第9話 村長アケルの証言
ユトリエと共に、ティロット村の村長宅へと俺はやって来た。部屋に入り、ユトリエの口八丁手八丁にて、すんなりと村長の所へと通される。
「どうも初めまして、私、このティロット村で村長をやらせてもらっていますアケルと申します。この度は王都の騎士団の方が来られると聞きまして、大変驚いております」
出迎えてくれたのは、アケルと名乗る20代後半の男性だった。若々しい、好青年といった感じの彼は、ペコリと頭を下げてくれた。
部屋の中は泥棒に荒らされたのかと言わんばかりに、物凄い書類が乱雑に置かれており、相当多忙な人物である事が分かる。アケル村長は見ていた書類を裏返すと、私達に視線を合わしてくれる。
「いやぁ~、ボクもびっくりしたっすよ。村長と言うには、ずいぶんとお若い方だな~って」
「先代の村長は、私の祖父でした。しかし4年前に突然の病死で、父も母も居ないため、私が継いだという訳です。当時は私が祖父を殺したとか色々と言われて、ばたばたしてましたよ。勿論、ただの流行り病でしたが」
アケル村長が言うには、村長になって半年くらいは、ずーっと先代村長――つまり、彼の祖父を病死させたと疑われたらしく、村人からの反発も大きかったらしい。それから納得してもらうための証拠を集め、今では村長として、ある程度村人に慕われているらしい。
「先代の村長である祖父が急死したため、引継ぎとかを教えて貰えてなくて、かなり苦労してますよ。最近になって出て来た書類とかがあったりして」
「ほぉ~、それって例えばどんな書類っすか?」
「土地の権利書だとか、税の申告書の手本だとか、村長になってすぐに欲しかった書類ばかりですね。まぁ、色々と大変だったと思っていただけると幸いです」
そんな彼だが、元の頭の出来が良かったからなのか、村長の仕事をしっかりと、なんなら先代以上にやっているのだとか。
「何やら王都で、事件があったと聞きましたが、まさかそれで我が村に?」
「えぇ、まぁ……」
「ボクとガッキー隊長は、この村が、なんなら村長自身が守護龍様を怒らせちゃったりしちゃったりしたのかなぁ~とか考えているっすよ? だって、一番怪しいっすし」
ジトーっと、アケル村長を睨みつけるユトリエ。それに対し、疑われているアケル村長は、「濡れ衣ですね。それはないですよ」とそう告げる。
「もし仮に、守護龍様のお怒りが来たとすれば、それは10年前ですから」
「10年前……?」
「なにかありましたっけ?」という顔でこちらを見るユトリエに、俺は、予め調べておいた大風車の破壊計画について告げる。
今から10年ほど前、当時の村長――アケル村長のお祖父さんである先代村長は、村長の家の横にあるあの大風車を破壊して、新たに勇者イートバニラの黄金象とやらを建てる予定だったらしい。当時から大風車はただ回っているだけの、古い建物だったから、それよりかは勇者イートバニラの像でも建てた方が良いんじゃないかという、そういう案だった。
そして、守護龍メサイアウト様の許可を得ようと、提出した所、神殿側からきちんとした正式文書にて、守護龍メサイアウト様からのお叱りがあった。
――この風車、壊すべからず。これは我が相棒が、勇者となった証である。
「勇者となった証?」
「俺も詳しくは知らないが、そういう話があったらしい。まぁ、守護龍様のお叱りがあった以上、白紙になったらしいけど」
だからこそ、アケル村長としては、叱られるべき事をしたのは先代であり、自分は何もしていないと言っているのだった。
「守護龍様からどういう意味かは聞いていない。だが、そういうお叱りがあった以上、先代は渋々諦めたらしい。だから今でも、あの大風車は村のシンボルとして残り続けているのだよ」
「まぁ、守護龍様から"壊すなぁ~!"と言われたら、従うしかないっすよね」
「そうだな。それ以来、我が村は勇者イートバニラの生まれ育った故郷であり、あの風車は勇者イートバニラが勇者となった証として、未来永劫残し続ける事を決めているのだよ」
ふむ、だとすると余計分からなくなって来たぞ?
守護龍メサイアウト様からしたら、このティロット村は勇者イートバニラの故郷だと認めていて、なおかつあの大風車は勇者となった証として保存するようにというお触れまで出している。わざわざ壊すなと言うくらいだ、余程強い思い入れがあるのだろう。
それなのに、今になって急に、今回は神殿を通してではなく、直接勇者の故郷を焼き滅ぼすと言っている。どういう心変わりがあったのか、さっぱりと分からなくなってきたぞ?
「そろそろ良いかな? 今度、王都で開かれる収穫祭、そこの品評会に出す、新種のさつまいもの試食会があるんです。もしよろしければ、そちらの方にも参加しますか?」
「どうするっすか、隊長?」
うーん、これ以上ここに居ても、新しい情報は入って来ない気がする。
とりあえず、快く対応してくださったアケル村長に騎士団員として出来る限りのお礼の言葉を言った後、俺達は村長宅を後にするのであった。




