第3話 王国騎士団の窓際部署(2)
「分からないのは、そんな"勇者"様の故郷を、なんで今になって守護龍様が焼き払おうとしているか、という事っすよね」
ユトリエの言葉に、俺も「それなっ」と思わず返していた。
この世界には、人間以外にも色々な種族が居る。
身体能力が高い獣人、鍛冶などモノ作りが得意なドワーフ、魔法に長けた長寿のエルフなど。現に、魔王を倒した"勇者"の仲間の1人である賢者ルリアオイは数百年は生きるエルフなんだとか。
しかしながら、"勇者"はただの人間であったはずだ。流石に200年も経っていれば、確実に、既に死んでいる事は、彼の相棒を名乗っている守護龍様はご存じのはず。
それなのに、なんで今?
「ふふっ♡」
「なんだその、意味深げな顔は」
なんで、ユトリエは俺の顔を見ながら、ニコニコ微笑んでいるんだろう。
「気持ち悪いから、止めて欲しいんだけど」
「えぇ~、ガッキーさんってば酷い事を言いますね! というか、ボクって、自分で言うのもなんですが、美人っすよ? お買い得っすよ? Jですよ?」
ほれほれぇと、歳の割に立派に育っているあれを見せつけるように、触るユトリエ。少しは、慎みというモノを身に着けて欲しいモノだが。
「ガッキーさんってば、気になっちゃってるんでしょう? なにせ、上層部もてんてこ舞いっすもの! なんで、守護龍様の意思を伝える神殿からの通達ではなく、直接、守護龍様がそんな事を言うのか、って!」
「あぁ~、確かにそういう所も変と言えば、変か」
神殿は、魔王が討伐される前は、ただ神に祈り、そして神から授かった治癒の力によって、人々を救う救護院という側面を持っていた。
魔王が討伐され、さらにはメサイアウトが守護龍としてこの王国を守ると宣言した時、真っ先に、守護龍様の言葉を伝えるという役目を担った。
それ以来、『神への祈り』、『治癒による人々の治療』、『守護龍様のお言葉を伝える』という3本柱で、神殿はこの王国に貢献し続けて来た。
『守護龍様のお言葉を伝える』役目といっても、年に数回、『今年は良い年になりましたね』だの、『暑い日が続くので頑張りましょう』といった、何のためにもならない、そういうお言葉を伝えるだけの存在ではあったのだけど。
確かに、彼らが言葉を伝えるのではなく、直接、守護龍様が伝えるというのも、変な話である。
「ほら、ガッキーさん! 気になっちゃうでしょ、気になっちゃうでしょ! でしたら、こんなカビ臭い場所での仕事なんか、ぽーいっと放り出して、ボクと一緒にこの事件調べちゃわないっすか?」
「放り出してって……仕事だぞ、一応は」
「良いんっすよ、大丈夫! そもそも編纂二課に今日中に片付けちゃわないといけない重要案件とか、回って来ないっすよ! それより、騎士なんだから身体を動かしちゃいましょう! 行くっすよ、行こうっすよ!」
「ほら、立って! 立って!」と急かすユトリエ。
……まぁ、確かに今からいつもの地味な仕事をする気分でもなくなったのは事実である。
守護龍メサイアウトの暴走、今にしてなんで起きたのかというのは、騎士とかじゃなくて、単純に俺個人としても気になる話だ。
そして、窓際部署である以上、事件が解決したとしても、俺達の所に事件の詳細が回って来る可能性は皆無。自分で動かなければ、どういう事なのかをずーっと教えて貰えないだろう。
「はぁ……仕方ないよなぁ。一緒に行くとするか」
「――っ! 隊員の心に寄りそう立派な小隊長! よっ、隊長の鑑!」
「褒めても何も出ないぞ、おい。ところで、お前はどこに行くつもりだったんだ?」
自分から事件の事を調べようとしている以上、ユトリエには目的地があったはずだ。俺としては、どこから手を付ければ良いか分からないし、ユトリエに目的地があるのならばそこに着いて行こうと思うのだが。
「ふふふっ! ここは優秀にして、可憐にして、"後輩にしたい騎士ナンバー1"でもあるユトリエちゃんにお任せくださいませ! この事件の話を聞くのに、一番良い場所を、ガッキーさんにご案内しちゃうっす!」
「着いて来てくださいっす!」と、ユトリエはそう言って、迷いなく進んで行くのであった。
――まさか、ユトリエが着れて行く場所が、まさかまさかの騎士団長の部屋なんて、その時の俺は思いもしなかったのであった。




