第15話 王国に対しての犯人の主張
「1つ付け加えさせて貰えれば、大風車に火をつけたのは、当時の村長の子供だった。意図的ではなく、魔法の制御に失敗したという、子供ながらの不運な事故だった。
まぁ、その不運な事故がたまたま大風車に燃え広がり、自分の家である村長宅まで燃えてしまったのだが」
「「「「「大司教様?!」」」」」
「ここまで突き止めているのだ。それに、あのサツマイモがなければ、守護龍――いや、あのデカトカゲを暴走させて、この王都を燃やすという事は出来ないだろう」
大司教マグマルマは、俺の顔を見ながらそう言った。
「良く気付いたな、いや良く気付けたな。どこの誰かは知らないが、その制服を見るに騎士さんだろう? 脳みそ筋肉ばかりの騎士団にも、そういう考えるヤツが居たとは驚きだ」
「生憎と、筋肉には自信がないので、脳みその方に頑張ってるんで」
「だろうね。さっきの技、上級魔法【転移魔法】だろう? 1カ所しか登録できないが、その代わりにどこからでも戻って来れる究極の移動魔法。それが使えるのなら、かなーり魔法に長けてないと無理だからな」
褒められてるとは思うが、警戒は続ける。いまもなお、この大司教様も、そして後ろに居る5人の神官達も魔力を練り上げて、魔法を放つ準備は続けているからだ。
いつ魔法を解き放つかも分からない緊張感……警戒は続けるべきだろう。
「守護龍様を、勇者サツマイモで怒らせようと考えたのはいつだ?」
「つい最近だよ、ちょうど3か月ほど前の話だ。もっとも、サツマイモが嫌いと言うのはなんとなく、それこそヤツの食事風景を一度でも見たことがある神殿の者なら、誰もが知っていた。デカトカゲは色々なモノを好き嫌いなく食べるが、唯一サツマイモだけは食べずに自分の炎で燃やしていたからな」
なるほど、実際にサツマイモ嫌いという情報は、コイツラはぜーんぶ知っていたという訳だ。
その上で『勇者サツマイモ』という情報、ティロット村に関わる記録などから、俺と同じような結論に達したという訳か。
「『勇者サツマイモ』という名前の認可を出したのは、この私だ。これでなにか行動を起こすのならそれで、何も反応がなければまた別の方法を試していたがね」
「……どうして、そこまでして守護龍様を怒らせようとする?」
そう、それが全然理解できない。
この神官たちは守護龍メサイアウト様を怒らせて、暴走させようという、一種のテロリストなのだろう。しかしながら大司教クラスが主犯となると、神様への祈りを第一に考えている彼らが、なんで守護龍様を怒らせるのかが、理解できないのだ。
「そんなの簡単な話だ。神様の威光を示すのだ」
「えっ?」
どういう事? 神様の威光――すなわち、神様がどれだけ素晴らしいかを示す。そのために、守護龍様を怒らせようというのが、彼らの犯行の動機?
「そなただって、知っておろう。勇者イートバニラが消え、誰がこの国の王となったのか?」
「それは――戦士だろう? 戦士アックスリア」
そう、確か自称ベテラン神官という、噂好きのおばさん神官と話している時にも思い出していた。
結婚式前日に"勇者"という花婿に逃げられた第三王女の方は、同じく独り身であった戦士と結婚した、と。
「そう、戦士アックスリア。ヤツが勇者イートバニラ達と共に魔王討伐しに向かった目的は、自らの技を次代へと継承するため。自分の技を広めるために、道場を作りたかったからだ。
事実、王となった戦士は道場を作り、国王と道場主、2つの役割を同時にこなしていたという。
その結果、何が起きたのか?
――戦士の力、そう武力重視のこの王国の姿だ!」
大司教マグマルマは、それこそ犯行動機だと言わんばかりに、大きな声でそう宣言する。
「人は成功体験を大切にする。その方が着実だからだ。戦士として、肉体と武器を使った武術としてなりあがった戦士アックスリアが大切にしたのは、やはりそういった武術であった事には違いない。それによって徐々に、この王国では武術が重要視された。対して、魔法など、武術に関わりのない者は蔑ろにされる傾向にある。
――その事を君も感じているんじゃないかい? そんな上級魔法を使えるのに、この俺も知らないという事は、騎士団にて冷遇されているんじゃないか?」
「うっ……」
確かに、俺が所属しているのは編纂二課という、騎士団の中でも窓際部署だ。お世辞にも、良い評価を得ているとは言えないしな。
「そのせいで、魔術を使う者は他の国に比べると、圧倒的に冷遇されている。魔術的障壁も他の国では騎士団などがしっかりと何十人、何百人単位でやっているのに、この国では守護龍メサイアウト様が一手に引き受けているからと、検討すらしてもらえない。
――魔法を、神秘を蔑ろにしているという事は、即ち神秘性の塊たる我らが神を蔑ろにしえいるのも同義ではないか?」
なるほど、それがこの大司教マグマルマたちの犯行動機、というヤツか。
守護龍様を意図的にわざと怒らせて、守護龍様が下手したら自分達王国を滅ぼす可能性を示唆する。そうして、自分達が神の威光として、守護龍様が行っていた魔術的障壁を担う。
自分達の地位向上、もとい他の国よりも神様としての威光が弱い王国の目を覚まさせるための行動って奴か。
自分達で守護龍様を怒らせて、それで自分達の必要性を訴える。
こう言うのを、『マッチポンプ』――自作自演と呼ぶのではないだろうか?
「ここに来たのも、君1人だけと言うのもおかしな話じゃないか? まさか、たった1人だけでこの私達を止められるとでも?」
「だとしたら」「舐められてますね」「わたしらの実力、思い知らせる時です」
じりじりと、大司教たちが迫る仲、俺はどうしようか考える。
実は、騎士団庁舎に今回の件を俺なりに伝えに行ったのだが、相手にされては入れなかったんだよな。編纂二課という窓際部署の俺が行っても仕方がないというか。
だから、増援が来るどころか、俺が何をしているのかすら分かっていないんじゃないだろうか。
上級魔法【転移魔法】は、勇者イートバニラたちならパーティーメンバー全員を一気に転移させるのも出来ただろうが、流石にそこまでの技量は俺にはない。
だから、部下のユトリエちゃんが来る事も無理だろう。彼女はいまティロット村に居るのだ。あそこから王都まで丸2日はかかるのだし。
一応、騎士団所属の身として、王国への愛着心から、王都が燃えるかもしれないと、この現場を止めに来たのだが……
「(流石にここまで、か)」
あと、俺が出来る事と言えばなんだろうか?
神官1人を倒す……いや、相手は治癒のエキスパート集団のような者。多少の傷を与えた所で、意味はないだろう。
だったら――
「(狙いは、あのサツマイモ!)」
あれさえなければ、コイツラの計画は破綻する。
まぁ、十中八九怒らせて俺はただでは済まないだろうが……
そんな事を考えていた時である。
「騎士団だ! 王都をサツマイモで火の海にしようとしたのは、貴様らだな! 騎士団長の命により、全員、逮捕させてもらおう!」
「「「「「なにっ?!」」」」」
「バカな! 増援、だと?!」
大司教たちは驚いた顔をしていた。そりゃあ、俺が増援なんか来ないみたいな反応をしていたからなのだが。
いや、俺も驚いているよ。なんで、騎士団がここに?
まぁ、騎士団長というから、ダンガイ騎士団長がなにかしてくれたんだろう。
俺の必死な様子から何か察してくれたんだろうか、あるいは彼独自で何か掴んだんだろうか?
「(まぁ、どっちでも良いや)」
――こうして、守護龍メサイアウト様による勇者イートバニラの故郷を滅ぼそうとした事件は、幕を閉じたのであった。




