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魔王さまと花嫁さん  作者: 結城暁


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24/105

熱が出ました

 らちかんきんされたりしましたけど、わたしはげんきです。

 …ウソです。

 魔王さまにつれられて宿泊先に戻ったあと、熱を出して寝込んでます。

 疲労がたまりすぎたのが原因だそうで、ゆっくり休むように言われてしまった。

 じっとしているのは落ちつかないけれど、熱のせいでだるいので言われたとおりベッドの住人になっている。

 せめて読書くらいできればよかったんだけど、体を起こすとぐらぐらふらついてしまってそれも難しい。

 わたし以外は誰も寝込んだりしていないのに。つくづく周りと比べて体力のなさすぎるわたしである。

 そもそも人種からして違うので、しかたないと言えばしかたのないことなのだけれど、実家ではほとんど寝込んだことがないので、情けなさが勝ってしまう。

 わたしも魔王さまやバルタザールさんのように何日徹夜しても平気なくらい丈夫な体になりたいです、と言ったらアルバンさんには静かに首をふられ、メイドの皆さんには苦笑いをされてしまった。

 魔王さまには人種の違いを学術的に説かれ、エルフィ―には頭をなでられた。ホルガーさんたちもわかりやすく話をそらしていた。

 そりゃ、わたしだって人種の違いくらいわかっているけれど(うらや)ましいものは羨ましい。

 ちらりとゼーノくらいの体力があればなあ、と思ってしまったけれど、あれは人界人をやめちゃってるから、と脳内で朗らかにおばさまが笑っていたのでうらやましがるのは自主的にやめておいた。六分の一は魔界人の、半分は天界人の血が入っているゼーノが参考になるわけなかった。

 暇なのでこんな益体(やくたい)もないことを考えてしまうのだけれど、ちょっと前までは入れ代わり立ち代わりみなさんが様子を見に来てくれていたので考える暇なんかなかった。

 あんまりたくさんの人が来るのでホルガーさんが入室制限をかけたくらいだ。

 執事長のアルバンさんがいない間はホルガーさんがまとめ役を任されているので張り切っているようだった。

 まあ、熱でいつも以上にぼんやりしているわたしでは話相手にもなれないので、みなさんの手を休めることにならなくてちょうどよかった。

 熱を出すなんて何年ぶりだろう。最後に寝込んだのはいつだっけ。たしか十才の冬に寝込んだのが最後だったはずだ。

 魔界に嫁入りしてからしょっちゅうケガをしているけれど、バルタザールさん印の薬とかでたちどころに治ってしまうので寝込む機会はなかった。

 魔王さまにいつも働きづめなのだから体調が悪いときくらいはしっかり休むように言われたことだし。なにもせずに寝るとしよう。…落ちつかないけど。

 目蓋をおろせば睡魔はすぐにやってきた。


***


「こんにちは。お初にお目にかかります、お嬢さん」


 そう言ってヤギ頭をした魔界人はたいそう丁寧に腰を折った。

 魔界人の血が入ったり特徴を持った人界人の珍しくない地域とはいえ、完全な魔界人らしい魔界人を見るのは久しぶりだった。

 ゼーノのおじいさんの知り合いがときどき訪ねて来るから生粋の魔界人は見慣れている。

 ただ、今わたしの目の前にいるヤギ顔魔界人は一見しただけで上等だとわかる服にその身を包んでいた。

 それだけでゼーノのおじいさんの知り合いでないとわかる。いや、ほんとは知り合いなのかもしれないけれども。

 失礼ながらゼーノのおじいさんも、おじさんも、ゼーノもあまり上流階級とは縁がないのだ。

 実際、今まで見てきたおじいさんの知り合いはベストだけとかズボンだけとか、人界人から見れば裸じゃないの? と首を傾げてしまうような上下どちらも身に着けてないような人たちばかりだった。

 しかし、魔界人が訪ねてくるならゼーノの家であってわたしの家にはなんの用もないはずだ。

 わたしが訳もわからず固まったままでいると、ヤギ顔魔界人の目がぱちぱちとまたたいた。


「リオネッサ様ですよね?」

「はい。そうですけど……。なにかご用ですか?」


 収穫したばかりのじゃがいもが入ったかごを置き、今さらながらスカートのすそをぱぱっと払う。案の定汚れは落ちなかったけれど、お客さまの前なので。

 今日はお客様が来るなんて聞いてなかったんだけどなあ。


(わたくし)、魔王様付き筆頭執事のアルバン・アルパインと申します」

「はあ……。わたしはリオネッサ・ピヴァーノです」


 え? 魔王って言いました?

 理解ができずに首を傾げる。

 たしかにここは魔界との界境に近いけれど、魔王が来るようなところじゃないはずだ。

 でもたしかに魔王って言った。なんで魔王? いったいぜんたいわたしになんの用が? まったくわからない。

 困惑しきったわたしにおそらくは笑顔だと思われるアルパインと名乗った魔界人は穏やかな声で告げた。


「今日はリオネッサ様にお見合いを申し込みに参りました」


 わたしは驚きすぎて声も出ない。

 お見合いって、お見合い? 結婚するためにするアレ?

 アルパインさんの言葉を噛み砕いて理解するにつれ、わたしの血の気は速やかに引いていった。


「ああ、落ち着いてください。何も取って食おうと言う訳ではありませんし、断って頂いても結構ですから。ね? まずは深呼吸をしましょう?」

 言われて、呼吸が止まっていたことに気づく。慌てて呼吸をくり返した。慌てすぎて(むせ)た。

 頭がくらくらしていっそ気を失ってしまいたかったが、そういう訳にもいかない。


「お見合いはお断りさせてください! ヴィーカはまだ十二ですし、婚約の話も出てるんですうぅぅ!」

「落ち着いてください」


 私と違って深窓の令嬢という言葉が似合う妹のルドヴィカは昔からピヴァーノ家と付き合いがある商人の次男坊といい雰囲気になってたりする。……いい雰囲気というか、オルフェオが猛アタックしてるだけだけど。

 オルフェオはわたしよりも年上で、年の差婚になるけど本人もまんざらじゃなさそうだし、オルフェオはヴィーカにベタ惚れだしで今から結婚式が楽しみねってお母さまと言い合ってたというのに。いや、まだ婚約もしてないんだけど。

 ともかく、それなのに魔王に見初められちゃうだなんて! そりゃヴィーカはめちゃくちゃかわいいけど!


「いえ。落ち着いてください、リオネッサ様。

 お見合いをお願いしたいのは妹君ではなくてですね」

「じゃあお母さまですか?!」


 たしかにお父さまにはもったいないくらいの美女ですけど!!


「違います。違いますから。お願いです、落ち着いてください」


 おろおろするアルパインさんを見て魔界人も慌てることがあるんだなあと、わたしは場違いな感想を抱いていた。おかげで涙がひこんだ。


「あ、はい。すみません。あまりのことにうろたえてしまって……。

 でも、ヴィーカでもお母さまでもないなら誰に……はっ。もしかしてお父さま」

「違います」


 きっぱりはっきり遮られた。

 まあお父さまじゃないだろうなとは思っていた。いちおう確認しただけだ。

 でも、じゃあ誰なんだろう。

 わたしと関係がある人で、お見合いするような人っていえば……ゼーノとか?

 ………ゼーノを説得してくれって話だったら断ろう。全力で。


「……先程も言いましたが、リオネッサ様にお見合いを申し込みに参りました」

「はい。誰にですか?」

「ですからリオネッサ様に」

「……わたしの許可がいるような人はヴィーカくらいのもだと思うんですけど……。でもヴィーカじゃないんですよね?」


 アルパインさんは絶望しきったような感じで肩を落とした。


「私が仕える魔王様とリオネッサ様にお見合いをして欲しくてやってきました」

「へえー。魔王さまとわたしがお見合いですいかー」


 わたしは、しゅんかん、きぜつした。


「リオネッサ様ー!?」


 どうやら半分だけ気をやってしまったらしいわたしの耳に慌てふためいたアルパインさんの声が届く。

 肩を掴まれてガクガク揺さぶられているのでだんだん気持ち悪くなってきたかもしれない。


「リオネッサ様! しっかりしてください!」

「だ、だだ、だいじょおぶっなんで、とめてくくだひゃいぃぃぃ」

「あ。すみません。取り乱しました」


 ぐわんぐわんと星が回ってる気がする。


「だ、大丈夫ですか……?」

「な、なんとか……。はい……、だいじょぶです……」

「失礼しました。人界人を相手にした事など経験がありませんので……」

「ひゃ、ひゃい……」


 へたりこむ形になったわたしからアルパインさんは距離を取った。両手を上げて、なんだか降参、といった感じだ。


「ほ、本当に大丈夫ですか? お顔の色が優れませんが……」

「だいじょぶ、です。ちょっとくらくらしますけど……」


 それよりも、わたしを介抱したせいで汚れてしまったアルパインさんの手袋や服のほうが気になる。洗濯で落ちるかな……。


「あの、それで……、ま、ままま、魔王さまとわたしが、お、おおおお見合いですか?」

「その通りですね。お見合いです。

 魔王様が是非にと仰って」

「あああ、あのっ、たいへん申し訳ないんですけど、お断りさせていただくことは可能でしょうか?!」


 よく言ったわたしー!


「可能ですね」

「それなら!!!」

「そうなりますと魔王様のお見合い不成立記録がまた更新される事になりますね」

「……ふへ?」


 ヤレヤレといったふうに額へ手をあてたアルパインさんが頭をふった。


「魔王様が即位なさる前から魔王さに相応しい結婚相手を探す為、数多のお見合いをセッティングして参りましたが、見合い話を持っていくだけで断られ、よしんば話を受けていただけてもお見合いの席で皆様漏れなく悲鳴を上げて逃げ出すかその場で泡を吹いて気絶するといった有様でして。

 魔界で探すのも限界かと思っていた折に魔王様から貴女を見合い相手として指定されまして」

「は、はあ……。

 あの、今まで何回くらいお見合いをなさってきたんですか?」

「そうですね……」


 ひーふーみーとアルパインさんが指を折っていく。

 十本全部を折ったあと、また伸ばしていく。全部の指を伸ばしたあとにまた折っていった。


「やっぱりいいです。聞いてすみませんでした」

「いえいえ、謝らなくても結構ですよ。ざっと数えただけでもお見合いまでいったのは三百を超えていましたよ。あっはっは」

「それ、笑いごとですか……?」

「………あまり笑えませんね………………」

「デ、デスヨネー……」


 お見合いまでいただけでも三百以上、ということはつまり、話を断られた回数はそれ以上、ということではないだろうか。

 わたしだったら心がぽっきり折れているに違いない。な、なんて強いひとなんだ……!


「最近ではもう見合いはいいとか、一生独身で過ごすとか言い出すようになってしまいまして……。まだお若いのに……」


 う、うわあ……。そりゃ、そうだよね。誰だってそうなるよ……。


「まだたったの百八十五歳ですよ? 諦めるには早いと思いませんか?」

「そ、そうですね……?」


 ゼーノのおじいさんも三百才を越しているけれど見た目は三十代くらいにしか見えないので、きっと魔王も長寿な種族なんだろう。


「魔王様は今回のお見合いを最後にすると言い出す始末で……」

「え゛……。あ、あの」

「お見合いする前に断られてしまったら……。いったいどれほど悲しまれるか…。

 ああ、おいたわしや魔王様……」


 よよよ、とアルパインさんが目尻をハンカチで抑えた。

 うあー。これ完璧にウソ泣きだあー。


「今もお話が断られるかもしれないと考えて胃を痛めておいでになるやも………ちらっ」

「うっ」

「これでリオネッサ様に断られてしまったら一生独身を貫かれてしまうかも………ちらっ」

「ううう……」

「そうなれば魔王様の血を継ぐ方がいなくなってしまいますなあ~。………ちらっ」

「うううっ……!」


 ひどい罪悪感が……。

 いやでもわたしのせいじゃないし……。せいじゃないよね?!

 わ、わたし悪くない! わ、わるく……ない……。


「もしかしたらショックのあまり寝込んでしまわれるかもしれません……。そうなったら魔界はどうなってしまうのやら……。

 せめて会うだけでもしていただけたら……ちらっ」

「う、うう……。あ……会うだけ……でいいんすか……?」

「ええ! もちろん会うだけで構いませんよ!」


 あっさりウソ泣きとハンカチを引っ込めたアルパインさんがすぐさま笑顔になる。

 ……あれ? でも会った人たちって逃げたり気絶したりしてるんだよね? それって普通に考えるとよっぽど顔が怖いってことじゃ……。


「会って頂ければ間違いなく魔王様もお喜びになります!

 会って頂いたついでに慰めていただければ!」

「えっ」

「尚且つ次のお見合いをする気力も充填していただければ!」

「えっ。あ、あの」

「いやあよかった。はるばる人界までやって来た甲斐がありました! ありがとうございますリオネッサ様!」


 両手を取られて激しく上下された。そして一方的に封筒を握らされる。


「それと魔王様からお預かりした手紙と、詳しい日時はこちらに書いてありますので」


 爽やかさと(したた)かさを合わせた春一番のような勢いで微笑まれた。ま、まぶしい。


「馬車も宿泊先もこちらで用意させていただきましたので、着替えだけお忘れにならないでくださいね」

「へ?! ちょっと待ってください! 泊まりってことですか?!」

「ええ。そうですよ。魔王様は人界への行き来を制限されていますから。

 許可を得るとなれば人界の王族まで話を通さねばなりません。そうなると話が大きくなりすぎるので、リオネッサ様にご迷惑をかけてしまうかと」

「そ、そうですね。でも、魔界に行くとか聞いてないんですけど」


 アルパインさんはニコッと笑った。顔は草食獣のヤギなのになぜだかとっても肉食っぽい。


「幸い、リオネッサ様が魔界に来るだけなら込み入った手続きも必要ありませんし来ていただけますよね?」


 答えははいかわかりましたか承りましたしか聞きませんよって顔してる!

 これってもしや一大事? はやまったかも。断ってもいいて言ってたし、今からでもお断りさせてもらえないかな…?


「ちなみにここで断られてしまうと人界の王族に渡界申請をしなければならなくなりますが、その際渡界理由を訪ねられれば答えざるを得ません。そうするとピヴァーノ家へ王名が下される可能性が高い、という事は言っておきますね」


 それはそーですよねー、そうなりますよねー。という感想しか浮かばなかった。断ってもいいと言っていたが、最初から断らせる気などさらさらなかったらしい。

 考えてみれば、人界でも下位に属するエルトシカ国の田舎の下っ端貴族など魔王に求められているとエルトシカ王族に知れたらとっとと言ってご機嫌を取ってこいと放り出されない。それで魔王との繋がりができれば万々歳(ばんばんざい)だろう。

 ……想像だけで腹立ってきた。

 それをわかっているだろうアルパインさん――もしくは魔王――はそれでも王命を使わずお願いという形をとってわたしを訪ねてきたのか。

 例え、選択がひとつしか用意されていなくても、それが彼らのやさしさなのだろう。たぶん。こっちの王族に知られたらそれこそ結婚まで強制されるのは目に見えている。さすがにそれは嫌だ。

 うん、そうだよね。会うだけで結婚をしなくてはならないということでないんだし。

 わたしはそこまで考えて大きく息を吐いた。


「……わかりました。謹んでお受けします」

「ありがとうございます!」


 とたん、ヤギ顔執事は雪雲の間から降り注ぐ陽の光のような笑顔を浮かべた。よほど魔王のことを心配していたのだろう。

 わたしも心配です。今後の自分が。ものすごく。


「会うだけですからね? 

 お見合いなら世間話もするでしょうけど、なぐさめるとか、立ち直ってもらうとかむりですからね!?」

「もちろん弁えておりますよ。

 それでもリオネッサ様は魔王様が望んだ唯一のお方ですからね。勝手な事とはわかっておりますが、期待してしまうのは許してください」

「はあ。あんまり期待しすぎるとのちのちダメージが大きくなると思いますけど……」


 わたしがそう言うとアルパインさんは少しだけ首をかしげてそうですね、と目を細めた。見ようによっては悲しそう、ともとれる表情だった。

 そうして、ヤギ顔執事のアルパインさんはそうして帰っていった。

 翌日から魔王さま名義で様々なものが届いていろいろ困ったけれど、ドレスは素直に嬉しかった。なにせ、うちにあるドレスといえばお母さまが若いころに着ていたものしかなかったのだ。

 お母さまと違って小柄なわたしが着るには手直しに手間がかかりすぎる。それより魔界の常識を学んで少しでも生存率を上げたかった。

 そんなこんなで、わたしは一月後の準備をするべく慌ただしく過ごしたのだった。

 アルパインさんに渡された手紙は今でも大事に取ってある。

 封筒はわたしでもわかるくらい、とても上等なもので、すべすべしていた。たぶん、人界にはない素材で作られていたのだと思う。

 魔王さまからの手紙には見たことのないくらいきれいな字で、日付と旅行日程と、それから謝罪が書き記されていた。

 突然の訪問と要求に対しての謝罪、本来なら自分が直接訪ねるべきだったのにできなかったことへの謝罪。

 アルパインさんが粗相していたら申し訳ないとか、嫌だったら断ってくれて構わないとか、内容の半分以上が謝罪だったのではなかろうか。

 魔王さまはずい分と謙虚な方なんだなあと思ったものだ。

 最後に、もしも会いに来てくれるならとても嬉しい、と結ばれ、そのあとには人界風に訳した魔王様の名前が記されていた。

 書かれていたその名前は――


***


「フリードリヒさま」


 背中を向けていた魔王さまの両肩がおもいきり跳ねた。ちょっとおもしろいくらいに。

 がたごと聞こえたのは燭台を落とした音だろうか。


「おかえりなさい。おつかれさまでした」

「た、ただいま、リオネッサ。起こしてしまったか。

 ……気分はどうかね?」

「だいじょうぶです。ねつもさがったみたいですし」


 魔王さまの手のひらが額に触れた。毛皮はふかふかと、肉球はぷにぷにとして気持ちがいい。


「うむ。熱は下がったようだな。ではお腹は減っているだろうか。もしよければ――」


 ぐううううう。

 魔王さまの言葉が終わる前に返事をしてくれやがった我が腹が憎い。いっきに目が覚めた。

 恥ずかしさで顔を真っ赤にさせているだろうわたしの頭を撫でながら魔王さまは顔を背け、肩を小刻みに震わせる。

 もちろん、今度は笑いをこらえてだ。


「食欲があるのは良い事だ。うむ」

「笑ってくださってかまわないんですよ」


 頬をふくらませ、あからさまにすねて見せたわたしに魔王さまはおろおろとしっぽを行き来させた。

 そんな魔王さまがとってもかわいく見えてしまって、わたしは吹き出す。

 初めてお会いしたときはあんなに怖かったのに、慣れって偉大だなあ。あの時断る道を(ふさ)いでくれたアルバンさんには感謝しなくては。


「怒ってなんかいませんよ、魔王さま。こういうときはちょっと頭でも撫でればわたしの機嫌なんて、すぐ直っちゃうんですよ?」

「む、むう……」


 難しい顔をして、こわごわ頭を撫でてくれる魔王さまにまた笑ってしまった。


「ほら、もう直りました。

 ぜひ晩餐をごいっしょさせてください、魔王さま」


 ぱあああ、と花が舞い踊るような空気をかもし出す魔王さまと手をつなぐと、やっぱりとってもあたたかだった。

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