第5話 神殿と守護龍との付き合い方について
騎士団長ダンガイの話をザッと聞き終えた俺とユトリエの2人は、守護龍の意思を代弁するはずの神殿側に話を聞きに行く事となった。
王都で一番大きい、守護龍メサイアウト様の代弁をしている大神殿に入ると、それはもう、ばたばたしていた。そりゃあ、そうか。自分達の王国を守り、なおかつその意思を代弁してきたはずの守護龍メサイアウトが、自分達を通してではなく、直接、王国側を脅迫しに行ったのだから。
神殿側は必死に対応しているが、文句を言う者達は数多くいた。
文句を言う者達は、主に2つの勢力に分かれていた。
1つは、神殿側として民衆などからの対応に追われている人達。守護龍の声を毎回、代弁しているのが神殿であるため、今回はなんで守護龍が直接言いに来たのか。止める事は出来なかったのかと、めちゃくちゃ詰め寄られていた。
もう1つは、同じ神殿側から詰め寄られている人達。神殿も決して一枚岩などではなく、人々の治療を主に行っている者達もいれば、神殿のありがたい教えを唱える者達もいる。つまりは、守護龍メサイアウトと直接関わっていない者達にとっては、その者達の責任だと、自分達が攻められるのは違うと、守護龍と関わり合いのある部署の者達を責めていた。
守るべき民と、愛すべき同胞。
どちらからも責め立てられていて、可哀想という気持ちはあるが、同時に守護龍の意見をきちんと代弁していたら、ここまでの騒ぎにはならなかったんじゃないかとも思う。
「あっ、ガッキーさん! こっち、こっち! この人が詳しく教えてくれるんですって!」
……そして、この状況下で、どうして詳しく教えて貰う人を見つけ出せるんだろうか。うちの部下は。
「そうねぇ、おばさんも20年ここに居るけど、守護龍様が直接文句を言ったのは初めての事よぉ」
話を伺えたのは、この大神殿の自称ベテラン神官。またの名を、噂好きのおばさん神官さんだ。
20年、ここで神官としての教えと共に、人々の悩みを聞き続けて解決に導いてきたというこの人は、神殿内の事情通なんだとか。「〇〇という神官が痔に困っている」とか、「△△という神官長は、融通を聞いてもらうための賄賂を貰っている」とか、色々と教えてくれたのだが、どこまでが本当で、どこからが噂なのか、対応に困る。
「守護龍様が王国の守護者としてなったのは、今から195年前と聞いているわねぇ。それからは、守護龍様の声を聞く部署の神官が、守護龍様の言葉を聞いて、1年に数回、それをお言葉としてわたしらに教えてくれるんだわ。確か、前回は4か月ほど前にやったかねぇ。その時は、守護龍様からは『今年は作物を大きく育てる土を与えるから、村々に配るように』って、守護龍様から大量の土を貰ったかしら」
なるほど。つまり、4か月ほど前までは、何も不満はなかった――という事かな?
逆に言えば、この4か月ほどの間に、"勇者"の故郷であるティロット村を滅ぼそうと思うほどの何かがあった。そういう事か。
「ねぇねぇ、神官さん? ボクってば、とーっても疑問に思っちゃったんっすけど」
「あらあら、なんだい? この神官おばさんに、何でも聞いておくれ」
ニコニコと、ユトリエを愛らしい娘のように接する神官おばさん。
……こいつ、本当に人付き合いが上手いよな。ダンガイ騎士団長ともすんなりと面会できるように取り図ってくれたし、世渡りが上手いというか。なんというか。
「その、さっき、195年前って言ってませんでした? 守護龍様が、王国の守護者としてなったのが。そんな具体的に言えるのは、なぁぜなぁぜ?」
「確かに……100年以上前の事なのに、なんでそんな数年単位で言えるんですか?」
普通、100年以上前の出来事だったら、「およそ何十年前」だの、「十何年前くらい」とかいうと思うのだけれども、この神官のおばさんはすんなりと「195年前」と答えていた。
「あぁ、それは簡単さ。きちんと、記録に残っているから、答えられるのさ。ちょうど、今年が記念すべき、魔王討伐の200年後という事もあるけどねぇ」
「……と、言いますと?」
「おふたりは、守護龍様が"勇者"ちゃんの相棒だったという話は知ってるかい? その"勇者"ちゃんが、お姫様と結婚する前に逃げ出したって言うのは知ってるかい?」
「まぁ、有名なお話、ですよね」
魔王討伐の報酬として、王様は自分の娘を、つまりは姫様を"勇者"の婚約者として差し出した。
第三王女で王位継承権は低かったが、確実に王族の血筋を引く、選ばれし者であった。王国としては、"勇者"という強き者を自分の血族に加えたいという気持ちは良く分かる。
その前日に、第三王女と結婚する事を知った"勇者"が、突然居なくなって、大騒ぎだったとか。
ちなみに、結婚式前日に"勇者"という花婿に逃げられた第三王女の方は、同じく独り身であった戦士と結婚して、事なきを得たんだと伝わっているが。
「"勇者"ちゃんを探すため、パーティーの仲間達、王国の兵士達、それに当時は火炎龍であったメサイアウト様も、必死になって、"勇者"ちゃんを探すためにあちこちを探しまくった。1000名規模の大捜索にも関わらず、誰も"勇者"ちゃんの行方は分からずじまい。
そして――5年後。その捜索は打ち切られたんだよ。他ならぬ、守護龍メサイアウト様が「もう良い」といってねぇ~。その時に守護龍となられたから、神殿の関係者はみーんな知ってるんだよ? メサイアウト様が守護龍となられたのは、今から195年前、という事をねぇ~」




