一人反省会と
こんにちは。リオネッサです。
大成功とは言えないまでも、無事に魔王さまの誕生日をお祝いすることがだきました。
え? なんで大成功じゃなかったのか、ですか?
それはわたしがサプライズにこだわるあまり、魔王さまにいらぬ心配をかけてしまったからです。
ああもうわたしのバカ!
自己満足するだけして、魔王さまを傷付けるなんて! 穴があったら埋まりたい!
ごちそうを食べて、プレゼントの譲渡会をして、魔王さまへの感謝の手紙を読んだあと、魔王さまはばったり倒れた。
すぐに回復してたけど、それはもうびっくりした。
おろおろ泣き出す寸前のわたしとエルフィーに魔王さまは心配ないとおっしゃって……。倒れた理由を聞いたらわたしのせいだった。
わたしが誕生日パーティーのために魔王さまにないしょでいろいろやっていたせいで、魔王さまは胃をさらに痛めてしまったのだ。
ううう。わたしの考えなし……。
相手のことをきちんと考えて贈らないと、どんなに高価な贈り物だってゴミにしかならないって知ってたのに……。
謝り倒すわたしを魔王さまはすぐに許してくれた。
薬の追加を頼むくらい胃が痛んでいたのにもかかわらず、だ。
申し訳ないので、胃にやさしい具材をいれたいつもより柔らかく煮たリゾットを作らせてもらった。おいしいと食べてくれた。魔王さまのやさしさに涙が出た。
今回の失敗を生かして、もう二度とサプライズをするのは止めようと決めた。
国民の休日として全員参加の堂々としたパーティーにしようと思う。
アルバンさんに相談して、慣れないし、むずかしかったけれど、魔王さまの誕生日を国民の休日とする草案を提出しておいた。無事に通りますように。
わたし以上に考えなしだったのがゼーノだった。
自己嫌悪に陥っていたわたしは、これこれこういう理由で魔王さまの健康を害してしまったとゼーノにぐちをこぼしたら、喜び勇んで魔王さまの寝首をかきに行きやがりました。
「弱ってるだと? ヒャッホーーーウ!」
じゃないよ。わたしの話を聞いてどうしてそんなことになるのかさっぱりわからない。
もちろん返り討ちにあっていた。言わんこっちゃない。
バルタザールさんに勝てないのに魔王さまに勝てるわけないでしょ。でも中庭で襲撃したことは褒めようと思う。おかげで物損はゼロだったからね。
でもお茶の時間をジャマしたのは許さない。三日間おやつ抜きの刑に処した。
ふつうなら反逆罪で首が飛ぶから。物理的に。心の広い魔王さまに感謝してほしい。
って、感謝しないんだろーなー。もー。バルタザールさんにボッコボコにされてしまえ。死ななければ治してくれるよ。たぶん。
魔王さまへのプレゼント作りを経て、刺しゅうのおもしろさに目覚めたらしいエルフィーは手芸全般のおもしろさにも目覚めたらしい。
今では習い事の半分が手芸になった。刺しゅうや縫い物、編み物を喜々としてやっている。子どもと共通との趣味があるっていいよね。
でも将来女の子になるなら今のままでもいいけど、男の子になるなら剣術とかも習ったほうがいいのかな。
剣術。剣術かあ。
魔王軍はあるけど、肉弾戦で戦うか魔術を使って戦うかで剣を使う人っていないんだよね。というより、武器を使う人が少ないそうだ。
うーん。それなら剣術にこだわらなくても武器を扱えるようになればいいのかな。 それとも魔術が使えるからそれでいいのかな?
魔王さまも剣を使ったところなんか見たことないものね。儀式用のならあるらしいけど。
戦争があるわけじゃないんだからムリに習わなくたっていっか。
剣舞を舞うエルフィーは見てみたいけど。見たことはないけどね、剣舞。
貴族がいる騎士団ではそういうものも習うらしい。物語の受け売りだから実際のところはわからないけれど。
物語といえば月食みの届け物の最新刊はもう出たころかなあ。
けっこう楽しみにしてたんだよね。オルフェオが持ってきてくれるのをヴィーカと読んで感想言い合ったりさ。夜更かしして、次の日寝坊しちゃったりしたっけ。
ちょっと懐かしいかも。もう魔王さまに嫁いで七か月だものね。今月は里帰りするからよけいにそう思うのかな。
さあ、気合を入れて準備しないと!
今回はばしりんが使えるから一か月もかけずに行けるし、着替えも前回みたいに魔術を使って空間を繋いでもらえるから荷物も少なくてすむし、あんまり用意らしい用意はしなくてすむんだけど、お土産は悩む。
前といっしょじゃ芸がないような気がするし、でもお土産に向いてるあげられるものは限られてるんだよね。食べ物を贈りたいんだけど痛んだらやだし。
ばしりんのおかげですごく時間短縮ができてもやっぱり食中毒は怖い。
材料を持っていって向こうで作るのが一番だね。そうすると空間が繋がるかばんを着替え用と食材用にわけたほうがよさそう。ちゃんと相談しておかなくちゃ。
クズ魔鉱石を渡してアクセサリー…は加工技術が人界に広まってないからむずかしいか。やっぱりこっちで加工して持っていかないと。
ブローチくらいならオルフェオも気を悪くしないかな? もともとそんなことくらいで気を悪くする人じゃないけども。そうと決まれば注文を出しておかなくちゃ。
三界合同会議が終わったばかりだしコボルト族のところなら手が空いてるかな。ああ、でも年末に向けて忙しいかも。
年末はパーティーをやる計画が立てられてるんだよね。しかも、身内だけで祝うだけじゃない、国民も参加するパーティー。
出店も出して、みんなで新年が明けるまでワイワイガヤガヤ楽しくすごすんだ。カウントダウンして、新年が明けたらやっぱり大騒ぎして。花火はないけど、魔術で似たようなものを打ち上げてもらうんだ。楽しみだなあ。
魔界の人たちってお祭り好きだからぜったい盛り上がると思うんだ。
警備がたいへんになっちゃうからわたしはお城で騒ぎを聞くだけになるかもしれないけど。
いいんだ、みんなが楽しんでくれるならそれで。ぜんぜんさみしくなんかないもんね。
大事なのはわたしが楽しむことじゃなくて成功させることだもん。
成功したら領主や族長を呼ぶ口実にもなるし、呼べたら交流を深められるし、魔王城での取り組みを間近で見てもらえるいい機会だもの。
出店はどんなのがいいかな。食べ歩けるものがいいよね、やっぱり。
焼き肉ならお手軽だし、味付けとか肉の種類を変えれば三種類くらい出せるかな? バルタザールさんか料理番の人に氷を出してもらって冷たいデザートとか。
でもシュングレーニィは暑いわけじゃないからあったかい煮込み料理のほうがいいかな? 常秋なのはすごしやすくて助かるけど、こういう時は困るんだなあ。
秋……。秋に食べたいものかあ。
焼き芋とか蒸かしイモとかおいしいよね。だったら芋をつかった料理かなあ。栗とかきのこもおいしいけど。
お菓子も用意できたらぜったいうけるよね。ハイダさんに新作依頼を出しておこう。
……そういえばハイダさんの監視役ってまだ決まらないのかしら。イサウラさまから催促のお手紙がきてるって聞いたけど……。だいじょぶかなあ……。
なんだかホルガーさんが日に日に疲労していってるような気が……。
このまま見つからなかったからお断りするしかないよねぇ……。先方さんにもご迷惑をかけるわけにもいかないし。ハイダさんにもイサウラさまにも申し訳ないけどあきらめてもらおう。
日用品をトランクに詰めてしまう。
着るものは魔王さまとアルバンさんとメイドさんたちのチェックがないと決められないので後回しだ。
わたし一人が決めるとシンプルすぎるし、数も少なすぎるし、ということで一人で決めるのは禁止されてしまっているのだ。
前回は他の貴族と対面しなくちゃいけなかったから着飾らなきゃいけない、ってわかったし反省もしたけど、今回は里帰りだし、そこまでこだわらなくても………ダメなんだろうなあ……。
でもせっかくみんなが選んでくれるんだし、ありがたく着させてもらおう。
あ、お土産布だったらお母さまに喜んでもらえそう。布も申請出しとこ。
さて、だしたいできたし、エルフィーの荷造りにおじゃましに行こうっと。
もちろんほんとにじゃまするわけじゃないよ? 家族にはいっとうきれいなエルフィーを見てもらいたいからね!
かわいい服をたーくさん持っていかなきゃならないんです。あんまり荷物を多くしたくないみたいだけど、逃がさないよ! ふっふっふー、道連れだー!
今回の里帰りはエルフィーの紹介も兼ねてるからちょっぴり豪華になってもしかたないよね!
魔王さまの赤を使ったリボンに、カチヤさんが編んでくれたレースの肩掛けに、あとは何を持ってこうかな。
ウキウキでエルフィーの部屋に向かうわたしだったけれど、付き添いのメイドさんい呼び止められた。
「リオネッサ様、あのう………」
見れば、焦った様子の執事さん(見習い)に何事か聞いたようだった。
「どうかしたんですか?」
「それが……そのう」
メイドさんが困ったようすで執事さんと顔を見合わせた。
「リオネッサ様に………お手紙が、届きまして」
すっと手紙が差し出される。わたしはハテナを浮かべながらそれを受け取った。
手紙は実家からよく届くので今更驚くものでも、焦る必要もないと思うのだけれど。
手紙は案の定、実家からだった。
差出人の名前はルドヴィカ・ピヴァーノと書かれている。
ろう下で読むのもなんだから少しだけ早歩きしてエルフィーの部屋で読ませてもらうことにした。
「エルフィー、ちょっと失礼しますね」
「ママ」
エルフィーもやっぱり荷造りの最中だった。荷物を詰めてるトランクは細工師に頼んでわたしのトランクとよく似た作りになっている。
ここに来た目的は荷造りの手伝いなのだけれど、手紙のこともあるし、あまり手を出しすぎてもよくないからエルフィーに断って手紙を読んでしまうことにした。
さっきからずーっと執事さんたちがソワソワしてるから中身が気になっちゃってしかたないんだよね。
エルフィーも気になるらしく、荷造りを中断してのぞきにきた。けっきょくジャマしちゃってごめん……。
「ママの、妹からの手紙?」
「そうだよ。エルフィーにとっては叔母さんだね。
まあ、十代でおばさんはかわいそうだし、ヴィーカさんって呼んであげて」
「うん」
「さて、今日はどんな手紙かなー」
親愛なるお姉ちゃんへ。
元気ですか? 私たちは元気です。
王都に行ったのならうちにも帰りに寄ってくれればよかったのに。
もー、気が利かないんだから!
魔界のお土産も嬉しかったけど、王都のお土産だって欲しいに決まってるじゃない。
次に行ったときはぜったいに寄ってちょうだいね?
オルフェオに聞いたんだけど、きれいな布が流行し始めそうなんですって。
来年はぜったいに流行ってるだろうから、期待してるわね。
欲を言えば王都のお菓子も食べてみたいけど、もたないよね。残念。
今年のぶどうもたくさん採れたわ。
ジャムとワインにした残りはケーキにしたの。帰ってきたらたくさん食べさせてあげるわね!
残ってたらだけど。
私の料理の腕も上がったから楽しみにしてて。縫い物はぜんぜんだけど。
そのうち上手くなることを祈ることにしたわ。お姉ちゃんがいないとやりがいがないんだもの。
オルフェオはどんなのをあげても嬉しそうにしてるし。
それよりうちにつくのは馬の月なんでしょ? だったら蛇の月はまだお城にいるのよね?
私、魔王城って一回くらい見てみたいと思ってたの。
だから――
わたしはそこまで読み進めて、顔を上げた。
手紙を持ってきた執事さんも、事情を聞いていたらしいメイドさんもなんとも言えない顔をしていた。
「………いるんですよね?」
「はい、客室に………」
「……今から向かいます」
「はい………」
ぱちぱちと、手紙を読み終わったエルフィーが瞬きした。
「“だから見に行くね”……?
ママの妹……ヴィーカさんは、強いの?」
一般人が旅をするには、かなり厳しい魔界の環境を知っているため首を傾げるエルフィーに、わたしは首をふった。真横に。
「超弱いよ。体はわたしより弱いくらい」
季節の変わり目に必ずと言って寝込むくらいのヴィーカがいったいどうやって魔界を旅できたのだろう。
わたしは急ぎ足で客室に向かった。




