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魔王さまと花嫁さん  作者: 結城暁


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誕生日にむけて

 どうもみなさんこんにちは。リオネッサです。

 ただいま魔王さまに贈る誕生日プレゼントに頭を悩ませている最中です。

 去年からたくらんでいた魔王さまの誕生日を国民の休日にしよう計画はみごとに成功した。なのでバルタザールさんも強制参加させられます。やったあ!

 年明けに布告したときは国民の休日自体が初めてだったから、みんなとまどっていた。

 とりあえずは魔王城周辺だけのことだけれど、当日が近付いてくるにつれ、みんな楽しみになってきているらしい。魔王城はウキウキソワソワとした空気が漂っている。

 なかにはお祭りムードを口実にして、意中の人といい雰囲気になろうとしている人もいるとかいないとか。

 全部実家(ラシェ)で聞いたことですけれども! わたしは今日も安定の実家通いだ。

 魔王さまの誕生日の今月、猫の月の二十二日にむけて、城ではちゃくちゃくと準備が進んでいるというのに。今年は手伝いすらさせてもらえないなんて。その分魔王さまのプレゼントに力を入れてくださいって言われた。

 みんながたくましくなってわたしはうれしいよ、うん。泣いてなんかないやい。

 去年の反省をちゃんと活かして、サプライズはない。ちゃんと招待状を渡して、魔王さまには開始時刻を告げている。魔王さまの胃はわたしが守る!

 わたしは魔王さまに


「今年は君の手料理をプレゼントしてもらえないだろうか」


 って言われちゃいましたので! 


「もちろん料理人達の出す食事も美味であるのだが、君が私を祝ってくれる特別な日だけは、君の手料理を食べられたら、と願う。

 ……君の負担になるようなら断っても構わな――」

「負担なんかじゃありません喜んで作ります! 任せてください!」


 耳垂れあーんど肩落としぎみな魔王さまかわいい!

 なので、胃にやさしく、見た目にも楽しい美味しい料理を作ろう! と頭をひねっているわけなのだった。

 身内だけで祝うのは変わらないので、ケーキは去年より小ぢんまりとして、料理は魔王さまだけわたしの手作りで、と決まったものの。メニューが決めきれない。

 ハンバーグも食べてもらいたいし、ステーキやミートシチュー、ローストミート、スペアリブなんかも食べていただきたい。迷うなー。いっそ全部作ってしまおうか。

 ………脳内でレギーナたちに笑って止められた。

 最近、注意されてばかりだからなのか、脳内が注意し隊に占拠されているような。

 じゃ、じゃあ、いろんな料理をちょっとずつ盛って、量は全部で一人前にすれば……。種類は五種類までって限定しておけば、そこまで手間もかからないし、厨房とメニューがかぶりにくくもなるし。よし、ナイスアイディア。この方向でいこう。メニューを書き出して厨房に提出しておかなくちゃ。

 うーん、プレゼントがこれでいいのかな。ちょっとものたりないような気もするけれど。マントの刺しゅうに時間をめいっぱい使えるから助かと言えば助かる。

 あ、少しでもプレゼントらしくするために、ハンバーグに旗つきのようじを刺しておこうっと! うふふ。魔王さまに喜んでもらえるといいな。

 エルフィーは昨年に続いて刺しゅうを刺したハンカチを贈るそうだ。

 見せてもらったけれど、去年より格段に上手くなっている。本人は


「パパの名前と、紋章、だけだけど」


 と謙遜していたけれど、すごいよ。もっと自信持ってもいいよ!

 今年は色とりどりの布地に、色とりどりの糸を使って、やっぱり人界、天界、魔界の三種類で文字を刺していた。

 わたし、もう完璧に刺しゅうの腕で負けてないかな。もうエルフィーに教えることがなさそうなんだけれど。

 か、かろうじて、料理はまだ、なんとか……。

 ………ふ。それだけエルフィーが成長してるってことなんだから、喜ぼう、わたし。エルフィーが刺しゅうを極めたら料理を教えてあげよう、そうしよう。

 そういえば今年も残りわずかだ。新年祭はやっぱり三日三晩続いたりするのかな。

 新年祭まで約四か月。これから胃腸にやさしいメニューをたくさん考えておこう。宴会のメニューは連日食べるとには魔王さまの胃にちょっと重かったみたい。肉料理がお好きなのに、なんてことだ。もうちょっと野菜メインのメニューも考案しておこう。

 ヴァーダイア向けに甘味を増やして、ゼイマスペル向けには辛いもの、フィルヘニーミ向けにはあったかいもの。

 おおーっとお、考えごとはここまでにしておかないとそろそろお小言をもらっちゃうぞー。

 魔王さまへのプレゼントメニューを書いた紙を、そそくさとまとめる。城に帰ったらちゃんと厨房に……。


「厨房にはわたしから提出しておきますね」

「ありがとうございます。お願いします」


 さすが、レギーナ。有能すぎて、わたしが口を出すひまもなかったよ!

 レギーナがにこにこと笑いながら、メニュー案をしまった。

 そ、そんなに厳重にしなくてもだいじょぶですよ。まだ案でしかないんですから。破れたとしても書きなおしますし。い、いえ、レギーナがそれでいいなら、いいんです。

 まだ城に帰るまで時間がある。

 さて何をしたものか、とイスから立ったところで部屋の扉がノックされた。と、同時に開いた。


「リオネッサ! 聞き込みに行くぞー!」

「バルタザール様!」

「バルタザールさん」


 わあ、じょうきげん。

 レギーナの非難の視線も華麗にスルー。まったく気にせずバルタザールさんはわたしをせかす。

 レギーナ、落ち着いて。おねがい、おちついて。


「興味深いことを聞いてね、ほらゼーノの曾祖父の!」

「はいはい。行ける範囲でお供します」


 小躍りしそうなくらい機嫌がいい。

 ゼーノのひいおじいさんて、たしかまだ生きてるはず。いったいなにを聞いたんだろう。

 おじさんによく聞いた守り亀投げ飛ばし事件? それともブチギレ雨ごい事件? うーん、さすがゼーノのひいおじいさん。やることがぶっ飛んでる。


「ご機嫌ですね、バルタザールさん」

「ああ、それはもう」


 笑顔がまぶしい。

 あの、レギーナ、おちついて。ね? ほら、バルタザールさんて研究に熱中すると他のことがどうでもよくなっちゃう人だから。


「今月は魔王さまの誕生日がありますけど、もうプレゼントを用意したんですね。さすがバルタザールさん。準備イイナー」

「うーん? えーと、バースデーカード」


 うーん? えーとって。今考えましたね。


「いやほら人界にそういう風習があるって聞いて。リオネッサの故郷のことだから興味あるだろうなあって。……ダメ?」

「ダメじゃないですよ」


 バルタザールさんが良いならそれで良い。魔王さまは親友にもらえるならなんだって喜ぶだろう。 


「ただ、気持ちだけはこめてくださいね」

「もちろんこめるさ。で。誕生会って」

「もちろん出席してもらいます。最低でも一時間。ちゃんと演目も料理も考えてありますので、ご心配なく」

「そう……」


 しゅん、としっぽを垂れさせたバルタザールさんだった。

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