」
わたしの手元にある花飾りたちを見ながらバルタザールさんが紅茶を飲んだ。
これはわたしたちの仮装分の飾りではなく、アルバンさんとバルタザールさんの仮装の分だ。
秋祭りの飲み比べに参加したがったアルバンさんとバルタザールさんはどちらがラシェに来るかでバチバチしていたのだけれど、魔王さまの渡界許可が正式に下りたことで、それが収まった。
「私は魔王様の執事ですから当然同行させていただきますね!」
「僕はいつも通りリオネッサの護衛だから何の問題もないな!」
二人ともヤッター! 飲み食いするぞー! という内なる声がまったく隠れていなかった。年に一度のことだし、二人なら変な事件も起こさないだろうし、安心、かな?
そんな二人には仮装してもらう約束を取り付けた。しぶっていたけれど、仮装しなければ参加させない、と脅してみたところ二つ返事で了承してくれた。
魔王さまとわたしの護衛なので、おそろいの花いっぱいの仮装でーす! 二人とも喜んでくれるよね!
「もう少し花を控えめにしないか? ホラ、僕らは護衛だし、魔界人だし、仮装する意味もない」
「ふふふ、バルタザールさん。人界には死なばもろともということわざがありまして」
魔王さまやエルフィーの仮装を見られるのはそれはもう幸せ以外のなにものでもないのだけれど、やっぱりできることならわたしだって似合わない仮装はしたくないわけで。
仮装したくないならお母さまたちを説得してわたしも仮装しなくてもいいようにしてください、というメッセージは伝わったらしい。
バルタザールさんはおばさまと白熱したやりとりをしているお母さまを横目で眺め、肩をすくめてからおとなしくお茶の時間に戻っていった。
わたしも花飾り作りに戻る。これが終わればゼーナちゃんの衣装作りの手伝いだ。
ゼーナちゃんの衣装の完成度が上がれば上がるほどゼーナちゃんが目立つ。そしてわたしは埋もれる!
わたしがんばるね、ゼーナお姉ちゃん!
***
「うぎゃあああ! 寒気を超えた何かがアアア!」
「うーん。休憩、する?」
魔物の首を歌で一刀両断しながら、エルフィーは首を傾げた。




