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魔王さまと花嫁さん  作者: 結城暁


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お日様の下で

「おはようございます」

「おはよう」

「おはよう、ございます」

 夜通し話し合いをしていたらしい魔王さまたちは、けれど疲れているようには見えなかった。エルフィーといっしょに魔王さまへ朝のあいさつをする。

「おはようジークくん」

「おはよう。

 ……今のなに? なんで顔に口をくっつけてんの?」

「なんでって朝のあいさつだからね」

「朝の挨拶、です」

 今では恥ずかしがらず自然にできるようになった。むしろしないと落ち着かないくらいだ、ふっふっふ。

「うちでは朝夕ほっぺにキスを送って送り返すのが習慣なんだ。家族だからね!」

「ほうほう」

「短い時間でも毎日触れ合うのは大切な事の様に思う。始めの頃は私もリオネッサもぎこちなかったが、エルフィーが加わる頃には慣れて自然に行えるようになった」

「ふむふむ」

 うなずきながらジークくんがエンメルガルトさまを見た。

 エンメルガルトさまは冷や汗をかいて首を横にふっていた。

 エンメルガルトさま、ジークくんはあきらめてないです。たぶん習慣化する気です。

「ジークくんはエンメルガルトさまが大好きなんだねえ」

王妃(おーひ)サマが陛下を大好きなのと同じくらいにはね」

 そうなんだ。うひゃあ、情熱的だなあ。

 エンメルガルトさまは困ったように、けれど嬉しそうに照れ笑いをした。


 野菜中心の朝食をいただいて、わたしはジークくんの案内で花畑に来ていた。

 魔王さまとエルフィー、それにエンメルガルトさまの机仕事組は再び話し合いに戻っていった。休んでください……。

 今日の昼すぎには魔王城に向けて出発するのだけれど、ギリギリまで話し合いを続けるそうです。休んでください……。

 もっとゆっくり滞在できたらよかったんだけど、魔王さまが長く他領にいるといろいろややこしくなるみたい。

「ヒマなのってゼーノだけだねー」

「あァ? オメーも大概だろーが寸胴チビ」

 この息をするような罵倒。顔がもったいない。

 黙って寝っ転がってるだけなら花畑で午睡する妖精のに見間違えられるのに。残念、中身は悪ガキと中年のごった煮だ。見た目はすごく美人なのになあ。ほんとにもったいない。

 いちおう護衛中なのでお酒は飲んでいないけれど、寝転んで運ばれてくる料理をつまみ、ちびちび果実水を飲んでいる姿はダメおやじそのものだ。

 ゼーノがつまんでいる料理はレギーナさんの指導で厨房の人達が作ったものだ。

 字が読めない人もいるし、包丁を使ったことのない人もいるので、とにかく量を作って体に覚えさせると言っていたけど、だ、だいじょうぶかなあ……。

 よくわたしに休憩の大切さを説いてくれるレギーナさんだもん、だいじょぶだよね、うん。

 鼻ちょうちんを作って寝始めたゼーノを花冠で飾っておいた。

 久しぶりの青空を見上げる。

 ゼーノのように大の字になって寝転びたいけれど、服が汚れたら困るのでガマンガマン。

 ゼーノに花束も足しておいた。わあキレイ。筆があったらちょびヒゲをプレゼントできたのに。ざんねーん。

 陽の光が気持ちいい。鳥のさえずりが聞こえる。風邪は暖かくて、蝶があちこちに飛んでいる。

 まさに春らんまんといった感じだ。

「気持ちいーねー、ジークくん」

「そうだな」

 のんびりと花冠を作ってジークくんの頭にのせる。似合ってた。

「これなに?」

「花冠。あ、もしかしてここの花は摘んだらいけなかった?」

「そんなことないよ。……おれにも作り方を教えてください」

「いいよー」

 エンメルガルトさまにあげたいのかな? 思わずにまにましてしまった。

 安請け合いをしたけれど、わたしとジークくんでは指の太さが違うので完成までになかなか時間がかかってしまった。昼食までにはできると思ってたのに。

 ジークくんが初めて作った花冠はちょっぴりよれっとしていて、ジークくんは不満そうに耳を垂れさせた。

「まあまあ。初めてにしては上手だよ。それにわたしと指の太さも違うわけだし」

 むうう、とほおをふくらませたジークくんはもう一回作り始めた。負けずギライなのかもしれない。

 でも気持ちはわかる。エンメルガルトさまにあげるならキレイにできたのものをあげたいよね。

 ゼーノがランチボックスからサンドイッチを取り出してひとりでむしゃむしゃ食べ始めたので、どうやら昼になったようだ。ゼーノの腹時計はどんなときも正確なのだ。

 いただきますは言ってたけど、どうせならみんなで食べようよ。いっしょにいるんだから。なんでかってに食べ始めちゃうかなあ。

 なにも言ってないのにうるへー、と言われた。はあ。わたしも食べようっと。

「ジークくん、中断してお昼ご飯にしよう」

「わかった」

 すなおにうなずいて、ジークくんは作りかけの花冠を置く。さっきのものよりきれいに編めていた。

「ジークくんは器用なんだねえ。うらやましいなあ」

「まあね。いちおう親父に叩きこまれましたので」

 ほこらしげな顔でサンドイッチをがぶり。二口でサンドイッチは消えていった。

「お父さんも器用なんだ。すごいね」

「うん。親父はすごいよ。いろいろな事を知ってたんだ。

 変わり者だったけど」

 もっしゃもっしゃとサンドイッチをたいらげていくジークくん。

 やっぱりきっすいの魔界人だけあってゼーノよりもたくさん食べるみたい。ゼーノが摘まんでた料理もだいたいジークくんが食べてたのにまだ入るんだ。わたしはサンドイッチ一個でお腹いっぱいなのでちょっとうらやましい。

 持ってきておいたバゲットをたてに割って、野菜と肉類をバランスよくはさんでいけば(ばっちりおいしい)(リオネッサ)(特製)サンドのできあがりー。

 わたしの顔より大きく仕上がったそれをジークくんに渡すと、大喜びで食べてくれた。

「王妃サマの料理は全部ウマイですな!」

「ありがとう。レシピを渡しておいたからそのうちいつでも食べられるようになると思うよ」

「それは楽しみですな」

 もむもむもむもむとBLTサンドを食べていくジークくんを見てるとなんだか既視感が。いも虫が主人公の絵本にこんな場面があったような。

 昼食を終えるとゼーノはまた寝てしまった。こんなに食っちゃ寝してどうして太らないの……。

 わたしとジークくんは花冠作りに戻った。


「「できたー!」」

 ついにジークくんのなっとくいく花冠ができた。

 はっ! もうおやつの時間だ。ゼーノが起き出していただいた果物を皮ごと食べている。声くらいかけてよ、もー!

「おれ、メルに見せてくる!」

「いってらっしゃい」

 興奮したようすでジークくんはお城の向かってかけていった。はやい。走ってというか跳んでいったというか。あの勢いで窓から入ったりしなきゃいいなあ。

 ゼーノは赤い皮の果実をかじりながらまた横になる。

「そんなに食べて寝てばっかりいると牛になるよ?」

「なるか。ここはヒマすぎてこれくらいしかやることがねーんだよ」

 言って、また鼻ちょうちんを作り始めた。

 護衛がヒマなのはいいことだけどさあ……。

 わたしもいただいた果物を食べることにした。もちろん皮はむいて。

 名前の知らないヴァーダイア産の果物はどれも淡い色合いをしていた。こんなところまで春っぽい。

 うん、おいしい。これでパイを作ったらぜったい美味しい。惜しむらくはやっぱり時間がないことだ。パイ生地を作る時間がない。レシピを渡しても作るのがむずかしいし、なによりわたしが食べられない。

 今度来れたら作らせてもらおう。

 おやつを食べ終えてしまえばそろそろ帰る時間だ。荷物はもともとまとめてあるから急ぐ必要はないんだけれど、遅れすぎるのはよくない。

「ゼーノ、起きてよ。もうお城に戻らないと」

「おー」


 お城で出迎えてくれたのは魔王さまだった。朝と変わらずかっこいい。

 エンメルガルトさまたちはお見送りの準備をしてくれているらしい。

「お帰り。よく戻った」

「はいっ! ただいま戻りました」

「んじゃ、あとはたのんますわー」

 あくびをしながらゼーノはお城に入っていった。魔王さまに敬語を使えるようになってよかったなあ。

「日光浴はどうだったかね」

「とっても気持ち良かったです!」

 今のわたしはきっと干したての布団と同じ匂いがするはず。おまけに花畑にいたし、ちょう良い匂いなのでは?

「リオネッサ、少し歩こう。庭園の花が見事に咲いていると聞いたのだ」

「はい、魔王さま」

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