閑話 あたしの世界 後編
割と過激になった感じがするので、苦手な人はご注意ください。
部屋に案内された時、王女様の周りには数人の騎士が立っていた。
今まではこんなことはなかったのに。
何だか緊張する。
「それで兵器風情がわたくしに何の用かしら?」
今まで仲良しだった王女様が、そんなことを言った。
兵器風情って何? なんでそんな怖い顔してんの?
と言いたいことはあったけれど、言えるような雰囲気ではなくて、とにかく訓練のことを言わなくちゃと思った。
「なんで訓練があんなに酷くなったの?」
いつもの調子で答えたら、騎士の一人が剣を抜いてあたしの喉に当てた。
当たっているところがジンジンして、「ひぃ……」と声が漏れる。
「何の用で来たのかなんて、本当はどうでもいいのだけれど、やっぱりその話だったわね。
本当に彼には同情するわ」
彼って誰? 何でこんなことすんの? あたしたち友達だったじゃん。
「なんでって顔をしてるわね。まず勘違いしないでほしいのだけれど、別にわたくし貴女の友達ではないわ。一国の王女をなんだと思っているのかしら?
貴女達はこの国の兵器、この国の道具として呼ばれたのよ。だから、なにもおかしいところはないわ」
「だったら、どうして……」
「どうして最初の60日間は緩かったのか、とでも言うつもりかしら?」
王女様があたしを馬鹿にするように笑うけれど、図星をつかれたあたしは何も言い返せない。
あたし達がこの国の兵器? 確かに魔王と戦うようにとは言われていたけど、どうして兵器なんて、道具なんて呼ばれないといけないの?
あたし達が何をしたっていうの?
「約束だった。自由と安全を守るって約束は、どうなったのっ?」
叫んでも、王女様の表情は変わらない。
「約束? 何の事かしら?」
「だって、最初に王様と……」
約束したじゃん。訓練する代わりに、自由と安全と住む場所をくれるって。
あたし達はちゃんと訓練してきたじゃん。
「そんな約束あったかしら?」
「初耳ですね。これの妄言でしょう。何せ妄言が得意なようですから」
耳を疑った。だってここにいる誰も、あたしのことを信じてくれないから。
今までは皆信じてくれていたのに。ここに来るまでだって、メイドさんから「頑張ってください」って応援されたよ。
おかしい、おかしい、おかしい。
それに絶対に約束はしたんだ。ちょっと前まで約束を守っていたんだもん。
「その約束というのを本当にしたのなら、証拠があるわよね?」
「……証拠?」
「契約書、もしくはそれに類するもの。それもないのに、訴えなんて聞いていられないわ」
「ないけど、ないけど……約束したじゃないっ」
あたしの言葉に王女様が首を振る。まるで子供を相手しているときみたいに、どうしようもない子を見る時のように。
「でも、貴女を兵器にしておくのも今日でおしまいね」
「それって……!」
やっぱり今までの話は冗談だったんだ。あたしは兵器じゃなくて人間だもん。
ここ最近の扱いがおかしかったんだ。
でもちょっと怒っているから、1か月くらいは休みをもらおう。
そしてまた城下町で遊ぼう。その時には愛や佳奈美も一緒に連れて行ってもらえるように言おう。
「ええ、今日から貴女は犯罪者だもの。
国の方針に口を出し、城の使用人を洗脳してクーデターを起こそうとした犯罪者」
「……え?」
「未遂だったから極刑は許してあげるけれど、今日からは牢屋が貴女の部屋ね」
王女様が何を言っているのかわからない。
犯罪者? あたしそんな悪いことしてない。
「その口は面倒ね。だから貴女は王族の許可なく、何かを話すことを禁じるわ」
「……!?」
声が出せなくなった。なんで、どうして?
どれだけ頑張って声を出そうとしても、空気が抜けていくだけで音にならない。
「そのものを捕らえよ。これは勇者達への見せしめ、明日以降兵たちに自由に使わせなさい。
ただし殺してはダメ。これにはまだやってもらうことがあるもの」
「ハッ」
騎士たちが揃って返事をした後、あたしを連れていく。
たくさん暴れたけれどまるで敵わなくて、豪華な布団がある部屋ではなくて、地下にある牢屋の中に放り込まれた。
◇
どうしてこんなことになったんだろう。
誰かに尋ねたくても、声が出ない。
なんだか地獄の底に落ちたような心地だった。だけれど、これくらい全然大したことなかったんだとすぐに思い知らされた。
◇
地獄だった。
いつの間にかやってきた兵士達に引っ張られ、外に出されたかと思ったら、たくさん殴られた。
痛くて痛くて、涙が出てもやめてくれなかった。
クラスメイト達も見ていたのに、誰も助けてくれなかった。
友達だと思っていた愛も佳奈美も目を逸らした。
それから犯されるようになった。
シャワーも浴びていない、汗まみれの兵士たちに乱暴に抱かれた。
体のいたるところに痣ができて、悲しくなった。
同時に何人も相手にした。
終わったと思ったら、また別の兵士たちがやってきた。
クラスメイト達は見て見ぬふりをしていた。
逃げ出そうとしたら、足を潰された。
潰されるとき痛みのあまり悲鳴が漏れた。大きな悲鳴はクラスメイト達にも届いていたはずなのに、誰一人として助けようとはしてくれなかった。
どうして、どうしてあたしだけがこんな目に遭っているの?
あたし悪いことしてないのに。
なんで、なんで……。
やがて考えるのも面倒になった。
こんな世界はおかしい。死んだらきっと幸せになれる。
死んだら地球に帰れるんだ。
だんだんそう思うようになっていた。
◇
どれだけ過ぎたかわからない。
奴隷の指輪の力で話せなくなっていたあたしの喉を物理的につぶされた。
今度こそ悲鳴も上げられなくなった。
適当に回復させたから、二度と声を出せることもないだろうと言われた。
そんなことどうでも良かった。早く殺してほしかった。
地球に帰りたかった。
首輪をつけさせられ、代わりに指輪を外された。
クラスメイト達の前に放り投げられて、騎士の隊長が話し始めた。
「この者を見た勇者も多いだろう。コレはフラーウス王国に歯向かったことで捕まり、罪人となった。
またこれからは、ただの奴隷として売られることになる。
お前らがいかに恵まれているのかを認識して、第2のミカにならぬよう励むように。
それから今の状況を理解できておらぬものが多く、姫が困惑しておられる。
お前らは兵器だ。故に強くならねばならん。弱い兵器は破棄されると思え。
お前らがしばらくの間、人として扱われていたのは、そうせざるを得なかったからだ。そうせざるを得なかった理由を排除したのは、お前ら勇者だ。
その点においては、姫も褒めていたぞ」
話の途中であたしは引き渡された。
フードをかぶった顔のよく見えない人に。
でもこうなると、死ねないのか。死ねないのか……。
城から連れていかれるとき、兵士の一人が教えてくれた。
あたしは高級奴隷の5倍以上の値段で売られるらしい。そして売れなかったら処分=殺されるらしい。
殺されるな、ざまあないなと笑われたけれど、殺してもらえるならそれはあたしにとっては救いだった。





