小話 なぜ通山誠は『契約』のスキルを得たのか
電子書籍化の記念投稿のラスト。
今日は中途半端な時間に設定資料的何かも投稿しましたが、こちらは別に読まなくても大丈夫だと思います。見辛いと思うので。
たびたび聞かれることのあった真の過去についての小話です。
何故閑話ではなく「小話」なのかといえば、内容がないからです。
本編にいれるほどの内容でもないかなと思っているので、今まで語らせなかった部分ですね。
「人は群れることでその地位を獲得した代表的な存在だと思うのですが、フィーニス様は生前どうして孤独だったのですか?」
ある日ルルスにそんな事を聞かれた。
相変わらず人に対しての当たりが強いけれど、言いたいことはわかるし、発言自体も否定は仕切れない。
この世界では少し当てはまらない部分もあるけれど、地球の話をすれば、人間は単独ではさほど強い存在ではないだろうか。
だからこそ村を作り、町を作り、国を作って覇権を握ったのかもしれない。
ともあれ、誰も訪れない無人島とか森の奥とかで、自給自足でもしていない限り、誰にも頼らずに生きていた人はいないんじゃなかろうか。
「覇権を握ったからこそ外敵がいなくて、人の中で孤立しても生きていけるんですよ。だから孤独でも。何の問題もなかったはずなんですけどね」
「そうなのですか?」
似た顔をしたルルスが不思議そうに首を傾げる。
いまは人の姿をしているとはいえ、人ではないルルスがその辺を理解するのは意外と難しいのかもしれない。
「暇だから話しますが、楽しいものではないですよ。
子供っぽい……精神的な幼さを捨てきれなかった、残念な少年の話ですから」
「でも話すんですね」
「暇ですからね」
そもこの世界において、僕がやっていることはおおよそ暇つぶしだ。
それに通山時代の話をしても、今更羞恥心もない。
どのような罵詈雑言に対しても「せやな」と返してやろう。
むしろ「せやな」としか返せなくて閉口するかもしれない。
天丼は3回までらしいし。
「昔々、10才にも満たない通山少年は、母親とした約束を破ってしまいました。
門限を破ったんですね。17時の門限を破って18時に帰りました。
そこで母親にしこたま怒られたわけですが、さっきまで楽しく遊んでいた通山少年はふてくされてしまいます」
こうやってするりと思い出せるのは、それだけ重要な記憶だったからだろう。実際そうではあるし、悪いことはなかなか忘れられないと言うのもあるかもしれない。
なんだかんだ、怒られた記憶なのだから。
「そんな少年を見た母親は、なぜ門限があるのか、約束を破るというのはどう言うことなのかを少年に説きました。
小学生になったばかりの子供に『信用が云々』と説いてどうしたかったんですかね。本当に」
「小学生とはなんですか?」
「物事を教わる子供と思っておいてください。子供は学校に通うというのが一般的だったんですよ」
ルルスが気にするとは思えないけれど、学校に行っていた=上流階級なのでは? みたいなお約束な勘違いをさせる気はない。
「要するに幼い頃みたいな意味合いですね」
「そうです」
「その言葉がきっかけで孤独になったんですか?」
「もう少し蝶々に羽ばたいていてもらいます」
「蝶々……ですか?」
再び首を傾げるルルスを無視して、先に進める。
バタフライエフェクトとか、風が吹けば桶屋が儲かるとか、そういった言葉はこの世界にはないのだろうか?
あったとしても言い回しが違うか。
「母親の言葉をそれなりに受け止めた少年は、出来るだけ約束は守ろうとするようになりました。そこに信頼やら何やらは意識していなかったと思います。
ですがある日、母親が少年との些細な約束を破りました。それに憤慨した少年に事もあろうか、母親は軽く謝っただけで済ませてしまったのです!」
大げさに言ってみたけれど、別に珍しい話ではないだろうし、不義理だとも思わない。内容は何だったか、お手伝いしたお駄賃代わりにお菓子を買ってきてくれるとか、そんなことだったように思う。
でも、まあ。幼い頃だと衝撃だったわけだ。
小さい頃は、大人は何でも出来ると思っていたし、いわゆる大人だと思っていたから。
「その日以降、自分だけは絶対に約束は破らないと心に決め、少年の中で約束という存在が大きくなり、何よりも約束を大事にする人間になりましたとさ。チャンチャン」
ここで約束を蔑ろにするようになる人もいるだろうし、特にそれまでと変わらないという人もいるだろう。
そんな中でかつての僕は意地になって、自分だけはこんなふがいない人間になるもんかと、約束を絶対視するようになったと。そんな感じだったと思う。
「だから『契約』のスキルを得られたのですね。それほどまでに、約束に執着していたから。
ですが、それほどになるようなお話でしたか?」
確かに今の話でそれがスキルになるほどになるのかと言われると、僕でも疑問に思う。何せどう転ぶかわからないところで、たまたまこの方向に転んだだけのようにも見えるから。
だけれど、実際スキルになるまでに執着したのが目の前にいるのだから、諦めて認めてほしい。
人間、本当にちょっとしたことで、人生が変わることなんてあるのだ。
そんなことで? と思うことだって少なくない。だからこそ。
「それが人と言うものだと思いますよ」
「度し難い……難しいですね」
「度し難いで、別に良いですよ?」
「わかりました。ですがそれは孤立した理由にはなっていないですよね?」
「そのあとも、なんかこう、子供っぽかったんですよ」
「話が一周しましたが、飽きました?」
「何とも大したことなくて、運が悪かっただけの話なので話す気なくなりました」
「ひとまず、ここまで話していただいてありがとうございました。
ここから見えるあの山の向こうに、大きな渓谷があったと思うのですが、暇なら見に行きますか?」
「良いですね。案内してください」
少なくとも、このまま話をつづけるよりも楽しそうだ。
改めてになりますが、これで電子書籍版の配信記念投稿は終わりです。
1週間ほどでしょうか、お付き合いいただきありがとうございました。
ということで、電子書籍版をよろしくお願いします。





