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魔王さまと花嫁さん  作者: 結城暁


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祭りの夜その2

 まず、ゼーナお姉ちゃんは超が付く美人だ。

 おばさまゆずりの月光をそのまま飴細工にしたような髪に目に、肌の白さ。人形よりも見目麗しい顔に、お母さまとわたしで気合を入れまくって作ったエンメルガルトの衣装。

 そりゃー美人中の美人になりますわぁー。


「去年ぶりですね! 今年こそ名前を教えてください!」

「美しい人よ! 今宵こそは私の愛を受け止めてくれっ!」

「あっあのっ、あなたに似合うと思って、こっこの花を受け取ってくださいっ!」


 以上。抜粋。

 ゼーノ、いやゼーナちゃんは旅人たちに囲まれて貢物(プレゼント)と愛の告白の一声攻撃を受けている。

 ゼーナちゃんの目はいよいよ死んできた。青筋も浮かんでいるし、口元も引きつっている。

 ――残念ながら美人さはちっとも損なわれていないのだけれど。むしろ引きつった口元のおかげで笑っているように見えなくもない。目はぜんぜん笑ってないけど。

 ここでドスのきいた声で喚き散らせばあの人たちの夢も壊れるだろうに。会話をするのすらおぞけが走るそうで、いつも黙ったままだ。いつもは手とか足とか出まくってボコボコにしてるのに。会話といっしょで触りたくもないそうな。

 だから年をおうごとにひどいことになってると思うんだけどなあ。あ、がまんの限界がきた。

 ゼーナちゃんの周りが男たちも含めてバリっと光ったかと思えば、旅人たちは仲良く地面と転がっている。そう。ゼーナちゃんは魔術が仕えるのだ!

 倒れた旅人たちはこのあと雨露をしのげる簡易テントに運ばれ、明日の朝には宿賃などを要求される運命にあるのだった。みんなしたたかーあ。


「おつかれさまー」

「…………ッ!!!」


 形相からすると気持ち悪い!!! とかクソ共が!!! とかなんでオレが!!! ってトコかな。あんまりにもあんまりすぎて言葉にならないらしい。

 押し付けられたプレゼントをばらばら捨てて、ゼーナちゃんは大股に歩きだした。

 プレゼントはこのあと村中で山分けされました。


「……ッ!! ………ッ!!」

「うんうん。たいへんだったね。豚の丸焼き大目に取っといたから。それ食べて元気出しなって」


 さらさらとゼーナちゃんの長い髪が風に流れる。

 ちっちゃなころ伸ばしていた髪は切り落とされた今も有効活用されているのでした。

 さらっさらのつやっつやだもんなー。おばさまはいったいどんな手入れをしているんだろう。これのせいでよけいに勘違いされているんだろうけど、おとなしくつけててエライなー。ほんと黙ってれば美人だね。黙ってれば。

 嗚咽して泣き出しそうなゼーノの背中を押し、集会場にむかった。


「まあっ、ゼーナちゃんっ! やっと来たのね!」

「お前のために肉を取っといたぞォー、ゼーナ」

「今年も私と踊りましょ!」

「あんたはエンリョしなさいよっ。今年はワタシよ」

「いいえアタシが」

「おおいこっちに来りゃあ美味いモンたらふく食わせてやるぞー」

「ゼーナちゃん今年はエンメルガルトなんでしょ? すっごく似合ってるわ、ステキ!」

「髪の毛いじらせてー。お肌のお手入れさせてー。化粧させてー」


 うんうん。今年もゼーナちゃんは大人気だね!


「いやあ、ゼーナのおかげで今年も旅人が多くて助かったぜ。売り上げも年々増えてるし、来年もよろしくな!」


 肩をばんばん叩かれてもゼーノはなんの反応もしない。黙々と料理を腹におさめている

 女装は死ぬほどイヤだけど、村のためになってるし、みんなも喜ぶから怒り出すにも怒り出せないんだよねぇ。ふだんはクズでもちゃんとがまんができるんだよね。ふだんはクズいけど。

 ゼーナちゃんのおかげで人垣が割れた魔王さまの隣に座る。


「ただいま戻りました」

「おかえり」


 何も言わずに行ってしまうからさみしかった、とほおずりされて、わたしは昇天しかけた。おちついてわたし。おちついてわたし。ふわ……ふわ………。


「すぐそこだったので、つい………! 次からはちゃんと言いますね!」

「いや、そこまで気負わずとも。出来ればで構わない」

「はい……!」


 魔王さまと楽しくおしゃべりしていれば肝試しが終わって子どもたちが帰ってくる時間だ。

 エルフィーの夕飯はちゃんと家に用意してあるので案内してこよう。すでに酔っ払いでいっぱいの集会場につれてくるわけにはいかない。

 小さな子どものお母さんたちも一度家に帰って寝かしつけてからまた戻ってくる人が大半だ。わりと大人たちの息抜きのためにあったりするよね、祭りって。


「旦那さま、エルフィーを家に送ってきますね。まだまだ祭りは続きますから楽しんでいてください」

「いや、私も共に行こう。せっかく来たのだからエルフィーにも会っておきたい」

「わかりました。じゃあいっしょに行きましょう!」


 うっひょー魔王さまとすごす時間が増えるー!

 いやいや調子に乗っちゃいけない。エルフィーも魔王さまに会いたいんだから、じちょうじちょう。

 肝試しの集合場所にはすでに子どもたちが集まっていた。参加証のお菓子をもらってどの子も嬉しそうにほおばっている。笑っている子もいれば泣いてしまったらしく、お母さんになぐさめてもらっている子もいる。

 肝試し内容はいたって簡単。

 村の守り神として崇められている魔獣が眠っている洞窟に入口で渡された野菜を持って行き、眠っている魔獣の前に置いて帰ってくる。それだけだ。

 野菜を置かずに途中で引き返そうとしても、なぜわかるのか魔獣がうなり声を上げ始め、野菜を置くまでそれが止まらないので、参加者はなにがなんでも奥まで行かなければならない、肝試しとは、と考えてしまうイベントだ。

 途中におどかし役がいないから怖くないと言えば怖くないんだけどね。カメが巨大化したような見かけをしている魔獣は見ようによっては怖いかもしれない。小さい子なら特に。

 わたしも怖かったし。お供えものを横取りしたゼーノのせいだけど。あの時はほんっと怖かったなー……。


「エルフィー! むかえに来たよー」

「ママ! 魔―――パパ、も来たんだ」


 子どもたちの輪から外れたエルフィーがかけて来る。かわいい。勢いのついたエルフィーを魔王さまはなんなく受け止め抱き上げた。

 初めてのパパ呼びに固まってても完璧に絵になるなんてさすが魔王さま。


「魔――パパ、私ね、ちゃんと野菜を置いてこれたよ」

「そうか。凄いな。流石だ」

「あと、泣かなかったし、迷わなかったよ」

「そうか。偉いぞ。素晴らしい」


 はあー―――。すっごく父子(おやこ)っぽい会話~。

 そんな二人を見ていたらエルフィーの友達にわらわらと囲まれた。


「リオ姉ちゃん、あの人だれ?」

「だーれー?」

「うん? わたしの旦那さまで、エルフィーのお父さん。あー、職業はナイショね?」


 子どもたちはわかっているのかいないのか。わたしの言葉を聞くがはやいか、魔王さまに群がりに行ってしまった。子どもってすごいなー。

 囲まれて質問攻めにあった魔王さまは今までにないくらいおろおろと慌てていた。

 その後、わんぱくっ子がいたずらで魔王さまのフードを取ってしまい、魔王さまの顔を間近に見てしまった子どもたちは泣き出してしまった。

 肝試しよりも怖かったと聞いた魔王さまも落ち込んで、ちょっぴり泣いていた。

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