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魔王さまと花嫁さん  作者: 結城暁


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三界会議へむけて

 こんにちは、リオネッサです。

 今日は来月の烏の月に行われる三界会議にむけて準備の真っ最中です。

 今年は去年よりも紹介したい商品も提案も増えたし、みんな忙しそうにしている。交換留学とか、興味を持ってもらえたらいいなあ。

 そのまえに学問所を整備しなきゃだけど。

 学問所のまえに、行商とか通貨を広めたり、道路の整備や各領との連携とか、やらなきゃいけないことばっかりだけれども。学問所を建てるのはいつになることやら。

 今は図書館の片すみを借りて学習塾もどきを開くのが精いっぱい。

 教師役がわたしじゃ役者不足だし、かといってアルバンさんたちは忙しいからしょっちゅう頼めないし。

 交換留学はむりでも、せめて留学を認めてもらえれば教師役を増やせるかも。

 こう考えると学問所を建てるのはずい分先のことになりそう。ううん。やっぱり気長にやってくしかないなあ。

 まずは衣食住の充実が先だもん。魔界人には衣がいらない人もいるかもだけれど。

 学問を納めてもそれを生かせる場所がなければ宝の持ち腐れなのだし。

 働いて糧を得ることができる人が多くなるまで学問所はおあずけかな。、ああしかたないか。なにごともできることからやっていかないと、だもの。

 まずは外貨獲得! 観光客の獲得! 急がず焦らず着実に!

 アルバンさんたちの受け売りだけれども。

 去年よりもやることが劇的に増えて、みんながみんな人手不足になる未来をひしひしと予感しているのだと思う。

 逆に仕事をする量を意識してセーブするようになっていた。

 それなら少しくらいわたしにも仕事を回してくれてもいいのに。

 はい。お察しのとおり、のんびりゆっくり継続中です。

 三界会議のときくらいやめてもいいのでは……?

 とはいえ去年はお茶会などへ出席しすぎてぶっ倒れてしまったわたしなので、しゅくしゅくと従うのであった。わたし、いちおう王妃なんですけれども……。

 そんなわけで今年の滞在期間は去年より多いけれども、予定は見事にすっかすか。観光目的で行くの? といった感じに。

 わたしが参加していたお茶会のほとんどをエルフィーが肩代わりしてくれたおかげだ。ありがとう、エルフィー。

 わたしの出番といえば、親睦を深めるための夜会へ魔王さまと出席するくらいだ。

 ほんとになにもすることがないや……。

 まあいいや。毎年行ける新婚旅行だと思えば、うん。

 おかえで食べ歩きがはかどりそう。ひとりだけれども。

 メ、メイドさんたちも護衛もいるからさみしくないもん。ハイダさんたちのところも訪問予定だし、ぜんぜんさみしくないもん。

 ………ハア。

 滞在期間中、なにしようかなあ。日光浴三昧でもしてようかな、アハハ。

 せっかくなんだし、思いっきり観光しよう、そうしよう。

 匂い袋を完成させて、身体を伸ばす。意外とこっていた。


「休憩にします」

「はい、王妃様」


 レギーナさんのいれてくれたお茶を飲んで息を吐く。意外と疲れがたまっていた。

 部屋の中を歩き回って、お茶をいただいて、軽く体操して、またお茶を飲んで。

 晩さんまで時間もあることだし、お腹を空かせるために散歩でもしようかな。


「散歩してもいいですか?」

「中庭でしたら構いませんよ」


 今日は少し風が強い。

 いつも通り空は高く、それにならって雲も高い。

 風に流された雲がどんどん形を変えていく。

 人界だったら嵐がきそうな空模様だけれど、魔界ではそうそうこない。少なくとも、魔王城の回りには。

 なぜかといえば、嵐を嫌う種族が嵐になるまえに散らしてしまうから、らしい。

 逆に嵐を好む種族ももちろんいるのだけれど、多数決でおとなしくしているそうだ。

 好き勝手をして嵐を呼んだり育てたりすると、周囲からの非難ごうごう、そんなに悪天候が好きならフィルヘニーミへ住め、と放り込まれてしまうらしい。なんと豪快な領地侵犯。

 フィルヘニーミ領の人たちはそこまで気にしていないから外交問題にはならないけれど、嵐好きな人は嵐が好きなのであって、吹雪も凍えるほどの寒さも好きではないので、どんなに興奮していてもおとなしくなるそうだ。フィルヘニーミへ放り投げるぞ! は効果てきめんな脅し文句だそう。

 ざあざあと木々が騒いでいる。

 ここまで風が荒れるのは珍しい。わたしは初めてだ。


「王妃さま、今日の散歩はここまでにいたしましょう。もしかしたら嵐が来るかもしれません」

「そうなんですか? 珍しいですね」

「たまにあるのです。ごくまれに嵐を散らすのがどうにも面倒になる様で。数年に一度ではありますが」

「ふふ。それが今日かもしれないんですね。魔界で嵐を体験するのは初めてですから、ちょっと楽しみです」

「あまり良いものではありませんよ。雨も風もうるさいばかりです」


 翌日の片付けも大変ですし、とレギーナさんはため息交じりでわたしの背を押した。


「新婚旅行中だというのに、ウラも運の無い……」

「もしかしたら、もうヴァーダイアに着いているかもしれませんよ? 初めてのお客さんに興奮していましたから」


 仮運営ではあるが、辻馬車運営を任されたハイノさんたちはとても張り切っていた。

 馬代わりの俊足亀(ファーフ)をとてもかわいがっているハイノさんたちは、初めての仕事としてウラさんたちの新婚旅行の送迎を任され、常春のヴァーダイアへ心躍せていたから、おそらく予定よりはやく進んでいるはずだ。

 レギーナさんの言う通り荒れだした天気は立派な嵐となり、夕方からの嵐は翌日の昼まで吹き荒れた。

 後日届いた手紙によると、ウラさんたちの旅程は張り切ったハイノさんたちのおかげでやはり早く進んでいて、嵐にあわずに済んだらしい。

 帰りは行きよりもゆっくり景色を楽しみながら帰ってきますと綴られていた。

 レギーナさんの言っていた通り、嵐の後の魔王城は片付けに追われた。

 やっぱりわたしは手伝わせてもらなかったけれども。

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