第11話 王国親衛隊が来たんだーよ
真っ白な炎によって燃えたのは、村にある倉庫だった。
被害者はゼロ。そもそも普段は物置小屋として使っていているだけで、中には今度王都に持って行く予定のさつまいもが入っていただけで、村の食糧としても問題はない。
ただ、守護龍の怒りの炎が落ちただけ。
「いやぁ~、守護龍様ってばマジで怒っているみたいっすね」
「あぁ、一気に現実味が増して来た」
丁度帰ろうとした俺とユトリエの2人は、村人に混ざって消火に参加。幸い、色以外は普通の炎であったため、村人総出で消火に当たり、倉庫が半壊するだけで済んだ。
王国の守護龍の炎を浴びせられて、誰も火傷なんて負ってない、この程度で済んだのだから幸いと言えるだろう。
村人たちは、ただの魔法使いの暴発程度に捉えているらしい。守護龍メサイアウト様が実際に処罰されるシーンなんてここ50年くらい一回も出された事はないらしく、守護龍メサイアウト様の炎が白で、そしてそれ以外の生物には出せないなんてことは知る由もないだろう。
王都でも、その事を知っているのは少ない。ましてやこんな辺境のド田舎では、知っている可能性はほとんど皆無。守護龍様の炎と考えるよりも、野良魔法使いの暴発と考えた方が自然なのだろう。
あの白い炎が、守護龍メサイアウト様しか出せないという事を知っている俺達2人にとっては、今までのなぁなぁで済ませていた調査が一気に現実味が出て来て怖くなって来たんだが。
ちなみに、俺達が白い炎を吐ける存在が、守護龍メサイアウト様だけと言うのを知っているのは、あの編纂二課での史料調査によってそうだと知っているからだ。確か、一昨年くらいに成果として提出しているので、それを読んだ騎士にとっては分かる問題、という事だろう。まぁ、読んだ人間は本当に数少ないと思うけど。
「しかし、なんだって急に倉庫を燃やして来たんだ?」
「さぁ……?」
その答えを俺達が知るのは、この2時間後――飛竜という、最高の足を持つ王国親衛隊の面々が調査に来た時であった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
――2時間後。王都から、飛竜に乗った王国親衛隊がやって来た。
飛竜と言うのは、人間に飼いならされたドラゴンだ。馬のように、人が乗って飛ぶように躾けられた生き物であり、馬以上に乗るのが難しい上に、飛竜自体の数も限られているから、この国では王国親衛隊の10人だけしか乗れないんだとか。
飛竜から降りてきた10人の親衛隊一行は、テキパキと行動する。3人が燃えた倉庫を確認し、6人が村人たちに事情聴取を行っていく。そして、残る1人はと言うと――
「おやおや? そこに居るのは、ヒョーガッキくんじゃ、あーりませんか?」
ニヤニヤと、嫌な笑顔で俺の方に近寄って来た。
「いやいや、まーさか、まだヒョーガッキくんが騎士をやっていただなーんて。てっきり冒険者に戻っていると思ってまーしたよ」
「それはこっちの台詞だよ、イツザ」
俺がそう呼ぶと、ニヘヘッとイツザは笑いながら、似合わない金髪の髪をサラッと流していた。
こいつはイツザ。俺の知りあい……というか、同じ冒険者パーティーの仲間であった。
数年前、俺とイツザは同じパーティーに所属していたが、冒険者として食っていくことに限界を感じて、騎士になるよう志願した。その結果が、編纂二課の課長となった俺と、見事親衛隊入りを果たしたイツザという訳だ。
「まぁ、なーんで編纂二課のお前がここに居るかは聞かないでやるよ。ところで、お前ん所の――」
「お探しなのは、ボクっすかね? イツザ親衛隊員さん?」
ぼそぼそっと俺に呟くイツザ。その後ろから、ひょいっとユトリエが現れると、イツザのヤツってば、
「ひっ、ひぃぃ! でっ、でたあああああ!」
めちゃくちゃ震えた声を出して、その場に尻もちをついたのであった。
……相変わらず、何故かは分からないが、イツザはユトリエの事が苦手らしい。俺は単にめちゃくちゃウザい後輩程度に思っているだけなのだが、イツザはバケモノを見るかのような目で、ユトリエをいつも見つめるんだよな。うん。
「もう、イツザ親衛隊員さんってば。なんでいつもボクの顔を見る度に、腰を抜かしちゃうんっすかね? ボクってば、こんなにも愛らしい後輩なのに!」
「うっ、うるせぇんだーよ! お前の存在はなんというか、その……怖いんだよ! なんだその太もも! 大根かなにかか!」
「ふふっ! 乙女の可憐な足を、根菜で例えるイツザ親衛隊員さんが悪いんですよ! というか、なんでここにいきなり来たんですか?」
ユトリエの問いに対し、イツザは俺の方をちらっと見て、
「……守護龍メサイアウト様が、またしても直接言葉を放たれたからでーすよ。
『我は守護龍メサイアウト。いまのは警告だ、次は容赦しないぞ』って、あからさまな警告の文章と共に、こちらの村に向かって火炎を放ったーんです。王国親衛隊としては調査しなくちゃいけないでしょーうよ」
と、そう言って、「俺も仕事があるので、これにて」と、他の隊員と同じく、村人への聞き込みを始めるのであった。




