閑話 ズィゴスとそれぞれのその後1 ※ズィゴス視点
「クラスメイトに殺された時、僕の復讐は大体達成された」の5月29日から配信(電子書籍販売)決定記念の番外編的なものです。
取り合えずズィゴス視点で世界崩壊まで、毎日更新で書いていこうかなと思っています。
自分たちの世界ではどうしようもない問題にぶつかったとき、他の世界の存在を呼んで力を貸してもらう。
そうしなければ、何十万、何百万の人が死んでしまうかもしれないのだから、仕方がない。むしろそうして呼び出された存在は救世主であり、誉なのだと教えられてきたし、考えてきた。
事実僕の世界はかつて異世界から呼び出した救世主が世界の敵を倒し、その子孫が世界を平和に導いてきたのだ。
だけれどそれが自分に向いたとき、自分はそんなに高潔ではいられないことを知った。
勇者として呼び出され、魔王としてこの地に立つ前、僕は勇者の子孫として、自分の世界で人々の生活を脅かしていた魔物の王を倒したばかりだった。魔物との戦争を少なくない犠牲でようやく成し遂げ、平和な世界が訪れたばかりだった。
壊れた街を直し、犠牲になった人たちに花を手向け、今から前を向いて新しい時代を作っていくのだと思っていた。
敵の大将を討った僕にはやるべきことが残っていたし、やりたいと思っていたことがたくさんあった。
それなのに、僕は異世界に拉致されてしまった。
同時に魔王に作り替えられ、この世界の現状について理解してしまった。
もうすぐ崩壊する世界に連れてこられてしまった。
世界の崩壊は当然僕の死であり、僕の寿命になる。
今更この世界で何をしても遅く、呼び出された意味などないに等しく、要するに僕は死ぬためだけにこの世界に呼び出されたも同様だ。死刑宣告をされたかのような絶望が襲ってくる。
ズィゴスに選ばれたことは幸いだった。
そうでなければこの事実すら知ることもなく、何もわからないままに呼び出した国の言いなりになっていた可能性がある。
何も知らぬまま、最後の時を迎えていたに違いない。
それに今世のズィゴスがこの世界の人を殺すことが目的だったこともまた、救いだった。
僕が行う復讐は、八つ当たりは、この世界に認められたことだと胸を張って行うことができる。
そう言えてしまう自分は呼ばれる前――ズィゴスになる前とは、別の存在になってしまったんだなと思わなくもない。
それから別の世界の人に対する憎しみが湧かなかったことは、幸運だったといえる。
元の世界で一緒に戦った仲間たちを理由もわからないまま恨むようなことになれば、終に僕は僕ではなくなってしまっていただろう。
僕を呼び出し、この世界の寿命を縮めた愚か者はすでに殺した。
でも近くにはたくさんの憎い存在が跋扈している。
ズィゴスの使命とも矛盾しないから、まずはこの国を無に還そう。
僕を呼び出したということがどういうことか、最後の一瞬まで恐怖に怯えて消えてもらおう。
やると決めたので、この世界に来た時から持っていた大剣を縦に大きく振るった。
壁が切れ、天井が切れ、大きな音を立てて今いる建物――おそらく城――が崩れはじめる。
これで何があったのかまでは理解できずとも、人々はこの国で何かが起こっていることは理解するだろう。
体の方は違和感はない。特別運動能力が上がったわけでもない。
僕に与えられたのは、この大剣とこの世界のなにものも受けつけない身体だけだ。
変に身体能力をあげられても持て余しそうだから、これでいい。
「王よ……! これは……貴様の仕業か」
派手にしてしまったせいか、騎士たちが集まってきた。
崩れ行く城の中、国王の安否を確認しに来たらしいけれど、血に沈んだ男の姿を見てこちらに武器を向けてきた。
そんなことをしている暇はないと思うのだけれど、と思って改めて彼らを見てみれば、背中から羽が生えている。
なるほど、飛べるのか。
だとしたらこの城の崩壊まで耐えたら、飛んで逃げたらあちらの勝ちだと。
綺麗に切ったから案外持ったけれど、さすがにもう無理そうだ。たったの数秒待てば向こうが勝ちと考えると、悪くない勝負なのかもしれない。
さて崩れるまで、3・2・1……。
動かない僕に不思議な顔をしている人もいたけれど、轟音を響かせ足元がなくなっていく中、逃げ出すために皆走り去っていった。
何しに来たんだろうか? 国王を助けにか。生きていたら、連れて飛んで逃げたのだろう。
実はさっきの短い間に、あの騎士たちは全員殺れたと思うのだけれど、それだと呆気ないので逃がしたのだ。
今日から世界が崩壊するまでに可能な限り人を排除しようと思うと「呆気ないから」とか考えている暇はないのだけれど、この国だけは別。
できるだけ苦しんで死んでほしい。自分たちのトップがやらかしたことの責任を取ってもらいたい。
床はとうになくなり自由落下する中で、そんなことを考える。
この建物の崩壊に巻き込まれた程度で僕に対したダメージは与えられないし、そもそもズィゴスとしての力のせいで、落下以外のダメージはなさそうだ。
地面に到着したところで、邪魔な瓦礫を適当に投げる。
投げると同時に悲鳴が聞こえてくるけれど、気にせずに何個も何個も投げる。
ようやく外に出られた時には、武器を持った人たちに囲まれていた。
「貴様は何者だ?」
「んー、魔王かな」
「はっ、魔王だと? 冗談はほどほどにするんだな」
ゴテゴテした、値段だけは高そうな鎧を着た人が馬鹿にするように話す。
どんな世界にもこんな人はいるらしい。
城の崩壊に巻き込まれて無傷な人が、ただの一般人なわけあるまいに。
まあこれだけいれば、恐怖を植え付けるにはうってつけだろう。
こちらに向けられた無数の槍を無視するように前進すれば、声をかけてきた鎧が「馬鹿め。かかれ」と号令を出す。
号令とともに「うおおおおお」と声をあげながら、20人くらいが走ってきた。
やがて僕に届いた槍は、僕の薄皮すら傷つけることなくぴたりと止まった。
驚く兵たちが動き出す前に大剣を真横にふるう。
大剣と接触した槍が切られるでもなく、折られるでもなく、消え去った。
唖然とする彼らにもう少し近づいて、もう一度同じように切りつける。
今度は腕に当たるように。
剣にあたった腕はやはり消えていく。人によっては、腕どころか身体ごと消えた。
最初からそこにいなかったように、まるで夢でも見ていたかのように。
普通なら死んでも死体は残る。死体も残らないような状況でも、痕跡は残る。
だけれどこの大剣に切られた人は、何も残さずにいなくなった。
本当はそこまでするつもりはなかったのだけれど、どうもまだこの大剣の使い方が完壁ではないらしい。
それは今から掴んでいくとして、あまりのことに黙っている人たちに向けて何か言ってあげることにしよう。
「僕は魔王。今からこの国を亡ぼすから、覚悟しておいて。誰一人逃がすつもりはないからね」
宣言と同時に人々が悲鳴を上げながら逃げていく。
自分だけでも助かるんだと、四方八方に走っていく。飛んでいく。
走ればすぐに追いつけるけれど、今回は速足程度で追いかけることにしよう。
追いつかれたら存在が消える鬼ごっこの始まりだ。
電子書籍版のなんやかんやは、配信日以降に説明等させていただきます。





