第4話 騎士団長ダンガイという男
騎士団長ダンガイと言えば、傑物として有名である。
僅か45歳という、歴代最年少の若さで騎士団長に就任した。騎士団長とは、全ての騎士の憧れであるべき人物であり、その強さは騎士団の中でも一番でなくてはならない。無論、戦闘技術だけではなく、頭脳も。
つまりは、騎士団最強の称号こそ、騎士団長なのである。
その地位に、最年少で辿り着いたダンガイ騎士団長の所に、編纂二課という窓際部署の俺なんかは、絶対に関わるはずもないと思っていた。
「ねぇねぇ、ダンガイ騎士団長さん? 情報、ボク達にも教えてくださいよ~」
そんなダンガイ騎士団長の頬を、ユトリエが指で突きながら、情報を強請ってる! いっ、いたたまれない!
というか、なんでコイツは、騎士団長の部屋まですすい~っと入るや否や、仕事中の騎士団長のいる机に腰かけて、そんないたずらっ子みたいな事が出来るの?! 一切、躊躇とかなくて、俺、止められなかったんだけど?!
「心の広いダンガイ騎士団長さんならぁ~、部下の疑問に答えてくれるでしょう? ねっ、ダンガイ騎士団長さん?」
「…………。」
おっ、怒っていらっしゃる! 傑物として、騎士団の見本とも呼ぶべきダンガイ騎士団長の額に、ピキッとしわが張っていらっしゃる!
「すっ、すいませんっ!」
サッと、ユトリエを羽交い絞めにして止める俺。その際に、「ひゃんっ! ガッキーさんってば、だ・い・た・んっ♡」とか言っていたが、俺はツッコみませんよ!
「うちの部下が、騎士団長様のお仕事を邪魔するなんて、監督不行き届きです! 如何様にも罰を!」
「そうだ、そうだぁ! 窓際部署であるガッキーさんに、これ以上の罰を与えられるって言うのなら、与えてみてくださいっすよ!」
……俺、お前を助けたはずなのに、なんでお前は俺が罰を受ける事に賛成派なんだ?
「……構わんよ」
「はぁ……」と溜め息を吐き、ダンガイ騎士団長は書類仕事に使っていたペンを置いて、俺達に向き合う。
「どんな立場の人間であろうとも、それが騎士であれば、話を聞いて向き合う。それが私の騎士道だ」
「よっ! 騎士の鑑!」
ひゅひゅーっと、口笛を吹くユトリエ。お前は、騎士団長相手でもその態度を続けるのな。ある意味凄いよ、本当に。
「それで、何の用事だ? 今は、別件の対応で忙しいんだが?」
「その別件――つまりは、守護龍メサイアウトさんの乱心について、ボク達も聞きたいなぁ~って話っすよ! ねっ、ガッキーさん?」
「おいっ、急に話を振るなって!」
「本当か?」みたいな顔で、騎士団長さんに睨まれてるんだけど! まだ心の準備とか全然出来てないのに、なんでいきなりこっちに話を振るんだよ!
「……どうやら、そちらもその事件の調査をしたい。そういう事だな」
「はぁ……」と、再び、それも先程よりも大きな溜息を吐くダンガイ騎士団長。
「確かに、あの事件は衝撃が強すぎるからな。知りたいと思うのも無理はあるまい。
――分かった。私が伝えられる範囲なら、教えてあげようじゃないか。なんなら、捜査しても良い」
「良いんでしょうか……?」
「構わんよ。どうせ暇してるでしょう、君達」
うっ……!? そう言われると、素直に頷くしかないんだけど。
ともあれ、騎士団長は俺とユトリエに、素直にいま、守護龍メサイアウトが"勇者"の故郷を滅ぼすと言っている事件――つまりは、守護龍メサイアウトの乱心について、俺達に教えてくれたのであった。
「まず第一に、守護龍メサイアウトが言っている件。あれは本気だ。本気で、"勇者"の故郷であるティロット村を火炎で焼き滅ぼそうと言っている。いまは、神殿の人達が宥めているらしいのだが、守護龍様の気持ちに折り合いがつかないと、本気でティロット村は焼き滅ぼされるであろう」
「ふむふむっ! そのティロット村が、"勇者"様の故郷って事っすね!」
「あぁ。言っておくが、何の変哲もないただの田舎だ。少なくとも、守護龍様に滅ぼされるほどの悪事はしていない。そして、ティロット村は少し厄介な場所に、村があってな」
そう言いながら、騎士団長は俺達に地図を見せてくれる。
それはこの辺りの、大雑把な地形が分かる地図だった。東の方の山間に、『ティロット』という文字が書かれており、どうやらここが例の、滅ぼされる可能性がある"勇者"の故郷という事だろう。
「このティロット村の周囲には、4つほど、小さな村がある。ティロット村とさして変わらない村なのだが、仮に守護龍様がティロット村を焼き滅ぼすとなると、この4つの村も火災に巻き込まれる。
そして、この4つの村も被害を受けるとなると、王国の食糧事情に多大なる影響をもたらす。冬を越せない人々も出てくるだろうな、この王都でも」
なるほど、騎士団長はそこが気がかりなのか。
守護龍様がなんで今、ティロット村を焼き滅ぼそうというのかはどうでも良い。大切なのは、もしそうなった場合、近くの村がどれだけの損害を受け、そして王都の民がどうなるのかという所か。
「収穫しようにも、まだ芽すら出てないのがほとんどだ。それに、守護龍様が王国の一部を焼き滅ぼしたなんて、人々にどう説明すれば良いか分からない。
今だって、『守護龍様が、どうして御乱心されるのか!』と混乱する者達が多いくらいだ。せめて、神殿側の者達が守護龍様のお言葉を伝えてくれていれば、情報を秘密裏にする事も出来たのに」
「やれやれ」と、額に手を当てて疲れた表情を見せる騎士団長。
今もこうして「話をしろ」と無言の圧力と共にせがむ、ユトリエの対応しているのも、疲れの原因かもしれない。一緒に押し掛けた俺が言うのもなんだが、ごめんなさい……。
「あっ、それボク気になってたんです! なんで守護龍様自身が話したのかって! 神殿の怠慢じゃないっすかね、これって」
「いや、それが話を聞くところ、普段は大人しい守護龍様が、いきなり飛び出したと、神殿側はそう言っているのだ」




