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魔王さまと花嫁さん  作者: 結城暁


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祭りデート

「魔王さまにはクー族の仮装が似合うんじゃないかって思いついたら作ってました!」

「そ、そうか」


 魔王さまの顔が隠れるよう深めに作ったフードにはもちろんクー族の犬耳を縫いつけてある。

 いつもの魔王さまと違う耳もいい感じ。ああ、かっこいい。

 色は深くて濃い色の緑にしておいてよかった。黒だと重すぎるかなーって思ったんだよね! 魔王さまの知的さと相まって森の賢者っぽさがよく出てる! ぐっじょぶわたし!

 ローブにつけたしっぽもこだわったんだよね~。魔王さまの尻尾は鹿みたいに短いからリボンをつけにくかったけど、クー族のしっぽならつけほうだい! さすがにリボンだらけにはしないけど。魔王さまの赤のリボンを一個だけつけさせてもらった。やっぱりよく似合う。

 裾も袖もひだたっぷりですごく豪華! 魔王さまは何を着ても似合うなあ。

 あっ。クー族の王さまって設定で作ったから冠がわたしとおそろいっぽい! ぐっじょぶわたし! ありがとうお母さま! わたしケット族の女王やってよかった!


「これで完成です! とってもかっこいいですよ魔王さま!」

「うむ。ありがとう」


 こっちだと目立っちゃう角も隠れてるし、どこからどう見られても魔王さまとは気づかれないぞ! これで魔王さまとお祭りを回れる! やったー!

 すっかり暗くなった村のあちこちをランプが照らしている。

 屋台からは良い匂いが漂ってきているし、ひときわにぎやかなのは集会場だ。旅芸人の軽やかな楽器の演奏がわたしたちのいる場所まで流れてくる。


「まずはなにから食べますか? あ、こっちの塩焼きとかどうですか? ジョットおじさんが取ってきた魚はおいしいんですよ」

「ふむ。ではそれで。こういう催しは初めてで勝手がわからないのだ」


 そんな初めてのお祭り参加にわたしが立ち会える訳ですね! 気合が入るなあ!


「すいませんーん、串一本お願いしまーす」

「へいらっしゃい。ちょっとお待ちを、ってリオネッサか。

 オヤ、お隣さんは誰だい? ジーノじゃないよな?」

「あっ、うん、おじさんじゃないよ」


 わたしはここで最高に焦った。正直に魔王さまですと紹介するわけにもいかないし、わたしの旦那さまって紹介してもイコール魔王さまってことだし、てきとうな嘘をつくわけにもいかないし。

 友達とか旅の人とか嘘をつくのは簡単だけどわたしにとって魔王さまは魔王さまなわけで……!

 悩んだ末、正直に言うことにした。


「ジョットおじさん。ここだけの話なんだけど、この人わたしの旦那さまなの。ナイショにしてね!?」


 小声でおじさんに打ち明けると、マジかっ?! って顔をしたおじさんはわたしと魔王さまを何度も見比べた。そんなに見てもフードで見えないと思うな。


「噂に聞いてたより小せえしマトモそうだナァ」

「いつもの大きさだと家に入れないので小さくなってくれたんです。あと、ジーノおじさんと比べちゃだめです。魔……旦那さまに失礼です」

「わりィわりィ。しっかし、そンな事もできなさるのかい。器用だナァ。怪力バカとはえれェ違いだ。

 おっし、焼けたぜ。オマケだ。これも持ってきな!」

「わあっ! ありがとうございます。じゃあエンリョなく!」


 大きいほうの塩焼きを魔王さまに渡してさっそくかぶりつく。おいしい。熱々サイコー!


「オウオウ。たーんと食えよ。魔……そっちの兄さんにゃあお礼代わりにもならねェけどよ」

「……お礼、とは?」


 熱々の塩焼きをほおばりながら魔王さまがたずねる。見た目は大きな猫だけれど、魔王さまは猫舌じゃないのだ。


「いやァなに。大した話でもないんだけどな。

 リオネッサが魔王様のトコに嫁入りしてからラシェにちょっかいかけて来るバカが減ってなァ。リオネッサ様様、魔王様様ってなもんよ」


 そうだったんだ。知らなかった。

 魚の皮の焦げて膨れたところをかじる。ここのちょっと焦げたとこがまた美味しいんだよね。


「そのちょっかいをかけてくる、というのは魔界人だろうか」

「いやいや違ェよ兄さん。そりゃあ時々そういう輩が来る時もありますけどね、ありゃあかわいいもんですよ。ジーノと殴り合いして酒盛りすりゃあ素直に帰ってくような奴らばっかりですからね。ここいらで厄介なのは人界人のほうですよ」


 おじさんの言葉にわたしもうなずく。

 魚の皮をあらかた食べてしまったのでいよいよ身をかじる。脂がのっていて美味しい。

 うちは貧乏下級貴族なわけだけど、幸い土地、つまりは領地を持っている。もちろん表向きは、だけど。

 領地があるという事は何もしなくても収入があると他の中級以下の土地なし貴族に思われていることが多い。うちの場合は、村の共有財産というか、領地にしていいから村をまとめてくれって顔役をやっているにすぎない。村の便利屋さん扱いというか、なんというか。

 税収が多いわけじゃないから畑を耕したり、村の面倒事やケンカに顔をつっこんで仲裁しなければならなかったりと気苦労が多いのだけれど、そんなことは知らないヨソの貧乏貴族や貴族に憧れる大商人がうちを乗っ取ってやろうと考えて村にやって来たりしていたのだ。

 人の家を乗っ取ってやろうなんて考えている人たちなので、揃って態度が横柄だったり、人を見下してきたりと上役になって欲しくない人柄ばかりなので、当然村のひとたちは反発するし、土地を取られてしまうとピヴァーノ家も路頭に迷うしかなくなるので、毎回あの手この手で丁重にお帰りいただいていた。

 その労力がなくなるならものすごく良いことだと思う。ほんとめんどくさかったもんなあ。

 うちに娘しかいないって知った人たちは政略結婚させようとしてきたし。全力でお断りしたけど。

 誰があんなヤツらにかわいいヴィーカを嫁がせるものかー!! オルフェオ、ヴィーカをよく射止めた、エライ!!


「なるほど、そういうものか。人界(こちら)もなかなか複雑なのだな」

「あっはっはっ。どこもそんなモンですよ」

「そうかもしれない」


 魔王さまと並んでいろいろ食べ歩いた。

 揚げ芋、みつあめ、鹿焼肉、煮リンゴ、ピザ、焼き鳥、猪肉の腸詰サンド。果物を切って食べさせるだけの屋台もある。けど新鮮なのでそれだけでおいしい。

 屋台を出すのは夏の間薪集めをがんばった家の特権だ。屋台の収益は純利益の一割を集会費として納めればあとは丸々その家のものにしていいので人気がある。

 秋祭りの本番は夜からなので、当然あったかいものが喜ばれる。

 だから屋台を出す家を決めるときには薪が多い家から選ばれるのだ。もちろん辞退もできるし、最近は炭を使う屋台も増えてきた。

 全部の屋台を回って、あとは集会場のスープやらパイやらをのこすのみだけれど、集会場には住民のほとんどが集まっている。

 屋台のおじさんおばさんたちに言うのと村中の人に言うのとじゃわけが違う。

 無許可の越境(えっきょう)は違法だしなー。暗黙の了解で黙ってるところもあるけど、魔王さまは真面目に守ってきたわけだし、示しがつかなくったちゃうのでわ。

 でもボーナおばあちゃんのぶどうタルト食べてほしいし……あっ!


「魔お……旦那さま、うちで待っていてくれませんか? ちょっと集会場まで行っていろいろもらってきます」

「む……」


 ナイスアイデアわたし! と思っていたら


「魔お、兄さーん! ちょっとスープ飲んできなー! オヤツもあるよー!」


 この声はボーナおばあちゃん。

 今魔王さまって言いかけた? 言いかけたよね?

 ぶんぶん手をふるボーナおばあちゃんのうしろでいく人かがあらぬ方向を見て口笛を吹くマネをしていた。

 もー―――! ここだけの話って言ったじゃん!!

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