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 というわけで、作戦決行日は勇者のお披露目日。

 その日は王族全員が一日忙しくしているらしく、魔法の檻への魔力供給はしないという会話を国王と王妃がしていた。

 王妃の方は不安そうな顔をしていたけれど、過去に10年放置しても大丈夫だったという資料を見せられて、やっぱり不安そうにしながらも頷いていた。


 臣下を入れずに相談しているあたり、精霊の居場所を知っているのは国王夫婦とその子供くらいになるのだろうか。

 豊かな生活に慣れてしまった人々にとって、精霊の存在はいわば国の弱点となる。

 だから知る人は少なく、慎重になることに何の不思議もない。


 さて、第一回お城潜入は終わりだけれど、なかなかに楽しめた。


 奴隷商のところにいた津江(つのえ)だけれど、どうやら女木(めぎ)が裏から手を回していたらしい。

 女木はその女子とも見紛うような容姿から、クラスの中ではいじられキャラになっていた。

 特に津江のいたグループからいじられることも多く、やりすぎて市成や月原に注意されていた。もしかしたら、誰も見ていないところでいじめられていたかもしれない、とは思うけれどボッチの僕は深く首を突っ込まなかった。


 そんな女木だけれど、この世界にきて僕と同じく国王に会う前に自分のステータスに気が付いた側の人だったようだ。そうでないと、『魅了』と『詐称』なんてスキルを持っている女木が、注目されないわけがない。

『詐称』を使って当たり障りのないステータスにしていたのだろう。


 で、スキルを知って逃げる――隠れる?――事を決めた女木は、メイドを魅了して城内に隠れ家を作り、王家にばれないように勢力を拡大していった。

 その手伝いをしたのが、もう一人の中立組である磯部(いそべ)国弥(くにや)

 磯部は本が大好きな文学少年。知識量で言えば、クラスメイトの中でも随一だったと言えるだろう。


 どうして協力体制になったのか詳しいことは分からないけれど、女木が磯部を頼るのは間違いではないと思う。


 それから魅了だけれど、人数制限付きかと思っていたら、何度も何度も同じ人にかけると人数制限の枠から外れて常に魅了状態になるらしい。


 何それ怖い。宗教とか作れそう。


 しかも魅了していることがバレないように、少しずつ少しずつ毒を染み込ませるように魅了を使っていったらしく、使われている側はもちろん、その周りにも気づかれていない。


 魅了ではなく洗脳では?


 気が付いたら、国が女木に乗っ取られるのではないだろうか。

 そう思ったけれど、重要ポストの人達は魅了に対する対策を行っているらしく、その下の人を手中に収められるかどうかがせいぜいらしい。


 津江が売られたのも、状況やら何やらが噛み合った結果らしい。


「勇者達に見せしめをするにも、死んで終わりでは開き直る人もいるだろう。何かいい方法はないか?」

「勇者の世界には奴隷はいないとのことです。でしたら散々痛めつけた後、奴隷商に売り払うところを見せるというのはいかがでしょうか」


 担当者とその下の女木の手先が、こんなやり取りでもしたのだろう。

 津江が選ばれたのは、スキルを使って国王に抗議しに行こうとしたかららしいのだけれど、何やっているんだろう?


 女木が津江を売るように手をまわしたのは、元の世界での恨みが原因だとして、早い段階から姿をくらますことを計画していた理由はよくわからない。

 僕がいなかったらいじめられる可能性が最も高かったからだろうか。だから何かあった時に、逃げられる場所を用意していたのかもしれない。

 憶測も混じっているけれど、これが城で女木がやらかしたこと。その行動力には感服する。


 それに比べて勇者組は面白くなかった。朝は日が昇るころから訓練を始めて、日が沈むまで訓練をし続ける。

 休憩はあるし、食事も以前に比べるとランクは落ちたものの、それなりのものを与えられている。

 内容は少しのミスで叱責され、油断を見せれば即座に蹴られる、みたいなスパルタなものではあるけれど、大怪我をすることもない。

 それでも勇者達が憔悴しているのは、見せしめが効果を発揮しているからだろうか。





 貴族区画から一般区画に戻ってきたけれど、本当に簡単に出られた。

 それこそ門番に一瞥されたくらい。「ご苦労様です」と声を掛けたら、笑顔で送り出してくれた。


 城にいたのは数日だけれど、その数日で一般区画の活気が何倍にも大きくなっていた。

 何があったんだろうかと思ったら、勇者のお披露目があることが発表されたらしい。

 内容は「近年目に余る魔王国を討つため、神が派遣くださった勇者のお披露目」とのことだ。


 勇者は人々の希望ではあるけれど、平和な世の中においては無用の長物。

 むしろ勇者が現れた=世界の危機、と言う風潮すらあるので、魔王国が原因だとはっきり知らしめておくことで混乱を防ぎたいのだろう。

 この国の人にとって、魔王国は存在そのものが悪みたいなところがあるから、反発されることもなくまるで祭りのように盛り上がっているわけだ。


 自分たちで召喚しておいて、神の名を騙るなんて大胆不敵も良いところだけれど、当の神様はおそらく「ふーん」くらいの関心しか持ってないと思う。


 神様は良いとして、確かフラーウスの南西方面に宗教国家があったと思うのだけれど、大丈夫なのだろうか。裏で手をまわしているとは思うのだけれど、

 一度教会に潜入してみるのも面白いかもしれない。

 意外と話が通っていなくて、お怒りかもしれない。神様に見捨てられた世界の宗教国家にどれほどの力があるかは知らないけれど。


 見捨てられた事実すら知らないだろうから、かなり力を持っている可能性もある。


 それよりもまず、どうにかしないといけない案件が1つあったなーと思い出しながら、宿屋に戻ることにした。

次回か次々回かまた閑話を書きたいですね。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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