第6話 デキる後輩、ユトリエちゃんの推理 ~解答編~
――だんだん、話が見えて来た気がする。
「つまり、魔王討伐して、"勇者"が逃げ出してから5年後、捜索は他ならぬ守護龍メサイアウト様の手によって打ち切りに。そして現在、その守護龍様は"勇者"さんの故郷を焼き滅ぼそうと宣言している、という事っすよね?」
「あぁ、4か月ほど前は、そんな気配はまるでなかったというのに」
ということは、この4か月の間に、守護龍メサイアウト様がそう決心するほどの、何か大きな出来事があった。
しかしながら、その出来事がなんなのかが、まるで分からない。
なにせ、今年は魔王討伐を成し遂げて、平和になってから200年という記念すべき年。小さな都市から、大きな都市まで、出来事というモノは数多く行われており、たった4か月調べるとなっても、100件以上のイベントが行われている。
また、『4か月ほど前はそんな気配はなかった』というだけで、その時は知らなかったが、実はそれより前にあった出来事から、今回の事態を決意したとなると、さらにその数は膨大となる。
「"勇者"さんの故郷、ティロット村周辺の出来事に絞ってはどうっすか? あそこが気に食わないから、今回の事態を引き起こそうとしてると考えて!」
「それでも20件近くあるぞ。さらに驚くなかれ、ティロット村の周囲には4つの村があるって、騎士団長様も言ってただろう? あれらも含めれば、さらに件数は3倍以上だ」
とてもじゃないが、どれが守護龍メサイアウト様を刺激したのかを特定するのは、ほぼ不可能といっても良い。
これは、なにか狙いを付けて絞り込まないと、終わらないのではないだろうか?
「はいはい、はーいっ! ここはガッキーさんの忠実なる部下にして、デキる後輩であるボクにお任せっす!」
どう狙いを絞り込もうかと考えていると、いきなりユトリエがそんな風に自己アピールしてきた。というか、普通にキラキラした瞳でこちらを見つめて来るの、うざいので止めて欲しい。
「……それでデキる後輩とやらは、何をするんだ?」
「ふふふっ! それは勿論、このボクが、この事件の真相を解き明かしちゃうんですよね! つまりは、探偵パート、という奴っすよ!」
どこから取り出したのか分からない、謎の帽子を深々と被ると、ごほんっと咳込んで、ユトリエは自分の推理を語り始める。
「ずばりずばりっ! この事件の真相は、"勇者"自らが行った故郷に対する復讐、という線っす!」
――え? "勇者"自らが行った?
「おいおい、それはないでしょうが。なにせ、"勇者"は普通の人間。200年も経っていたら、もうこの世には残っていないでしょうよ。どれだけ長生きなんですか」
「ふふんっ! デキる後輩の話は、最後まできちんと聞く! それがデキる上司の在り方だと思うっすよ?」
キランっと、なんか歯を光り輝かせて言うのやめい。
「"勇者"が人間である事は事実、そうなのでしょう。魔王討伐から200年、生きているとは思えない」
「ほら、思えないって――」
「しかぁし! もし仮に、『守護龍メサイアウト様が、"勇者"の意識を取り込んだ』としたら、どうっすか?」
ほう、『"勇者"の意識を取り込んだ』と来たか。
「良いっすか? まず第一に、"勇者"様が第三王女との結婚式の前に逃げ出したのが、彼女との結婚が嫌になったからとかじゃなくて、魔王を討伐した際に、なにかしらの呪いをかけられたとしたら。その呪いを、皆に移さないように、1人で死のうとしたとしたらどうでしょう?」
確か伝承によれば、魔王を討伐したのは、"勇者"たち4人である。そして、魔王に一番大きなダメージを与え、魔王討伐の最後の一撃を決めたのが、"勇者"だとされている。
平和な時代である私達が、魔王をどういう者なのかを知るのは伝承からしかないが、伝承からでも魔王のとんでもなさは伝わって来る。
『巨大な大陸を、素手で2つに割った』とか、『平地に山脈を生み出して、配下の魔物として生み出した』とか、『空に浮かぶ太陽は元々3つあって、そのうちの2つを魔王が破壊した』とか。
まるで嘘みたいな出来事が、歴史書に事実のように記されているのである。そんな魔王であれば、自分を一番追い詰めた相手である"勇者"に、何かしらの呪いをかけていても不思議ではないのかもしれない。
「そう! そして、1人寂しく死のうとした"勇者"。しかし、"勇者"の相棒であった火炎龍は、そんな"勇者"を見つけだし、彼の魂ごとその身に喰らう事に成功する!」
「そうして、"勇者"と1つとなった。ユトリエはそう言いたいの?」
「そうっす! そうして、魔王が規格外の存在なら、守護龍様だって規格外っすよね? なにせ、王国1つを丸々守護する結界を張れる、そういう生命体がまともなはずがないっすよね?」
まぁ、一応、理屈としては通っている……ような?
「そして、ここからが本題! "勇者"の故郷を滅ぼしたいと願ったのは、守護龍メサイアウト様の中にいる"勇者"ご自身の意思! 恐らく、200年の間に、自分が救ったこの世界が、自分という"勇者"の功績を忘れてのほほんっと平和ボケしているのを見て、怒りがこみあげて来たのでしょう。こう言うのは、理屈とかではなく、積み重ねっすからね。
積もりに積もった不満が、200年のこの時に、一気に爆発して、"勇者"の故郷を見せしめに滅ぼそうとした! いわゆる、ストレス発散みたいなやつっすよ、多分。いきなり壊さないのも、すぐに壊したら面白くないとか、そういう事を考えてるんじゃないっすか?
――どうっすか? この完璧な、デキる後輩のユトリエちゃんの、マジ推理は!」
ふふんっと、ユトリエは胸を大きく張って、そう自慢げに答えるのであった。




